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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-6 他人思いな少女の、たった一つの願い事
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1 ぴょこんと飛び出た角ったら角


 穴の中は、障害物も、砂粒一つもない、ただただ真っ白な空間でした。

 

 この空間に、劉生君は覚えがありました。いえ、リンちゃんや吉人君、みつる君や咲音ちゃんにも覚えがありました。


 エレベーターからミラクルランドに行くとき、ほんの一瞬、一回の瞬き程度ですが、まず真っ白な世界を経由するのです。


 そう、まるで古いゲームの場面転換時、ローディングを行うかのように。


 その世界と、同じ空気を感じます。


 違うとしたら、ミラクルランドに行くときよりも、ここにいる時間が長いことでしょうか。


 しかし、それでも、時間としたら、わずかですみました。


 何か見えない膜のようなものを突き破ると、真っ白だった世界から、絵の具の青をめちゃくちゃに塗りたくったような、歪な空間にたどり着きました。


 青い気味が悪い空間に浮かぶのは、大量の時計です。


 アラビア数字の時計、漢字の時計、水のように溶ける時計などなど、現実ではありえない時計が、ふわふわと雲のように漂っています。


 劉生君以外の子供たちは「なんだここは」と言わんばかりに、辺りを見渡します。けれど、すぐにそんなこと気にならなくなりました。


 中に入った衝撃か、それとも時計塔の魔力のせいか、劉生君はドラゴンの変化がとけてしまったのです。


「わ、わあ!?」


 落ちる……!


 そう思って、おびえる劉生君たちでしたが、劉生君含め、背中に乗っていた子たちは、そのまま落ちてしまいはしませんでした。まるでパラシュートでもついているかのように、優しく落ちていったのです。


「よ、よかったあ」


 ほっと一安心してから、劉生君はペタペタと身体を触ります。怪我はありませんが、普通の姿になってしまい、ちょっと残念そうです。


「解けちゃったよ。橙花ちゃんにも見せたかったのに……」


 不満そうに唇を尖らせて、みんなの方を見ます。


 すると、どうしたのでしょうか。リンちゃんたちはぽかんと口を開け、劉生君を、正確にいうと劉生君の頭を凝視していました。


「……?」


 後ろを見てみました。


 時計塔にあいた穴は、徐々にふさがっていっています。王の技といえども、ずっと開いてくれるようではありません。


 とはいえ、橙花ちゃんを説得するまで、戻る気はありません。


「ふさがっちゃったけど、これもこれ! えーと、こういうのなんて言うんだっけ。灯台下暗し? じゃないな。はい、はい、排水溝? 排水溝の陣? なんだっけなあ。まあ、そんな感じだからね!」


 いまいち締まりは悪いですが、劉生君自身は、かっこいい言葉を言えたなあと自己満足に浸っていました。


 けれど、みんなは何の反応もしてくれません。


「……??」


 どうやら違うようです。


 なら、一体どうしたのでしょうか。


 劉生君はおそるおそる尋ねてみました。


「えっと、みんな、何を見ているの?」


 教えてくれたのは、みつる君でした。


「あのね、赤野っち。……慌てないで、冷静になって聞いてくれる?」

「うん」

「……角が生えているの」

「角? どこに?」

「……赤野っちの、頭に」

「僕の頭に? そんなわけないじゃん! 角なんて、生えているわけが……」


 咲音ちゃんにそっと手鏡を見せてもらいました。


「あれ!? 生えている!!! 生えているよ!!!???」


 生えていました。しっかり生えていました。二本も生えていました。


 頭の上には、牛の角が生えていました。魔神に生えていたものと同じ角ですが、魔神の角と比べると小さく、よく見ないと見逃してしまいそうです。


 橙花ちゃんの鹿の角と同じく、角は実体がなく半透明なものですので、劉生君がいくら触ろうとしても、取ろうとしても、すっ、と手をすりぬけてしまいます。


「うー、なんだろう、これ。魔神さんに力を貸してもらったときに、角もついちゃったのかな……。それなら、もう少し大きい角が良かったなあ」


 劉生君は大きくため息をつきました。


 それもいいじゃん、かっこいいよ、とリンちゃんたちが慰めようとしましたが、彼女たちが言葉を発する前に、誰かの声がしました。


「ここまで来るとは思わなかったよ。さすがだね、劉生君」


 久々に聞く声です。


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