9 主人公チート回です! やっぱり主人公は強くなきゃ!
劉生君が落ちてしまった後、魔物たちと対峙するリンちゃんたちはというと、大苦戦をしていました。
王たちは何とかして魔物を退けようとしますが、数で押す魔物たちに成すすべもなく、じりじりと退却を強いられています。
子供たちも、王の背中に乗り、彼らの補助をしますが、単純に魔物も強いですし、特にリンちゃんは劉生君のことが気がかりで、戦闘に集中できていません。
「道ノ崎さん、下ばかり見ていると危ないですよ!」
吉人君が大声で注意すると渋々顔を引っ込みますが、それでも少し経つと、また下をのぞきこみます。
劉生君のことが、心配で心配で 仕方ないのです。
あんなところに落ちて、怪我をしていないか。もし無事だとしても、魔物たちの攻撃に巻き込まれてはないかと、不安がっていました。
劉生君のことで頭一杯で、リンちゃんは、魔物の動きを読めていませんでした。
魔物たちはピタリと動きを止めると、片角を輝かせました。
『っ、来る!』
王たちはいっせいに退去します。ザクロも避けようと走りますが、急に動いたせいでしょうか、背中に乗るリンちゃんが、ぐらりとよろめき、
「あっ、」
ザクロの背中から、転げ落ちてしまいました。
『なっ、』
「み、道ノ崎さん!?」
「きゃ、きゃあああ!!」
ザクロが慌てて回収しようと宙を蹴りますが、遠くに逃げてしまったため、リンちゃんを助けにいくには間に合いません。
リンちゃんは、魔物たちを見ます。
しかし、もう魔物の姿は見えません。リンちゃんの視界に映るのは、青い青い光だけです。
いえ、青い光だけ、でした。
光が接近し、リンちゃんをに襲い掛かる刹那、リンちゃんの目の前に、真っ赤な何かが横切りました。
次の瞬間、リンちゃんは空を飛んでいました。
「……え?」
リンちゃんはぽかんとして、下を見ます。
「え、ええええ!!!」
真っ赤なウロコに、トカゲみたいな尻尾、コウモリのような翼を持つ動物が、リンちゃんを背中に乗せて飛んでいるのです。
なんだこれはと呆然とするリンちゃんに、その生物は、るんるんで話しかけてきます。
「よかった、間に合って!! リンちゃん、怪我はない?」
聞き覚えのある、子供らしい声に、リンちゃんはおそるおそる尋ねます。
「もしかして、……りゅ、リューリュー?」
「うん!! えへへ、どう? かっこいいでしょ!」
劉生君、基、ドラゴンはガオガオと嬉しそうに吠えます。
「かっこいいってか、なんというか、ど、どうしてそうなっちゃの!?」
「未来の僕に力をもらったんだ!」
「……ごめん。何言っているか分からない」
「実はね、魔神さんは未来の僕なんだよ!」
「もっと訳分からなくなったわ! 何がどうなったらそうなるの!?」
とんでもなく端折った説明をする劉生君に、混乱するリンちゃん。はてなマークが飛び交いますが、悠長に説明している暇はありません。現に、魔物たちが突進やムチの攻撃を繰り出してきました。
「こ、細かい話はあとにしましょう!」
「だねだね! よーし、倒しちゃうぞ!!」
劉生君は大きく息を吸うと、思いきり吐き出しました。ドラゴンと言ったら、炎。炎と言ったらドラゴンです。劉生君も息とともに、灼熱の炎を放ちました。
その威力の凄まじいこと!
魔物たちは火に飲まれ、次々と倒れていきます。
青い角を振りかざして、劉生君を攻撃しようとする魔物もいましたが、今や鉄壁のウロコを持つ劉生君。魔物の攻撃なんて屁でもありません。力も中々なものですので、ちょいちょいと尻尾を振ったら、魔物が弧を描いて吹き飛んでいきます。
「これで止めだ、おりゃああ!!」
劉生君の頭に生えていた牛の角が、煌々と輝きました。翼を目一杯広げて咆哮すると、真っ赤な光のビームが魔物めがけて放たれました。
あまりの輝きにリンちゃんはぎゅっとドラゴン、あらため劉生君にしがみつき、目を固く閉じます。
光が収まり、リンちゃんがおそるそおる瞳を開くと、
「ま、魔物が……」
最後の一匹が、ゆらりと地面に倒れ、青い光の粒子となりました。劉生君はその真っ赤に光る眼を凝らして、じっと、魔物が復活しないかどうか観察しました。
どうやら、劉生君の心配するようなことはないようで、それ以降、魔物は一匹たりとも出てきませんでした。
劉生君はほっとして、翼を閉じて地面におりました。