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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-5 自分勝手な青年の、たった一つの願い事
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3 魔王と力をあわせて、いざ戦闘!


『それじゃあ、吉人君とレプチレス社長あと赤野劉生君はボクの背中に乗って。林みつる君と鳥谷咲音ちゃんは、リオンかトトリの背中に乗って』

「う。うん!」「分かりました!」


 自然と、みつる君はリオンの背中に、咲音ちゃんは、トトリの背中に乗りました。


 時計塔へと急ぐ王たちと子供たち。後ろからは、片角の魔物が鬼気迫る勢いで迫ってきています。


 魔物の攻撃もすさまじく、ムチや頭突きで劉生君たちを追い詰めてきます。王様たちは時には避け、時には力を合わせて魔物を一時的ながら妨害して進んでいき、ついには、ムラの中に到達しました。


 もしかしたら、ここに子供たちがいるかもしれないと、劉生君は魔物の攻撃に注意しながら辺りを見渡します。


 残念ながら、人がいる気配はありません。


 地面には花々は咲き乱れ、大小さまざまな形の家が立ち並び、木々にはミニカーやお菓子が実っています。 


 その不可思議な風景からは、小さな子供がやたらめったら玩具を並べているような、そんな印象を覚えました。


 寂しさをも覚えるムラは、青い魔物の無茶苦茶な攻撃によって、次々と壊れていきます。


 橙花ちゃんが大切にしたかったものが、崩れていきます。


「……」


 劉生君はぎゅっと掌を握りしめ、時計塔を見上げます。


 あともう少しで時計塔にたどり着けます。絶対に橙花ちゃんを倒して見せると、劉生君が心を奮い立たせます。


 そんなとき、ふと、劉生君は昔、橙花ちゃんが言っていた時計塔の秘密を思い出しました。


「そうだっ! ギョエイさん、僕たちじゃ時計塔の中に入れないよ! 橙花ちゃんが言ってたんだ。あそこに入れるのは橙花ちゃんか、橙花ちゃんに認められた人だけだって!」

『そこは心配しないで』


 ギョエイは優しく微笑みます。


『ボクら王にはね、ミラクルランドの理を覆す技があるんだ』

「へー! そうなの!? すごい!」


 目をキラキラさせる劉生君ですが、後ろに乗っている吉人君は、なんとも疑わしそうにしています。


「信じてもいいんでしょうか? 本当にそんな技があるなら、蒼さんに負けることはないはずです」

『あー、それはね……』


 言いづらそうにするギョエイに代わって、レプチレス社長が答えてくれました。


『あの技はね、ボクら王の意見が一致しないと発動できないんだ。時計塔ノ君の件に関しては、さっさと潰すべき派と、話し合うべき派で意見が割れたせいで、発動できなかった。そうだよね、話し合うべき派代表、ギョエイ?』

『……ここでの死が本当の死ではないにしても、何らかのリスクがないとは言い切れない。そんな危険なことはさせられないよ』


 レプチレス社長は大げさにため息をつく。


『これだから甘ちゃんは困る。だけど、今回は違う。王たちの意志は一致している』


 ギョエイは大きく頷きます。


『そう。ボクたちの考えは一つ。劉生君たちを、時計塔の中に入れる。意志が一致しているから、技を使える。だから、心配しないでね』

「……うん、分かった。ありがとう、ギョエイさん!」

『ううん、どういたしまして』


 顔を綻ばせるギョエイを、魔物に噛みついていたリオンは呆れたようにため息をつきます。


『ほんと、あいつの子供好きは異常だな』


 リオンの背中に乗っていたみつる君は、ついつい苦笑してしました。


 何はともあれ、時計塔のすぐ近くまで来ることができました。


 前までの時計塔でしたら、王たちが近づくとそれはもう喧しく喚いていますが、今は静かに鎮座しています。もうムラに子供がいないから必要ないので、警報を切っているのでしょう。


 トトリが鋭い目で時計塔を見つめます。


『もう少し近づいてから技を使おう。命中しないことはないでしょうけど、あの子の妨害で攻撃がそれる可能性はあるからね』


 咲音ちゃんは迫ってくる青い魔物をチラチラ見ながら、不安そうに尋ねます。


「ですが、時計塔の中に入れたとしても、あの魔物さんも中に入ってしまうんではありませんか。そうしたら、蒼さんと魔物さんと戦う羽目になりますよ」


 橙花ちゃんと魔物、二者と戦うと聞いて、ザクロが花が咲くようにぱあっと笑顔になります。


『それは燃えるなっ! 素晴らしい! やはり戦士は危機的な局面を乗り越えてこそ、だからな!!』


 ザクロを無視して、トトリは咲音ちゃんの不安を否定します。


『そこは大丈夫。ワタシたちは、君たちを中に入れたいと願って技を使うから、あいつは入れない』

「あら、そうなんですか」

『もし、蒼が許可を出しているなら入れるかもしれないけど、行動を見る限り、ただの戦闘マシーンだからね。あんな危険な生きものを、他の子どもたちがいる場所に招きはしないでしょう』

