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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-3 自分勝手な少年の、たった一つの願い事~トリドリツリー編~
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2 トリドリツリーに到着! ……とう、ちゃく?

 

 落ち葉がゆらゆらと宙を舞って下に落ち、冷たい風が洗濯物をゆらします。

 

 しかし、この部屋の中では、この小さな鳥かごの中では、外界の寒さなんて関係ありません。


 小鳥はブランコに飛び乗って、心地よい揺れをからだ一杯に感じ、飽きたら水をごくごくと飲んで水分補給をします。


 もう一度遊ぼうかな、それともお昼寝しようかな?と悩んでいると、何時間も何時間も待ちわびていた、可愛らしい声色の女の子が「お帰りなさい」といって、帰ってきました。


 犬はわんわんと吠え、普段はクールな猫たちも、しきりに媚びた鳴き声を上げています。


 みんな、あの子が大好きで、あの子を一人占めしたいのです。


 自分だって、出来ればあの子と一緒に遊びたいです。


 ならば、どうするか。


 声の大きさでは、犬に負けてしまいます。可愛らしい動きでは、猫に負けてしまいます。


 ならば、声の大きさでも、動きでもない、自分にしかできない長所を発揮するまでです。


 精一杯息を吸って、あの子が喜んでくれた歌をさえずります。


 ここにおいで、一緒に遊ぼうよ!


 願いは神様に通じてくれました。


 パタンと扉が開き、あの子が部屋に入ってきてくれました。


 ふわふわとした髪の毛をゆらして、あの子は笑いかけてくれます。


「ただいま、ピーちゃん。お利口にしていた?」


 あの子、咲音ちゃんは鳥かごから出してくれました。


「部屋のなかを飛んでもいいよ」


 そう言ってはくれましたが、どこかへ飛んでいくことはしません。咲音ちゃんの肩にとまります。


 ピーちゃんにとっては、あの子のそばにいることが、何よりの幸せですから。


「ふふっ、ピーちゃんは甘えん坊さんだね」


 咲音ちゃんは繊細な指で撫でてくれます。それだけで嬉しくて嬉しくて、仕方ありません。


 こんな幸せな時間が、ずっと続けばいい。


 ピーちゃんは心の底から、そう願います。


 ばたん、と部屋の扉が開きました。


 人間ではありません。犬です。真っ黒な犬が部屋に飛び込んできました。


「きゃあ! ノワール! 部屋に入っちゃ駄目でしょ!」


 咲音ちゃんは慌てて僕を捕まえて、鳥かごに戻しました。ノアールと呼ばれていた犬を全身を使って受け止め、部屋から追い出そうとしてくれました。


 ピーちゃんは慌てて鳥かごの隅っこに隠れます。ノアールはいい子ですが、遊んで欲しいのでしょう。大きな身体で飛び掛かってきますので、正直怖い存在です。


 まだ出て行ってないのかな、戻ってくれないかな、と、おそるおそる鳥かごの隙間から伺います。


 残念ながら、まだ部屋の中にいます。


 ノアールはこちらをじっと見つめています。


 そのときです。


 ずきり、と足が痛みました。ひじのところです。肌に赤い血がたらりとこぼれている感覚がします。怪我をしたのかと視線を下に下ろしますが、血は流れていません。


 不思議に思いながら、ピーちゃんは視線を元に戻します。


 ちょうどノアールが部屋の外に連れ戻され、扉を閉められるところでした。ノアールはまだこちらを見ています。彼の瞳を見ていると、ある疑念が頭をよぎります。


 ……本当に、これでよいのでしょうか。今は幸せです。咲音ちゃんと遊べて幸せです。けれど、これでよいのでしょうか。


 これは、本当なのでしょうか。


 そう考えた、次の瞬間です。突如、目の前にノイズがかかります。目を瞬かせると、ノアールの姿はなくなっていました。咲音ちゃんの姿も、です。


「……?」


 きょろきょろと辺りを見渡します。


 ピンク色の壁紙に、可愛らしい家具たち。装飾品は変わっていません。


 声がしました。咲音ちゃんの声です。他の犬や猫たちを可愛がるより前に、ピーちゃんがいる部屋に来てくれました。


 そして、咲音ちゃんは同じような言葉を繰り返します。


「ただいま、ピーちゃん。お利口にしていた?」


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