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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-5 自分勝手な青年の、たった一つの願い事
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1 突然の襲撃!! からの、魔王さんたちこんにちは!

 闘技場、アンプヒビアンズで、リンちゃんと劉生君は最後の戦いに向けて、――つまり、橙花ちゃんとの戦いに向けて、軽く意見を交わしていました。


「橙花ちゃんは最後に戦った方がいいよ、って魔王たちにアドバイスしてもらったから、まだ会ってないけど、橙花ちゃんはどこにいるのかな。リンちゃん、知ってる?」

「蒼ちゃんなら、あそこの時計塔にいるはずよ」


 リンちゃんは、ミラクルランドのどこにいても視界に入る、巨大な時計塔を指差します。いつも通り、時計の針は三時を差し続けています。


「あそこかあ。そんな感じはしてたんだ」

「時計塔といったら、蒼ちゃんだからね。魔王たちも、蒼ちゃんのことを時計塔ノ君って呼んでるくらいだもんね」

「よーし、さっそく時計塔に行くぞ! でも、どうやって行こっかな。アンプヒビアンズの魔王さんが連れて行ってくれないかな」


 劉生君はキョロキョロ辺りを見渡します。いつもなら、その場所を攻略すると、すぐにその土地の魔王が顔を出してくれましたが、今回はどうしてか出てきてくれません。


 いつ来るのかとと首を傾げていると、


「リューリュー、危ないっ!」


 ドン、と背中を押されました。


「わあっ!」


 劉生君とリンちゃんはなだれ込むように倒れます。軽く頭をぶつけて、たんこぶが出来ました。


「あいったー。急にどうしたのって、わあ!?」


 驚いたことに、劉生君がさっきまで立っていた場所に、青いツタのようなものが突き刺さっていたのです。


「何あれ!?」


 ツタの出所をたどり、劉生君はもう一度叫びました。


「何あれ!!??」


 時計塔を背景に立っていたのは、青い光で構成された、巨大な生きものでした。


 もうそれだけでも、普通の動物ではないのは明らかですが、それだけではありません。その造形さえも、異質でした。


 クマのような体にワニのような尻尾、鹿の顔を持つ化け物です。化け物は猛禽類特有の鋭い目で、劉生君やリンちゃんをギロリと睨んでいます。右側だけに生えている角は、その闘志を宿すように爛々と輝いております。


「あたしが想像するに、あれは蒼ちゃんがリューリューを倒すために仕向けてきた魔物ね」

「……僕もそう思う」


 とにもかくにも、このまま倒れてては危険です。劉生君とリンちゃんは慌てて体勢を整えます。


 劉生君が剣を握り、リンちゃんが両足に電気をまとった途端、片角の魔物は一声吠えて鞭のようなものを飛ばしてきました。


「<ファイアーウォール>!」

「あたしだって!<リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>

 !」


 炎の壁がはじいた鞭を、リンちゃんの電気ボールで攻撃します。


「リューリュー、今度は本体に攻撃よ!あたしの背中に乗って!」

「わかった!」


 劉生君がリンちゃんの背中にピョンと飛び乗ります。体重は同じくらいだというのに、リンちゃんは軽々と劉生君を背負います。


「ちゃんと掴まっててね!おりゃあ!<リンちゃんの バリバリサンダーアタック> !」


 青い魔物は、なおも鞭を使ってリンちゃんたちを叩きつぶそうとしますが、さすがリンちゃん。俊足で避けていきます。劉生君の視点では、軽々と、楽勝で進んでいるように思えます。


