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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-5 自分勝手な青年の、たった一つの願い事
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4 いい勝負をする子供たち+魔王集団! その裏に潜むは、あの子なのか、それとも……?

 リオンは舌打ちをします。


『全く、時計塔ノ君め。面倒なものを用意してからに』


 みつる君は不安そうにリオンや、他のみんなを見渡します。


「けど、どうするの? あんなの、すぐに倒せないよね」


 それに、時計塔の中には橙花ちゃんがいます。もしかしたら橙花ちゃんが何かしらの妨害をしてくるかもしれません。


 子供たちや王様たち、ザクロまでもが躊躇する中、一人、劉生君だけは違います。


「やるっきゃないね! 皆で力を合わせたら、どうにかなるよ!」

「リューリューったら、ほんと勢いだけよね」


 リンちゃんはふふっと微笑みます。気づくと、張り詰めていた緊張も和らぎ、目の輝きも戻りました。


『だとすると、指揮官はこのワタシ、レプチレスに任せてくれ。ついでに、鐘沢吉人にも手伝ってもらおうか』

「僕、ですか? ……確かに、僕は足手まといですからね」


 少し落ち込む吉人君ですが、レプチレス社長は不愉快そうにシューシューと舌を出して怒ります。


『違う。そんな理由でワタシの手伝いを頼むわけがない』

「え、では、どうして……?」

『お前がワタシの土地を占領していた時、なかなか上手にみんなを従わせていたからな。それを認めて、ワタシの手伝いを頼んだんだ。それを足手まといと言うなぞ、失礼だ』

「僕が、上手に……?」

『ああ。指導者向きかもな』

「……そんなこと言われたの初めてですが。その、……ありがとうございます」

『礼は、あの魔物に勝利を挙げてからだ』


 レプチレス社長はごそごそと吉人君の荷物をあさり、イヤホン(ブルートゥース機能付き)を皆に渡します。


『レプチレス社作成のイヤホンだ。遠くからでもワタシたちの指示を聞くことが出来る。今回は緊急事態だから、半額の値段で貸し出してやろう』


 ギョエイは『有料なんだね……』と苦笑しながらも、受け取ってくれました。ほかの王も渋い表情を浮かべつつ、耳にあてます。


 準備はできました。


 魔物は前足で軽く地面を蹴り、青いムチを飛ばしてきました。レプチレス社長は、吉人君に持たせたトランシーバーに、声を吹きかけます。


『みんな、散って』


 一言も発さず、王と、王の背中に乗った子供たちは散り散りになりました。


 吉人君は予めレプチレス社長に指示されていた安全な(社長曰く、『見通しがよく、さらに魔物があそこまでわざわざ攻撃を仕掛けてこない』)場所に逃げます。


『まずは、トトリと鳥谷咲音。攻撃お願い』

『了解』「了解です!」


 トトリは魔物の背後にまわります、


『飛ばされないように、ワタシに捕まっていてくれ』

「分かりました!」

『よし、<暴風>、<暴風雪>っ!』


 激しい風と雪が魔物に襲い掛かります。魔物は悲鳴をあげ、ぐるりと振りかぶます。トトリを落とそうと前足をあげます。


 イヤホン越しに、吉人君が指示を出してきました。


「鳥谷さん、毒を持つ生き物を召喚してください」

「ええ、分かりました! 毒と言えば、この子ですよね。痛い思いさせるけど、ごめんね。おいで、わたくしの大好きな子、<トラフグ>っ!」


 ぷくっと膨れたお魚が浮かんでいます。魔物はトトリたちを攻撃する勢いのまま、問答無用で叩き潰しますが、フグが消滅する寸前、猛毒を残していきました。


 毒は、魔物にも効いたようです。びくりと身体を痙攣させると、魔物はうめき声をあげました。


 青い光で反撃することもなく、うずくまったまま動きません。


 イヤホンの向こう側で、レプチレス社長が感嘆の声をあげます。


『うん、なかなかいい指示だね。次はリオン、出来るだけ接近して攻撃して』

『了解』


 リオンは軽く舌打ちをします。


『あの小娘のあとにオレを出すとは……。なめられたもんだ』

「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」


 リオンよりは子どものはずですが、みつる君はずっと大人らしく宥めます。


 文句を言いながらもリオンは素早く駆け出し、魔物のから出るムチを伝います。


 魔物は嫌そうに手で払おうとしますが、毒による痺れのおかげで動きが緩慢になっています。


 リオンの持ち前の素早さもあり、一度も当たることも、掠めることもなく、魔物の首元に接近しました。


『食らえ、でかぶつ。<ハイ・ブレッド・プレッシャー>っ!』


 刺々しく燃える炎が魔物に直撃し、魔物はもがきます。


『ふん、攻撃はそれなりだが、案外もろいようだな』


 鹿の角は相変わらず青々と輝いていますが、それ以外の体は段々と薄れています。


 とはいえ、どんな生き物も致命傷を受けると、もがき足掻くものです。


 この魔物も、例外ではありませんでした。


 毒を受けているにも関わらず、魔物は無理やり体を動かし、青く輝く角を振りかぶってきました。


 魔物には脆いと嫌みを吐いていたリオンですが、そういっている本人が一番脆い体をしています。


 ましてや、あの角は魔力の塊です。掠めただけでもひとたまりもありません。


 さらに、あの微妙な位置では、どんな技を使たとしても、逃げ出すことができません。


『あのおっさんがっ!』


 仲の悪いトトリでさえも、助けに行こうと方向転換をします。けれど、レプチレス社長は制止します。


『ストップ、トトリ。あの二人は助けに行かなくてもいい』

『けど、』

『その通りぞ、小娘』


 リオンの誇らしげな声が、響きました。どうにかして逃げることができたのかと思いましたが、全くの逆です。


 リオンは避けることもせず、宙に浮いていました。そのまま技を出すこともなく、魔物の直撃を受けてしまいました。


「り、リオンさんっ! みつる君っ!」


 咲音ちゃんが叫びました、が、


「大丈夫だよー、咲音っち」


 のんびりとした声色で、みつる君が応えました。みつる君はリオンの背中に乗ったまま、そしてリオンはというと、


『お、おお! すごい!』


 ギョエイが目まん丸にさせます。


『あの魔物の攻撃を受け止めているっ!』


 その通りです。一発さえ攻撃を当てれば問答無用で倒れてしまう、とんでもなく脆いリオンだというのに、魔物の突進攻撃に耐えているのです。


 いったい何をしたのでしょうか。


 答えは、リオン自身が教えてくれました。


『しかし、牛乳を飲んだだけで、ここまで頑丈になるとは。中々面白い技を使うな』

「いやいや、リオンさんの元の力が強いおかげだと思うよ」


 リオンはみつる君の技、<レッツ=クッキング>で牛乳を呼び出しました。牛乳といったら、骨が頑丈になる、栄養満点、お母さんも先生も近所のおばさんもにっこりな飲み物です。