「それならよかったです」


 咲音ちゃんはほっと一安心しましが、ザクロは『えー、一緒に戦えないの?』とブーブー文句を言っています。


『というか、結局オーディエンスとやらはどこにいるんだ? ワタシはいつになったら、あいつと戦えるんだ?』


 首を傾げるザクロに、リンちゃんは雑に宥めます。


「いつか戦えるわよ、いつか。ほら、ことわざでもいうじゃない。急がば回れって」

『ふむ……。回るのか?』


 ザクロはくるくると回ります。ついでに槍を振り回して、ザクロに絡みつこうとした魔物の触手を切り落とします。


 いい具合に魔物への攻撃につながりましたが、背中に乗っているリンちゃんはたまったものではありません。振り落とされないように、慌ててしがみつきます。


「違う違うっ! 待ってればいつかチャンスが来るって意味! わかったら、回るのを止めなさいっ! 落ちる落ちる!」

『そうなのか? そういうものなら、待ってやろう』


 相変わらずリンちゃんはザクロの扱いが上手です。ザクロに気づかないように、リンちゃんはウインクをしてぺろりと舌を出します。


 どんどん時計塔に近づき、青く輝く塔の外装がしっかりと見え始めました。ここでようやく、トトリは他の王に合図を出します。


『ここからなら確実に届く!』

『分かったっ!』


 ギョエイはザクロに優しく語り掛けます。


『ボクらであの怪物をゆっくり倒すために、この子供たちを時計塔の中に入れようと思うんだ。どうかな、協力してくれる?』

『おー、あの技を使うってことか! 別にいいぞ!』

『よし、それじゃあみんな、行くよっ!』


 リオンにトトリ、それからレプチレス社長は横一列に並びます。ザクロもその一員に加わります。


『せーのっ!』


 技を出そうとする王たちの目の前に、


 いつの間にか、青い魔物がいました。


『なっ!』『いつの間に!?』


 驚くリオンとトトリに、魔物は頭突きを食らわしてきました。


 リオンは持ち前の素早しさでどうにか避けましたが、トトリは間に合いませんでした。頭突きをまともに食らい、地面に突き飛ばされました。


『っ……!』


 咲音ちゃんを庇おうとしたため、お腹に直撃し、トトリは苦しそうな声をあげます。


「トトリさんっ!? ご無事ですかっ!」

『なんとか……』


 よろよろと身体を起こすトトリ。しかし、のんびりしている暇はありません。青い魔物の手が、彼女を押しつぶそうと、トトリの頭上に迫っているのです。


「今度はわたくしがお守りいたします。おいで、わたくしの大好きな子、<ウシガエル>!」


 大きなカエルはトトリと咲音ちゃんを連れて、ぴょんと横に飛びます。トトリたちがいたところに魔物の手が振り落とされましたが、間一髪、二人は避けることが出来ました。


『ありがとう、咲音ちゃん』「いえ、こちらこそ」


 トトリは羽を羽ばたかせて宙に舞います。ちらりと時計塔の方を見ます。どうにして魔物をかいくぐって、先に子供たちだけでも中に入れられないかと思ったトトリですが、魔物がちょうど邪魔な位置におり、あの技を出す隙もありません。


 他の王もそう考えたのでしょう。それぞれ臨戦態勢を整えました。みんな厳しい表情を浮かべていますが、ザクロは違います。


『ここかっ! ここで戦うってことだな!! よーしっ!』

「ちょ、あんた、何も考えずに突っ込むのは良しなさ」

『ていやっ!!』


 リンちゃんを完全スルーして、ザクロは嬉々として槍を掲げます。


『槍の雨よ、ふりそそげっ!』

 

 大量の槍が魔物に降り注ぎます。


『これでどうだっ!』


 魔物は何本か槍を体に食らい、低いうめき声をあげます。ダメージは重ねているようです。


「おお、さすが、最強の魔王ね!」

『ふふん、どんなもんだ』


 ザクロは誇らしげに胸を張ります。けれど、橙花ちゃんが作り上げた魔物ですので、そう簡単にはいきません。


 むしろ、魔物は怒りを目に宿し、ザクロを睨みました。角の輝きがさらに増します。恐ろしいほどの魔力の集中に、トトリは叫びました。


『っ! ザクロ、そこら離れてっ!』


ザクロも嫌な予感がしたのでしょう。リンちゃんが落ちぬようにおさえながら、思いきり横に避けます。


 その直後でした。


 青い角から、魔力の塊をぶつけてきたのです。


 技自体は、劉生君やリンちゃんに対して放っていたものと同じですが、威力は比較にならないくらい強力でした。


 距離をとったリンちゃんたちも衝撃派をくらってこけそうになっていましたし、遠くにいたはずのリオンも吹き飛ばされそうになりました。


 なんなら、レプチレス社長は飛ばされそうになり、吉人君が慌てて尻尾をつかみました。


 そんな悍ましい攻撃ですので、直撃した場所はタダではすみません。底がわずかに見えるほどに深い穴ができ、落ちたら間違いなく自力での脱出は困難です。


「な、なんじゃこりゃっ!?」


 リンちゃん、思わず叫びます。


「こんなに強かったっけ!?」


 トトリは探るように魔物を見つめます。


『この技の魔力、あの子の<モドレ>と同じ力を感じる』

『……なるほどね』


 レプチレス社長は吉人君の腕にしっかりと巻き付いて安定性を保ちつつ、口を開きます。


『時計塔ノ君の<モドレ>は、本来時を戻す技だね。けど、あの魔物の技を察するに、おそらくそれだけではない。アンプヒビアンズの時の攻撃と、今の攻撃の威力の違いを考えると、……自分が受けたダメージを、外部に放って、相手にそっくりそのまま返す技、かな』


 吉人君は、若干腕が痛いなと思いつつ、口には出さずに、疑問点を言います。


「……だとしたら、下手に攻撃できませんよね……?」

『一気に片付けるしかないね』

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