表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-4 自分勝手な少年の、たった一つの願い事~アンプヒビアンズ編~
239/297

1 アンプヒビアンズにいるのは、彼の幼馴染

 

 リンちゃんは、記憶を探っていました。そもそも、自分はどうして走るのが好きになったのでしょうか。


 潜在的に走るのが得意だったこともありますが、おそらく、一番は父の存在のおかげでしょう。


 リンちゃんが小さな頃に、病気で亡くなってしまった父。


 どれだけ頭をひねらせても、写真の中の父しか思い出せません。母親いわく、父親にかなり懐いており、常日頃付きまとっていたらしいですが、父親に関連する出来事すらほとんど記憶にありませんでした。


 けれど、あるワンシーンだけ、彼女が覚えていることがあります。


 リンちゃんが生まれ、幼少期を過ごした家の近くには、大きな公園がありました。その公園で、リンちゃんは大人たちにまじって走っていました。


 一生懸命、汗を流して走る自分。


 頑張っていた理由は、父親に褒めてもらうためでした。


 父親は、リンちゃんが早く走ると、リンちゃん以上に喜んでくれました。「偉いな、頑張ったなっ!」と頭を撫でてくれるのです。


 それが嬉しくて、嬉しくて、だからリンちゃんは走りはじめたのです。


 父親が亡くなってしまった当初は、がむしゃらに、父親がいなくなった寂しさから走っていました。


 しばらくたって、リンちゃんは苦しみながら走るのを止めました。


 天国に逝ってしまった父親への手向けとして、まだ幼い弟妹や懸命に働く母親のために、走ることにしたのです。


 きっかけは分かりません。父親の顔とは違って、本当に忘れたわけではないと思っています。ほんの最近まで覚えていたはずです。なぜか今は記憶が抜け落ちていますが、おそらく時間が解決してくれたのでしょう。


 その頃から、リンちゃんにとっての生きがいは、走ることでした。


 しかし。


 それも、もう、できません。


 リンちゃんは右足を撫でました。


 現実では存在しない右足を、撫でました。


「……」


 リンちゃんは顔を上げます。観客のいないコロシアム会場は、水を打ったように静かで、ほんのわずかな物音さえも聞こえませんでした。


 ですが今、静寂を破って、足音が響きました。


 彼女はやってきた少年、赤野劉生に向かって、こう言いました。


「……来たんだね。劉生」


 彼女らしくない呼び方に、劉生君は戸惑います。それでもすぐに気をとり直し、「現実世界に戻ろう」と、「ミラクルランドにいても、死んじゃうだけだ」と説得しはじめます。


 リンちゃんはゆっくりと瞬きをして、人差し指を劉生君に突き出します。


「<リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>」


 <リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>。本来は、サッカーボールサイズの電気玉を投げる技です。


 しかし、リンちゃんの指からは、まるで鉄砲から放たれた銃弾のように、電気で出来た極小の球が放たれたのです。


「うぎゃあ!」


 劉生君は叫びます。


「そんな技だっけ!?」

「違うわよ。蒼ちゃんにパワー強化用ソックスを貰ったの。そのおかげで、こういう技が使えるってことなの」


 ちらりとリンちゃんの足を見て、顔をこわばらせて、目を反らします。


「……戦わないと、駄目ってことだよね」

「そういうこと」

「……なら、僕も頑張る。全力を挙げて、リンちゃんを倒すっ!」


 新聞紙の剣を構え、劉生君はリンちゃんをギロリと睨みつけました。リンちゃんはどこか大人びたような表情で、――いえ、感情のない表情で、劉生君を見つめます。


「オッケー。もし劉生が勝ったら、あたしは向こうの世界に帰ってあげる」

「ほんと!」

「けど、あたしが勝ったら、劉生もこっちに残って。それでいい?」

「いいよっ! もちろん!」


 すぐに答えます。負けた時のリスクは一切考えていません。勝つことしか考えていません。


 それはリンちゃんもそうでした。


「それじゃあ、戦おうか。手加減しないからね」


 リンちゃんは淡々と魔力を足に込めます。劉生君は目を闘志と、戸惑いを浮かべながら、じっとリンちゃんの右足を見つめました。


 劉生君は、吉人君から教えてもらった、ある情報を思い出していました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