 けれど、そんなリンちゃんでさえも、前の戦いで魔力を極限まで使いきっています。


 今だって、ギリギリのラインで青い魔物の攻撃を避けています。


 リンちゃんは、もうこの一回で本当に動けなくなると感じ取っていました。


 歯を食い縛り、悲鳴をあげる右足を奮い立たせ、なんとか青い魔物のすぐ近くまで接近できました。


「リューリュー!投げるわよ!!」

「オッケー!」

「えいや!!」


 リンちゃんは大きく振りかぶり、劉生君を思いきり投げました。劉生君は勢いのまま、青い魔物の頭に突っ込みました。


「おりゃりゃ!! <ファイアーバーニング>!!」


 炎の剣を、魔物に突き刺しました。青い光で出来ているためか、剣は抵抗なく魔物を突き刺しました。


 ちょうど角の根本あたりに着地して、剣を抜きます。


「よし、もう一度!」


 劉生君は剣に魔力を集中させます。


 最初に異変に気付いたのは、魔物から距離をとっていたリンちゃんでした。痛みでもがいていた魔物が、不自然なほどに動かなくなったのです。


 様子を伺っていると、右角が青く怪しく輝きはじめました。


「っ! リューリュー、あぶない!」

「……へ?」


 リンちゃんの叫び声に、ようやく、劉生君は魔物の様子の変化に気づきました。慌てて劉生君は魔物を蹴って逃げようとしますが、魔物の攻撃には間に合いません。


 無意味かもしれませんが、少しでも攻撃を防ごうと、劉生君は新聞紙の剣先を魔物に向けます。


「<ファイアウォー……!」


 炎の壁が一瞬だけ劉生君の目の前に出来ましたが、すぐに消えてしましました。


「あ、あれ、どうして……」


 ぐらりと、視界が揺れます。指先に力が入らず、『ドラゴンソード』も、ただの新聞紙の剣に戻ってしまいました。


 魔力切れです。


「そんなっ、い、今!?」


 リンちゃんとの闘いで、散々技を使ってからの、青い魔物との連戦です。むしろ、さっき<ファイアーバーニング>を使えたことですら、常軌を逸していました。


 ここで魔力切れになるのは、ある種、当然のことでした。


 とはいえ、この状況で技が使えなくなるのは、劉生君にとっては想定外でした。


「リューリュー!」


 リンちゃんがどうにかして劉生君を助けに行こうと、一度着地してから地面を蹴ろうとします。


 けれど、リンちゃんも、既に魔力が尽きています。静電気のようなパチパチと音が鳴るばかりで、ジャンプすることさえできません。


「このっ! いざってときに使えない!!」


 角は目がつぶれんばかりに眩く輝き、魔力の塊を劉生君に向けて放ちました。


「っ!」


 恐ろしい力でした。まるで爆弾が落ちたような、そんな衝撃が劉生君に、少し距離をとっていたリンちゃんにも襲い掛かりました。


 二人はあまりの光の洪水に、目を固く閉じました。身体を避けんばかりの痛みが来るに違いない、と身構え、怯えていた二人でしたが、いつになっても悍ましい苦痛は襲ってきませんでした。


 かわりに、二人はふわりと体が浮きました。


 二人は驚いて目を開くと、劉生君の視界にはライオンのたてがみが、リンちゃんの視界には孔雀の羽がうつりました。


『赤野劉生。お前はなにも考えずに動く癖を直した方がいい』

「り、リオン!?それに、トトリも!?」

「俺たちもいるよ」


 リオンの背中にのっていたのは、劉生君だけではありませんでした。


「やっほ、赤野っち」

「みつる君!」


 小柄な男の子、みつる君が劉生君の顔をひょっこりのぞきこみました。


「はいこれ、ハンバーガー!元気が出るよ」


 勧められるまま、一口かじります。


 ジューシーなお肉とシャキシャキのレタス、玉子はふわふわ!


