2 トリドリツリーに到着! ……とう、ちゃく?
落ち葉がゆらゆらと宙を舞って下に落ち、冷たい風が洗濯物をゆらします。
しかし、この部屋の中では、この小さな鳥かごの中では、外界の寒さなんて関係ありません。
小鳥はブランコに飛び乗って、心地よい揺れをからだ一杯に感じ、飽きたら水をごくごくと飲んで水分補給をします。
もう一度遊ぼうかな、それともお昼寝しようかな?と悩んでいると、何時間も何時間も待ちわびていた、可愛らしい声色の女の子が「お帰りなさい」といって、帰ってきました。
犬はわんわんと吠え、普段はクールな猫たちも、しきりに媚びた鳴き声を上げています。
みんな、あの子が大好きで、あの子を一人占めしたいのです。
自分だって、出来ればあの子と一緒に遊びたいです。
ならば、どうするか。
声の大きさでは、犬に負けてしまいます。可愛らしい動きでは、猫に負けてしまいます。
ならば、声の大きさでも、動きでもない、自分にしかできない長所を発揮するまでです。
精一杯息を吸って、あの子が喜んでくれた歌をさえずります。
ここにおいで、一緒に遊ぼうよ!
願いは神様に通じてくれました。
パタンと扉が開き、あの子が部屋に入ってきてくれました。
ふわふわとした髪の毛をゆらして、あの子は笑いかけてくれます。
「ただいま、ピーちゃん。お利口にしていた?」
あの子、咲音ちゃんは鳥かごから出してくれました。
「部屋のなかを飛んでもいいよ」
そう言ってはくれましたが、どこかへ飛んでいくことはしません。咲音ちゃんの肩にとまります。
ピーちゃんにとっては、あの子のそばにいることが、何よりの幸せですから。
「ふふっ、ピーちゃんは甘えん坊さんだね」
咲音ちゃんは繊細な指で撫でてくれます。それだけで嬉しくて嬉しくて、仕方ありません。
こんな幸せな時間が、ずっと続けばいい。
ピーちゃんは心の底から、そう願います。
ばたん、と部屋の扉が開きました。
人間ではありません。犬です。真っ黒な犬が部屋に飛び込んできました。
「きゃあ! ノワール! 部屋に入っちゃ駄目でしょ!」
咲音ちゃんは慌てて僕を捕まえて、鳥かごに戻しました。ノアールと呼ばれていた犬を全身を使って受け止め、部屋から追い出そうとしてくれました。
ピーちゃんは慌てて鳥かごの隅っこに隠れます。ノアールはいい子ですが、遊んで欲しいのでしょう。大きな身体で飛び掛かってきますので、正直怖い存在です。
まだ出て行ってないのかな、戻ってくれないかな、と、おそるおそる鳥かごの隙間から伺います。
残念ながら、まだ部屋の中にいます。
ノアールはこちらをじっと見つめています。
そのときです。
ずきり、と足が痛みました。ひじのところです。肌に赤い血がたらりとこぼれている感覚がします。怪我をしたのかと視線を下に下ろしますが、血は流れていません。
不思議に思いながら、ピーちゃんは視線を元に戻します。
ちょうどノアールが部屋の外に連れ戻され、扉を閉められるところでした。ノアールはまだこちらを見ています。彼の瞳を見ていると、ある疑念が頭をよぎります。
……本当に、これでよいのでしょうか。今は幸せです。咲音ちゃんと遊べて幸せです。けれど、これでよいのでしょうか。
これは、本当なのでしょうか。
そう考えた、次の瞬間です。突如、目の前にノイズがかかります。目を瞬かせると、ノアールの姿はなくなっていました。咲音ちゃんの姿も、です。
「……?」
きょろきょろと辺りを見渡します。
ピンク色の壁紙に、可愛らしい家具たち。装飾品は変わっていません。
声がしました。咲音ちゃんの声です。他の犬や猫たちを可愛がるより前に、ピーちゃんがいる部屋に来てくれました。
そして、咲音ちゃんは同じような言葉を繰り返します。
「ただいま、ピーちゃん。お利口にしていた?」