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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-4 自分勝手な少年の、たった一つの願い事~アンプヒビアンズ編~
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7 夢と、思い出。どっちも大事だから


 そう、あれは桜が散る季節。動いていれば暖かいですが、あの時のリンちゃんのように、川辺で一人いると、身体が凍えてしまうような日のことでした。


 ある少年が、彼女に話しかけてきたのです。


 隣に住んでいる男の子だとは分かりましたが、仲良くしたいわけでもありませんし、おしゃべりしたい気持ちもありません。


 ですのでリンちゃんは、無視していました。


 けれど、少年はずっと話しかけてきました。


 挙句の果てには、自分は君のヒーローになるだのなんだのと、訳の分からない話を永遠と語り掛けてきたのです。


 その底抜けの明るさに、リンちゃんは思わず噴き出してしまいました。


 ついつい綻んだ笑みをみて、その子は満面の笑みになって、こう言いました。


「泣いているより、笑ってる方がいいよ! そっちの方が可愛いし!」


 何も考えずに、無遠慮に言った彼の言葉に、リンちゃんは思わず赤面します。心がきゅっと握られたような、ポカポカするような、味わったことがない思いが胸にあふれてきます。


 リンちゃんは訳の分からない気持ちに戸惑います。


 そのせいでしょう、少年の問いかけに、リンちゃんは母親にも妹弟にも、先生にも打ち明けてこなかった悩み事を素直に答えていました。


 短距離走が苦手だけど、父親の思いを引き継ぎたいから頑張っていると話すと、彼はきょとんとした表情でこう言いました。


「リンちゃんは、長く走る方が好きなんでしょ? だったら、そっちを頑張ればいいんじゃないのかな?」

「そうはいかないわよ。あたしの話聞いてたの?」


 あきれるリンちゃんですが、彼はニコニコ笑顔でうんうんと頷きます。


「聞いてたけど、リンちゃんが嫌だと思うなら、辞めちゃっても大丈夫だよ! それでお父さんが嫌そうにしてきたら、僕が話してあげる! リンちゃんには、長距離の方がいいって説得してあげるよ! なんだって、僕はリンちゃんのヒーローなんだからね!」

 

 説得なんて、ヒーローらしくはありあせん。

 

 リンちゃんは呆れてしまいますが、同時に、笑顔も浮かんでいました。


 不思議と、心が軽くなっています。そっくりそのままの気持ちをさらけ出すのも恥ずかしかったので、リンちゃんはそっぽを向いて呟きます。


「……まあ、あんたがそこまで言うなら、マラソン選手になってみても、いいかもしれない」

「頑張ってね! 僕、リンちゃんの給水係になるから!」


 彼は、劉生君は、無邪気に笑いました。


〇〇〇


「……」


 面前の劉生君と戦いながら、リンちゃんは思い出した記憶の一つ一つを噛み締めます。


 リンちゃんは大切に大切に、この記憶を胸に秘めていました。


 しかし、足が傷つき、歩けなくなったショックで、大切な思い出を、立ち直って、また走ってみようと思ったきっかけを、忘れてしまっていたのです。


 攻撃の最中、劉生君の身体がよろめきました。足が滑ったか、それとも受けてきたダメージが今になって効いてきたのかもしれません。


 確実に、隙が生まれました。


 しかし、リンちゃんは隙をつくことはしませんでした。


 腕を引き、リンちゃんは足を止めました。


「今だっ!」


 劉生君はリンちゃんに切りかかってきました。


 劉生君の攻撃を、


 リンちゃんは、防ぐことなく、受け入れました。


 勝敗は、ここに決しました。

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