 劉生君はほんわかと笑顔になります。


「んー、おいひい。それに、元気もわいてきた!」

『オレの背中で食事をするとは……。この状況でなかったら極刑だぞ』


 リオンが不愉快そうにふんと鼻をならし、地面に着地します。


 リオンの隣に、一羽の孔雀が降り立ちます。


『極刑ねえ。死んでもすぐに甦るこのミラクルランドで、刑罰なんて無意味なことよくできるね。尊敬に値するよ』


 トトリの皮肉に、リオンはたてがみを逆立ててギロリと睨みます。


『国家経営のイロハすらろくに理解できていないお前に、とやかく言われたくはない』

『ふうん。そんなもの知らなくても、みんな頑張ってくれてるよ』

『お前が成すべきことを、三羽烏が代わりにこなしているだけだ。偉そうにするな』

『つまり、リオンは命令しないと部下が動かない。ワタシの部下は自分で考えてくれる。そういうことだね』

『口の減らない小娘が……』

『おじさんに言われたくない』


 トトリの背中から降りたリンちゃんは、呆れたように二人を見ます。


「目の前に化け物がいるこの状況でで口喧嘩する?」

「わたくしもそう思いますが……。お二方は道中ずっと喧嘩していましたね。本当に仲が悪いんですねえ」


 おや、と思って劉生君が顔をあげると、トトリの背中からフワフワ髪の毛の女の子が降りてきました。


「咲音ちゃん! 咲音ちゃんも来てくれたんだ!」

「わたくしだけではありませんよ」


 ふわりと大きな魚が近づいてきました。


「赤野さんはさっきぶり、道ノ崎さんは久しぶりですね」

「吉人君!」

『ワタシもいるぞ』


 くいっと眼鏡を上げる吉人君の横から、ひょっこりとヘビが顔をのぞかせました。


『ボクもいるよ』


 ギョエイがヒレをパタパタさせて、のんびりと答えます。


「わあ、みんな勢ぞろい! けど、どうしてみんなこ」


 ここに来たの? と質問しようとしましたが、青の魔物の吠え声にかき消されてしまいます。


「そ、そうだ。みんなが集まって嬉しくて、すっかり忘れてたっ!」


 あの魔物をどうにかしないといけません。


 焦って『ドラゴンソード』を構えますが、そんなものでどうにもできない攻撃を仕掛けてきました。


 魔物は青い角を光らせると、その巨大な頭で頭突きを仕掛けてきたのです。


「ひ、ひいっ!?」


 <ファイアーウォール>程度では、防ぎようもありません。ポジティブシンキングな劉生君でさえも、思わず後ずさり、技さえも出せませんでした。


 そのときです。


『おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!』


 気合いの入った掛け声が聞こえてきたかと思うと、魔物が思いっきり横に吹き飛いました。


「ふぇ!?」「な、なに!?」


 驚く子供たちとは違い、魔王一同は苦笑いを浮かべます。レプチレス社長が『相変わらずの戦闘狂だね』と言うと、魔王たちは仲良く頷きます。


 戦闘狂、そしてこの場にいないといったら、子供たちもすぐに連想できました。みんなの想像を裏切らず、彼(彼女?)は劉生君たちの前に降りてきました。


 二本足で歩くサンショウウオは、目を爛々と輝かせ、すがすがしい表情で汗を拭っています。


『いやー! いい手ごたえ! こんな腕のいい生きものを作り出すなんて、さすが蒼だな! うんうん!!』


 ギョエイは優しく声をかけます。


『久しぶりだね、ザクロ』

『ん? おお、ギョエイさん! それに、リオンたちもいるではないか。もしや、ワタシと戦いにきたのか? あいにくだが、先約がある。後にしてもらっていいか?』

『いや、ボクはあまり争いごとは好きじゃないから、戦わな』

『よし、そこの青いの! 待ってろ、ワタシが倒してあげるぞ!!』

『あ、ちょ、ちょっと待ってザクロ! 今から作戦会議を』

『おりゃりゃりゃりゃ!!!ていや!!』

『……いっちゃった』


 人の話をろくに聞かず、ザクロは駆けだしてしまいました。


 リオンとトトリはは冷めた目でザクロの後ろ姿を見ます。


『あいつは本当に話も聞かない』『一緒に戦う気がないんだろうねえ』


 喧嘩ばかりしていた二体ですが、こればっかりは同じ意見のようです。ギョエイはしゅんっとヒレを元気なく下げます。


『ごめんね、みんな。ひとまずあの魔物は一旦ザクロに任せて、作戦会議をしようか』


 ちらりと、青い魔物を見上げます。


『ザクロは強いけど、あの人だけでは、あの魔物は倒せないだろうからね』


 ギョエイの一言で、緩んでいた空気が張り詰めました。

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