8 動きだす、彼女。
長き戦いが終わり、ようやく、劉生君の勝利が決定いたしました。
とはいえ、劉生君は素直に喜べないようです。血相を変えてリンちゃんを抱え込み、心配そうに顔を覗き込みました。
「リンちゃん! だ、大丈夫!?」
「馬鹿ね。あんたがやったんでしょうが」
「そうだけど……」
「大丈夫よ。なんだって、一回しか当たってないもの。どっちかというと、ロングブーツのせいで力が尽きちゃった感じね」
「そっか……。ならよかった。あ、でも負けは負けだからね!」
劉生君はキッとリンちゃんを睨みます。
「ミラクルランドに残るのはだめだからね!」
「分かってるわよ。あたしは約束を守るわよ」
「そっか。よかった……」
心底ほっとした表情を浮かべます。さっきまでは怒って、今度はほっとして、コロコロと変わる劉生君の表情に、ついついリンちゃんは笑って、ごろんと横になります。
「あーあ。文字通り死ぬ気でミラクルランドに行ったのに、結局負けちゃうんだもんね。元の世界に戻っても、あたしは何にもないのに」
「そんなことはないよ!」
劉生君は胸を張って、堂々と答えました。
「だって、リンちゃんには僕がいるんだから! 僕はリンちゃんが走れなくても、一緒にいるよ!」
「……本当に、リューリューったら」
「ふぇ? あ、リューリューって呼んでくれた! やっぱりそっちの方がいいよ!」
ニコニコ笑顔で劉生君は喜びます。リンちゃんは頬を赤らめながら、深くため息をつきます。
根本的な喪失感が解消されたわけではありません。不自由な足を持ちつつ、これから先どう生きていくか、何も決まっていません。
けれど、劉生君の側にいると、不思議と前を向く気力が湧き上がってきます。
リンちゃんは微笑みながら、劉生君の鼻を軽く摘まみます。
「そういったからには、ちゃんとあたしのサポートしなさいよ」
「ふぎゃふぎゃふぎゃふぎゃ!」
「はいはい。分かったわかった」
じゃれあう二人の頭上には、青い青い空が広がっています。空に浮かぶ五角形の青い光は既に消え去り、黄色の五角形へと代わっていました。
全ての封印が解かれました。
残るは片角の少女、蒼井橙花ちゃんだけです。
劉生君にとっては、あともうちょっとで、みんなを助けられると安堵できる状況です。
しかし、当然といったら当然ですが、彼女にとっては、蒼井橙花ちゃんにとっては、黄色の五角形は逆の意味だと捉えていました。
橙花ちゃんは、とある場所から、空を仰いでいました。
「そっか。リンちゃんもやられちゃったんだね。……けど、ボクは諦めない」
杖をぎゅっと握りしめ、橙花ちゃんはアンプヒビアンズの方向を睨みました。
「この楽園が気に食わないなら、君が出ていけばいい。そうだよね、劉生君?」
そして彼女は、
杖に魔力をこめました。