 皆さんが生きる現実世界ではそれだけですが、ここ、ミラクルランドでは防御力を飛躍的に高める不思議な飲み物になっているようです。


『さあ、仕返しをしてやろうか』


 リオンはにやりと笑い、魔力をためます。


『オレと戦う愚かさを、しかと身体に焼き付けろ。<メタボリックシンドローム>っ!」


 リオンの前足が大きく膨れ上がりました。さらに、リオンは技を重ねます。


『<ハイ・ブレッド・プレッシャー>』


 爪が赤黒い炎に包まれます。


 <ハイ・ブレッド・プレッシャー>は、呪いを込めた攻撃です。ありったけの魔力をこめて、リオンは魔物をひっかきます。


 魔物は痙攣するように体が震え、うめき声をあげます。呪いがきいているようです。


『ふん、どうだ』


 リオンは嬉しそうに尻尾を振ります。


『リオンのおかげというより、林みつる君のおかげでしょうに』


 レプチレス社長は嫌味をはきますが、リオンは聞き流します。社長も社長で、特に返事を待っていたわけではありませんでしたので、すぐにまじめな声色に変わります。


『大分弱ってきたね。次はギョエイ、おねが』

『いや! 次はワタシ!! 次はワタシだな!!!!』


 ぶんぶんと槍を振り回し、ザクロが勝手に走り出してしまいました。


『……ワタシがザクロの上司だったら、確実に首を切っているね』

「あはは……」


 命令は聞かない主義ではありますが、魔物相手にそれなりの時間、一人だけで戦っていただけあります。


 緩慢になった攻撃はもちろんのこと、唐突に発した角の攻撃さえもひょいひょい避けていき、魔物の胸のあたり、心臓部分に近づきます。


『ふん、ふふふん! 心臓を貫いたくらいで、死なないでくれよ』

「そこは倒そうって思って戦いなさいよ」


 リンちゃんは軽く小突き、呆れたようにため息をつきます。ザクロは子供の様に口をとがらせます。


『だって……。戦ってる時間は長ければ長いほど楽しい……』

「へえ、……けど、いいのかしら」


 口元に意地悪な笑みを宿します。


「うかうかしてたら、いまいち貢献出来ないで、戦いが終わっちゃうんじゃない?」


 ザクロの尻尾がピクリと動きます。


『……なんだと?』

「だってさ、ザクロって今のところ何も活躍できてないじゃない」


 自覚しているのでしょう、ザクロはうっ、と喉から声をもらします。これで、リンちゃんは勢いづきます。


「今の魔物の様子をみるに、ギョエイさんとリューリューが頑張ったら倒せそうじゃない?」

『まあ、そうだが……』

「だったらさ、ここで本気出しちゃって、こいつに致命傷与えちゃいましょうよ」

『……』


 少し悩むザクロですが、それも一瞬でした。


『よし、分かった!』


 ザクロは、まんあとリンちゃんの策略に乗りました! ついついリンちゃんはくすりと笑います。


「あたし、結構ザクロのこと好きかもしれない」

『ワタシも意外と好きだぞ。お前は正々堂々としているからな』

「ありがと。それじゃ、あたしの力を貸してあげる」


 みつる君のおかげで、力は回復しています。リンちゃんはありったけの魔力をこめて、周囲に電気を起こします。


『おお、いい感じだっ! このまま突撃ー!」


 槍を前に出し、まるでミサイルのように突っ込みます。


 <リンちゃんの バリバリサンダーアタック>で加速をつけ、さらに最強と名高いザクロの槍による攻撃は、とんでもない威力となりました。


 魔物の身体を貫き、反対側に飛び出しました。


「わあ! 魔物の身体の中通っちゃった!? なんか嫌!」

『あの魔物に心臓はないっぽいな、普通ならもう少し手ごたえがあるからな。そうだと分かってたら、もう少し力を押さたのに』


 ザクロは残念そうに頬をふくらませます。


『大丈夫ですよ、ザクロさん』


 ギョエイはにっこりと微笑みます。


『ボクらが止めを刺すから』


