表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-5 自分勝手な青年の、たった一つの願い事
253/297

7 魔神の目的


「俺はな、リンちゃんたちを助けに来たんだ」

「……助けに……」

「俺の世界のリンちゃんたちは、みんな死んでしまった」


 淡々と、魔神は告げます。


「俺は、何もできなかった。ミラクルランドに残ると言ったみんなを、説得できなかった。そもそも、ミラクルランドに行けなかったんだ。いくら願っても、エレベーターは反応してくれなかった」


 劉生君の頭によぎったのは、リンちゃんたちを助けようとミラクルランドに行こうとしたのに、エレベーターが連れてってくれなかった、あの時のことでした。


 あの時の驚愕と、怒り、絶望は、忘れることができません。苦しい思い出に胸が痛み、唇を噛み締めます。


 魔神はちらりと劉生君の様子を見て、話を続けます。


「お前のときは、俺の手助けもあって、ミラクルランドに来れるようになった」

「……あっ、鏡に映ったのって、魔神さんだったんだ」


 自分のことでいっぱいいっぱいで、しっかりと鏡を見ていませんでしたが、今にして思えばミラクルランドに来る前、鏡に映っていた人影にどことなく似ていたような気がします。


「ああ、そうだ。だが、俺は誰の助けもなかった。何度繰り返しても、ミラクルランドに行けなかった。そのせいで、……みんな死んでしまった」


 魔神はぎゅっと手を握ります。俯いていますが、涙をこらえているような、そんな雰囲気がしました。


 けれど、それも勘違いかもしれません。顔をあげると、つくり物のような無表情でしたから。


「だが、俺はそれでもミラクルランドへ行こうとした。もしかしたら、ミラクルランドにいけば、リンちゃんたちを助け出せると思ったんだ」


魔神は肩をすくね、自嘲の笑みをこぼす。


「実際には、俺は過去に遡ってしまった。理由はわからないが、リンちゃんたちを救いたいという願いを、ミラクルランドなりに叶えたんだろう」

「……それじゃあ、過去を変えて、リンちゃんたちを助けようって思ったの?」

「ああ、そうだ。そのために、俺はお前をここに導いた」

「へ? そうなの」

「ああ。どうやら苦戦しているようだったからな。あの魔物の乱暴な攻撃を利用させてもらった。あのままやられてしまったら、目的を果たせない。特別に、お前に力を与えてやろう」

「ええ! いいの!? ありがとう!」

 

 魔神に乗っ取られていた劉生君は、彼の力がどれほど強いのかは身に染みて理解しています。


 あの力があるなら、あの魔物たちも一網打尽です。無邪気に喜ぶ劉生君に、魔神は「だが条件がある」と釘をさします。


「お前がしっかりと役目を果たせると誓うなら、力を与えてやる」

「役目って、リンちゃんを助けることでしょ? なら問題ないよ! やるやる!」

「それだけではない。お前の役目は二つ。リンちゃんや吉人君、みつる君や咲音ちゃんを助けること。そして、もう一つ」


 魔神は怒りを目に宿し、こう言いました。


「蒼を、殺せ」


 たった一言ですが、彼の言葉には、底知れぬ憎悪と剥げ激しい憎悪が込められていました。


「あいつさえいなければ、お前の友達みんな助けられる。いいか。あいつを殺せ。蒼を殺せ」


 まだ十歳になっていない小さな子供だった魔神は、大切な友人を四人も失ってしまいました。


 彼は自責の念に襲われます。


 あのとき、リンちゃんを止められていたら。


 あのとき、吉人君を説得できていたら。


 あのとき、みつる君を分かってあげていたら。


 あのとき、咲音ちゃんに寄り添えていたら。


 それと同時に、魔神はある思いを抱きます。


 なぜ、あの子は、片角のあの子は、みんなを死に導くような真似をしたのか。あの子なら、みんなをミラクルランドから返すこともできたのに。


 どうして。


 どうして。


 どうして。


 裏切られた、という思いは、いつしか、憎しみに代わっていました。


 あの子さえいなければ、みんなは死ななかった。


 あの子さえいなければ、みんなは幸せになれた。

 

 あの子さえいなければ。


 あの子さえいなければ。


 魔神は、深く昏い、真っ赤な目で劉生君を睨みます。


「蒼を、殺せ」


 彼の条件に、劉生君は、こう答えました。


「嫌だよ」


 悩むそぶりもありません。


 あっさりと、返事をしました。


 あまりにも澄んだ答えに、魔神は呆然と立ち尽くします。劉生君の言葉の意味を理解した途端、彼は怒りのあまり顔をゆでだこの様に赤くしました。


「何を言っているっ! お前、あいつが何をしたのか忘れたのか!」

「んー、まあ、喧嘩はしちゃったし、まだ仲直りはできてないけど、それでも、友達だからなあ」

「……だったら、俺はお前に力を与えない。あの魔物たちはかなり強い。俺の力なしではは、確実に負ける。それでもいいのか」


 呻るように言いますが、劉生君はこくりと頷きます。


「いいよ。だって、僕はみんなを元の世界に連れて帰りたいから、ミラクルランドに来たんだもん」

「……」

「なら、話は終わったてことで、早く上に戻してよ。あの魔物たちと戦わないといけないからね! それとも、もしかして上にいくつもり? だったら、僕が止めるよっ!」


 劉生君は新聞紙の剣を構えます。ここからバトル開始ですと、もしかしたら上の戦いに間に合わないかもしれません。


 するなら早く戦おうよ、と目で訴えます。


 ところが、魔神は動きません。戦う体勢も整えず、頭を抱えます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