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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-5 自分勝手な青年の、たった一つの願い事
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2 魔王相手にお姉さん気質をだすリンちゃん


 ザクロは弱いわけではありません。むしろ、戦闘能力だけを考えれば、その魔王よりも強力でした。橙花ちゃんがズルをしなければ、劉生君たちだって、負けていたことでしょう。


 そんなザクロでさえも、あの魔物は倒せないと、ギョエイは見切っているのです。


 吉人君は動揺をすぐにかき消して、ギョエイに尋ねます。


「それで、あなたが考える作戦とはなんでしょうか。あんたのことですから、腹案があるのでしょう?」

『買い被り過ぎだよ。それに、ボクの考えというよりも、ボクたち全員の考えだからね』


 他の魔王たちも、神妙に頷きます。


 説明役は、ギョエイに一任されているようです。他の魔王たちは口をはさまず、ギョエイは話し始めました。


『まずは、鐘沢吉人君やボクたちがどうしてここに来ているのかの説明だね。……実はね、ここにいる子たち以外の全員が、蒼の手によって連れ去られてしまったんだ』

「え?!」「な、なんだって!?」


 劉生君とリンちゃんはビックリして声をあげました。特にリンちゃんは掴みかからんばかりの勢いでギョエイに迫ります。


「どういうことよっ! まさか、あんたたち、実は悪い人たちなんでしょう!」

『……そう思われても仕方ない。ボクたちが守り切れなかったんだから』


 ここでリンちゃんに待ったをかけたのが、意外や意外、咲音ちゃんでした。


「リンさん、魔王さんたちは悪くありません。本当に急なことでしたから。それに、わたくしたちもうまく戦えませんでしたし」


 みつる君も眉間にしわを寄せて、項垂れます。


「うん。俺たちも頑張って戦ったんだけど……。敵が強すぎたんだ」


 今なおザクロと戦い続ける、片角の魔物に視線を向けます。


「子供たちが避難している場所に、あの魔物が襲ってきたんだ」


 リンちゃんと劉生君が息をのみます。


 みつる君が語った話は、壮絶なものでした。


 王様やみつる君たちは、崩壊した建物から子供たちを守るため、崩れる心配のない場所に避難していました。


 どこの場所の子供たちも最初こそ王様たちに怯えていましたが、暫くすると慣れてきました。


 フィッシュアイランドにいる子供たちや、トリドリツリーの子供たちは、すぐにギョエイ・トトリに懐きました。


 マーマル王国の子は、リオンとはさすがに若干の距離をとっていましたが、リオンの部下たちとは仲良くなり、一緒に遊んでいました。レプチレス・コーポレーションの子たちも同様です。


 子供たちはそれぞれの場所でそれぞれのペースで遊びながら、時折空を仰ぎ、劉生君がどこまで攻略したのかを確認していました。


 青い正五角形が全て消え、黄色の五角形になると、みつる君たちをはじめとした劉生君の友達は喜び、魔王たちもついつい顔を綻ばせました。


 あの片角の魔物が現れたのは、そのすぐ後でした。


 魔物は突然現れ、子供たちを攫っていきました。


 もちろん、王やみつる君たちは全力で魔物に立ち向かいました。しかし、青い魔物はあまりに強く、みすみす子供たちを奪われてしまいました。


 劉生君はおそるおそるみつる君に質問します。


「みつる君。もしかして、友之助君たちも……?」


 みつる君の代わりに、ギョエイが答えました。


『……あの子たちも、攫われてしまったよ』


 ギョエイの言葉を継いで、トトリが嘴を開きます。


『攫われた子供たちは、あの時計塔の中にいる。あそこから、たくさんの魔力を感じるからね』

「時計塔ってことは……」


 劉生君の顔が曇ります。


「やっぱり、橙花ちゃんがそんなことしたんだよね」


 答える人はいませんが、こんなことをするのも、こんなことができるのも、橙花ちゃんしかいません。


 面倒そうなそぶりを装い、レプチレスが沈んだ空気を断ち切ってくれました。


『ギョエイ。過去話はそれくらいにして、本題に入ろうか』

『ああ、そうだね』


 まだザクロは持ってくれてはいますが、徐々に劣勢になっていっています。


 勢いよくガンガン攻撃していたザクロですが、魔物の猛攻におされて、攻撃の頻度が徐々に少なくなっています。


 そろそろ限界かもしれません。ギョエイは若干早口で話し始めます。


『君たちのすべきことは、あの子を倒すことではない、時計塔に行き、蒼と戦うこと。本当はあの青い魔物も倒せればいいんだけど、あの魔物はそう感嘆には倒れない。正直、ボクら王たちが全力を出しても、勝てない可能性もある』

