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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-2 自分勝手な少年の、たった一つの願い事~マーマル王国編~
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6 咲音ちゃんのところに行こう!

 

 地で走らねばならないリオンと、空を飛べるギョエイ。どちらが早いかと問われれば、ギョエイの方が早いように思えます。


 しかし、リオンの速度は恐るべき早さでした。


 例えるなら、新幹線です。風景は飛ぶように流れていき、ちょっとした山は助走をつけて、ジャンプして乗り越えます。


 あっという間で、トリドリツリー周辺の森にたどり着きました。


 そういえば、マーマル王国を攻めるとき、橙花ちゃんはこういってました。


 マーマル王国のリオンは、他の魔王と比べると、スピードがけた違いに早い、と。


 実際に戦ってみても、リオンの速さについていけず、苦戦を強いられていたのを思い出しました。


「すごく早い!さすがリオンさん!かっこいい!それに暖かい!」


 劉生君はリオンのたてがみに顔をうずめます。ぽかぽかです。


『後半は関係ないな』


 不快そうに頭を振ります。


「えー、いいじゃん。けちんぼ」

『オレが認めたのはお前を運ぶことだ。それだけでも誇るべきことだって理解しろ』


 リオンはぶつぶつと『本当は乗せることさえもしたくない』『さっさと帰りたい』と文句を言っています。


 それでも、劉生君を落とそうとはしません。たまに劉生君がふらついても、軽くスピードを落として姿勢を直させてくれます。


 やはり、今のリオンは劉生君が思っているよりは良い魔王なのかもしれません。


 そう、橙花ちゃんと一人と一匹で、楽しそうにマーマル王国の方針について話していたときのように。


「……ねえ、リオンさん」


 劉生君はリオンの首にしがみつき、今までずっと気になっていた、あることを問いかけます。


「リオンさん。……リオンさんは、橙花ちゃんを倒したいってまだ思っているの?」

『もちろんだ』


 リオンは即答します。


『あいつは裏切り者だ。裏切り者は死あるのみ、だ』

「……その裏切りって、ギョエイさんが言っていたみたいに、子供たちをミラクルランドからあっちに帰さなかったってこと?」


 ギョエイから聞いた言葉から、劉生君なりに推測して尋ねてみます。しかし、リオンは首を横に振ります。


『いや、また別の理由がある。面倒だが、特別に、あの女の悪事を話してやろう』


 なぜか偉そうな前置きをしてから、リオンは話し始めます。


『そもそもミラクルランドに子供がいると向こうの世界で死を迎えると最初に気がついたのは、レプチレスだったんだ』

「レプチレスさんが?」

『あいつは頭だけはいいからな。向こうの世界を興味本意で調査している間に気がついたらしい』


 そういえば、レプチレスに見せられた記憶のなかで、彼とギョエイが深刻そうに話し合っていたのを見せられました。


 あのときは一体何の話をしているのやら全く検討もつきませんでしたが、ミラクルランドの真相を知った今なら理解できます。


「それまでは、あのことを知らなかったんだね」

『ああ。最初は信じられなかったが、残念ながらレプチレスの話は正しかった。だから、オレたちはミラクルランドにいる子供たちを向こうへ強制的に帰すことにした』

「えっ、そんなことができるの!どうやってやるの?教えて教えて!」


 そしたら、リンちゃんや橙花ちゃんたちと戦わずにすみます。


 目をキラキラさせて答えを待っていましたが、『おあいにく様だが、お前にはできない』と冷たく返されました。


『この世界では大概のことは願いが叶う。とはいえ、世界の理を変えるような願いは叶えられない。普通はな』

「なら、魔王さんたちにはできるってこと?」

『正確にいうと、魔王全員がたった一つの願いを念じて魔力を込めたら、どんな願いでも叶う、だな。誰か一人でも願いに反対したら叶わない。その条件さえなければ時計塔ノ君なんて一捻りだったというのに……』


 キョトンとして首をかしげる劉生君に気がつき、リオンは軽く咳払いをします。


『話を戻そう。子供を向こうに帰すと決めたが、さすがに年上の子供には先に伝えておこうと決まったんだ』

「年上の子……。橙花ちゃんと李火君の二人のこと?」

『その当時はあの二人以外にもいたがな』


 リオンの言い方から察するに、昔のミラクルランドは子供たちがもっとたくさんいたようです。


『それで年長組を集めて、真実を打ち明けた。さすがの時計塔ノ君も顔色が真っ白になっていたな。あいつと仲がいいギョエイと鳥の小娘がやたら心配していた』

「鳥の小娘……。鳥の小娘……?誰のこと?」

『オレの口からあいつの名前を出させるつもりか?』


 本気で嫌そうにリオンは顔を歪めます。


「ああ、トトリさんのことだね!僕もあの鳥さん好きじゃない!」

『っ、そうか!お前、良い趣味をしているな!』


 リオンはさっきと裏腹に満面の笑みで頷きます。トリドリツリーに向かう足取りも自然と軽やかになります。


『真実を告げてから数日がたったある日、多分年上の子供たちが何気なく他の子に伝えたのだろう、子供の数が三分の一になったある日、時計塔ノ君にこう頼まれたんだ。オレたち王たちに話したいことがあるから、集まってほしいと』

「……もしかして、そこで裏切られたってこと?」

『お前にしては察しがいいな。その通り。あいつはオレたちを襲ってきた。レプチレスのところからかっぱらってきた時計の魔力をフルで使ってな』


 彼女の覚悟と願いの強さに、つい劉生君は押し黙ります。


 そんな劉生君の姿を気づいていたリオンでしたが、いたずらに触れることはせず、続きを話します。


『オレらが諸刃ノ君を封印している間に時計塔ノ君は逃げて、子供を守るためのムラを作った。あとはお前の知っている通りだ。オレたちはせめて子供たちを手中に納めようとし、向こうは取りかえそうと戦ったわけだ』

「……そっか」

『どうだ、あの女は卑怯ものだろ?なら、オレと組んで時計塔ノ君を倒してしまおう』

「それは嫌」


 劉生君、さすがの即答です。思わずリオンもため息をついてしまいます。


『あーはいはい。どうせそんなもんだと思った』

「リオンは、橙花ちゃんを倒したいの?それなら僕、リオンとも戦うよ!」


 さっきからリオンは止まったままでしたので、彼の背中から下り、新聞紙の剣を握ります。


 戦意を漲らせ、剣もゴウゴウと燃え盛ります。


 しかし、リオンは興味無さそうに劉生君をちらりと見るだけで、戦う気力もなさそうです。


『出来れば時計塔ノ君を倒してしまいたい。だが、オレはお前に負けてしまった身。他の王もうるさいわけだから、一旦はお前の選択を見守り、支えてやろう』

「本当!?」

『お前が時計塔ノ君に負けるまでは、だがな』

「だったら大丈夫!僕は負けないもん!」


 根拠のない自信を抱き、胸を張ります。


「さあ、トリドリツリーに連れてって!!」


 意気揚々と背中に飛び乗る劉生君ですが、リオンは前足を上げて、劉生君を落としました。


「いたっ!ちょっと!何するの!」

『もう着いてる』

「へ?」

『ほれ、見てみろ』


 促されるまま、劉生君は顔をあげます。


 そこにあったのは、音楽の大樹、トリドリツリーでした。


 


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