 ワタシが止めを刺したかったのに、とザクロが文句を言いますが、残念ながらザクロの願いは聞き入れられません。


 ギョエイが、魔物の前に飛び出します。さすがの魔物も、次なる攻撃に怯え、後ろに下がりますが、ギョエイはそれを許しません。


『<離岸流>!』


 波の力で、魔物が吸い寄せられます。


『逃がさないよ、<フットエントラップメント>』


 地面から水草のようなものが生えて魔物足を捕らえます。その上、水圧で魔物を抑えつけます。


 これで、身動きが撮れなくなりました。ギョエイは優しく劉生君に合図します。


『今だよ、さあ、行っておいで』

「うん!!!」


 新聞紙の剣を持って、劉生君はギョエイの背中を蹴りました。


「おりゃあ!!!」


 橙花ちゃんを助けるため、ミラクルランドの子たちを元の世界に戻すため、


 そう願う、自分のために、


 劉生君は、剣を振るいました。


「<ファイアーバーニング>っ!!!!」


 願いを乗せた剣は、いつも以上に巨大なサイズとなり、魔物に切りかかりました。弱っていた魔物は、なすすべもなく劉生君の攻撃を受け、一刀両断されました。


 魔物は他の魔物と同じように、光の粒子となりました。


「はあ、はあ、やった、勝った!!」


 劉生君を空中でキャッチして、ギョエイは嬉しそうに笑います。


『さすが赤野劉生君。赤ノ君の力を借りずに、ここまで力を出せるなんて、すごいね』

「えへへ、そうかな?」


 得意げに劉生君は旨を張ります。


「それじゃあ、橙花ちゃんのところに行こうよ! ギョエイさん、お願い!」

『うん、分かった』


 ギョエイは他の王を呼ぼうと、後ろを振り返ります。劉生君も、リンちゃんたちと勝利の喜びに浸っていました


 そのせいで、ギョエイと劉生君は、光の粒子がゆらゆらと漂い、集まっていたに気づきませんでした。


 粒子の固まりは、十個くらいありました。粒子は隣の粒子とくっついて、ひっついて、だんだんと大きくなっていき、粒子というより、生物と言えるサイズになりました。


 その生物の姿は、


 劉生君たちが倒した、あの魔物の姿をしていました。何匹もの魔物は、青い触手のようなものを伸ばして、ギョエイを貫きました。


『っ……!』


 ギョエイは声にならない姫をあげます。ここでようやく、魔物が蘇っていたことを、数が増えていたことに気づきました。


 しかし、残念ながら、気づいたのは遅すぎました。


『ギョエイ!』


 他の王たちが慌てて飛び出してきましたが、魔物たちが邪魔をしてきて、うまく助けにいけません。


 劉生君は『ドラゴンソード』を振り回し、ギョエイから魔物たちのムチを引き剥がそうとします。


「離れろ、このこのっ!」


 けれど、それがいけなかったのかもしれません。


 劉生君は魔物の標的になったのです、ムチは劉生君の足を引き、


「う、うぎゃあ!」


 そのまま、ギョエイの背中から引きずり下ろされてしまいました。


『赤野劉生君!』「リューリュー!」


 子供たちは叫び、ギョエイは彼を助けようともがきます。


 しかし、魔物たちの怒濤の攻撃に邪魔され、劉生君を助けることはできません。


「うぐぐっ!」


 劉生君はジタバタ暴れます。無我夢中で剣を振ります。


 そんな劉生君が邪魔に思ったか、それとも誰かに、――時計塔にいる少女に命令されたのかもしれませんが、魔物は劉生君をまるで邪魔なゴミを処分するかのように、ある場所に叩きつけました。


 その場所とは、先ほど魔物が一匹だったときに、鹿の角の力で空いた穴、底さえ見えない穴です。


「う、うぎゃあああああああ!!」


 劉生君は抵抗もできず、吸い込まれるように穴に落ちていきました。

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