「なら、どうするのよ」


 リンちゃんの疑問に、ギョエイはきっぱりと答えます。


『あの魔物から逃げて、時計塔に行く。これがボクらの考えだよ』


 咲音ちゃんはビックリして目を大きく開きます。


「ですが、そんなことできるんですか」 


 あの青い魔物は、ただ図体がでかいだけではありません。攻撃の出も早く、避けるのでやっとです。


 その上、魔物と逃げるなんて、簡単ではありません。


 ギョエイも、浮かない表情で頷きます。

 

『難しい。けど、どうにか逃げ切らないと、ボクら全員、あの魔物に倒されてしまう。もし誰かが生き残っていたとしても、今度は蒼にやられてしまう。……どうかな。異論はある?』


 最適な選択とは思いませんが、もうそれしか方法はありません。人の意見に噛みつきがちなリンちゃんや吉人君も、口を閉ざしています。


『……よし、リオンさんとトトリさんは、子供たちとレプチレスさんをつれて先に時計塔に行って。ボクはどうにかしてザクロさんを魔物と引きはがして連れて行くから』


 レプチレス社長はじっとギョエイを見つめます。


『ワタシは別にいいが、あの脳筋を戦闘から引きはがせるのか?』


 レプチレスの一言に、ギョエイは苦い表情を浮かべます。


『厳しいかもしれないけど、どうにかして頑張ってみる』


 ちょうどその時、青い魔物に吹き飛ばされ、ザクロがみんなのすぐそばに吹き飛んできました。


『よかった、来てくれた! ザクロさん、一旦ここは離れて、先に行こう!』


 しかし、ギョエイの言葉は闘志に燃えるザクロの耳には入っていません。


『ようし、もっと、もっとだ! こんなに滾る戦いは久しぶりだっ!!!!!』


 爛々と目を輝かせて、槍を手にまた戦いにいこうとします。


『え、ちょ、ちょっと待って、話だけでも』

『いくぞっ!!!』


 ギョエイの制止を無視して、魔物との戦いに行こうとしたザクロですが、


「ちょっと待った!!」


 リンちゃんが両手を広げて、ザクロの前に立ちふさがりました。


『うわっ! な、なんだ! ワタシの行く手を阻むな!』


 怒鳴るザクロですが、物おじせず、リンちゃんは腰に手を当てて、ニコッと笑います。


「マーマル王国にいたミッツンは、リオンに乗ってるでしょ? トリドリツリーにいたサッちゃんはトトリ、なら、あたしはあんたに乗せてもらうのが道理じゃない?」

『道理だのドリルだのはどうでもいい! ワタシは戦う! そして勝つ!!』

「けどさあ、ここじゃない方が、ザクロにとってもいいんじゃない?」

『なに?』


 ザクロは足を止めあす。


『……どういうことだ?』

「ほら、ここって観客もいないじゃない。観客いないと盛り上がらないじゃない」

『そんなもの、関係ないっ! 舞台の上にいるのは、ワタシと敵。二者のみでよいのだっ!』

「うーん、そういう考えね」


リンちゃんはちょっと考えてから、戦法を変えることとしました。


「けどさあ、二人っきりで戦ったら、本当にザクロが勝っても、誰も信じてくれないんじゃない? だって、証明する人がいないんだから」


 そういってから、リンちゃんはちらっとリオンとトトリに視線を向けます。彼女の意図を察した二者は、それぞれザクロを煽る。


『オレだったら、他の連中がいる場所で戦うな。そうすれば、そこの子供のように難癖をつけられることはない』

『ワタシもそうするね。逃げたと思われかねない』


 ザクロはむっとして目を吊り上げました。


『ワタシは逃亡なぞしない!』

「だったら、ちゃんと観客がいるところで戦いましょう」

『……分かった。そうするっ! 案内してくれ!』

「オッケー!」


 ザクロが戦線を離脱しましたので、青い魔物の攻撃がこちらをかすめました。王たちはすぐに魔物に背を向け、走り出しました。

 

 ムチをすいすいと避けながら、ギョエイは感嘆の声をあげます。


『すごいね。一時的にとはいえ、戦い好きのザクロの手を止めるなんて』

「まっ、妹とか弟とか、リューリューとかの扱いには慣れてるからね! ザクロなんてちょちょいのちょいよ!」

『ハ、ハハ、そうなんだ』


 九歳の子相手に年下扱いされていますが、ザクロは後ろ髪引かれる思いでチラチラと背後を気にするばかりで聞いている様子はありませんし、劉生君は何を勘違いしているのか、「えへへ、照れるな」と頭を軽くかいています。

 

 本人たちは気づいていないようですので、ギョエイは聞き流すこととします。

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