5 意外な登場ではなかったけど、出来れば出てきてほしくなったあの人登場!
ミラクルランドの青い五角形は、今や二角を失い、歪な形をしています。
マーマル王国とフィッシュアイランドから伸びた黄色の点は線となって結びついています。
「しかし、赤野っちはすごいよ。一人でここまで来るなんて」
「そ、それよりも!」
劉生君はあたふたとみつる君の袖を引きます。
「早くここから逃げないと!崩れるよ!」
「へ?崩れる?」
みつる君が首をかしげた、その直後でした。
みつる君の思いでできたマーマル城が崩れはじめたのです。
「う、うわあ!!」
「みつる君!」
落ちかけたみつる君をどうにか引っ張って救い上げました。しかし、次から次へと城は崩れていきます。
「あ、赤野っち!?なにこれ!?」
「説明は後で!!今はとにかく、逃げ」
階段が崩壊してしましました。逃げ道はありません。
「……」
劉生君は叫びました。
「リオンさんー!!!!どこー!!??早く助けに来てーー!!!」
すると、のそりのそりと、めんどくさそうに魔王リオンが出てきました。
『なんだ喧しい』
みつる君はわあっ!と悲鳴を上げて、大きく一歩後ずさりました。
「ま、魔王リオン……!どうして……!」
「それも説明はあと!!リオンさーん!!僕たちを助けて!!!」
『断る』
「断られた!?」
言い間違えでも、意地悪でもなさそうです。リオンはだるそうにしゃがみ込みます。何なら前足をペロペロと舐めて、毛繕いをしています。
「ちょっと!!そんなところで時間潰してないで、背中に乗せてよ!」
『はあ?マーマル城の国王たるオレが、どうしてお前らの馬にならねばならない?そもそも、お前は一人でどうにかできるだろ』
「できない!!!できないよ!!!」
『ふん。諸刃ノ君を倒しておいて、非力ぶるな。鬱陶しい』
「そんなっ!お願い!!お願いだから!!」
懸命に訴えていると、ようやく魔王リオンは深くため息をつき、大儀そうに四つ足で立ち上がります。
そのままリオンは劉生君たちのそばに来ると、みつる君は前足で雑に捕まえて背中に乗せ、劉生君は首根っこを咥えました。
「え?」
そのまま、魔王リオンはぴょんと大きく跳びました。
「ひ、ひええ!!!!」
劉生君はギャンギャンと泣きわめきました。リオンは眉間にシワを寄せて、不愉快そうに尻尾をバタバタと振ります。口が開ける状況なら、『これ以上喚くと噛むか落とすぞ』と唸るつもりでしたが、さすがのリオンも喋らないことにしました。代わりに軽く左右に振って、劉生君をびびらせました。
ある程度マーマル城から距離を取ると、リオンは着地して、城を見上げます。
『しかし、改めてこうみても、本当に不格好だ。オレならもっと飴細工をいれてな』
「っ!そうだ!」
みつる君は血相を変えて叫びます。
「城の中にいたみんなを助けないと!!」
今頃下敷きになっているに違いありません。みつる君の表情が真っ青になります。
けれど、リオンはみつる君の動揺を一笑して切り捨てます。
『子供達はもう助けた。お前がキャンキャン吠える必要はない』
リオンが顎で示した場所を見てみると、たくさんの魔物が子供達を背中にちょこまかと走っていました。
「あっ、そうなんだ。よかった……」
みつる君はほっと安心します。けれど、劉生君は違った反応をしました。じーっとじと目で魔王リオンを恨めしげに見つめます。
「リオンさん。どうして僕らはすぐに助けなかったの……?」
『何度も同じことを言わせるつもりか?お前の力を持ってすれば、この子供と一緒に逃げるなんて余裕だろ?。そんなやつを助けるくらいだったら、他のガキを救出する』
「キー!僕、リオンのこと嫌い!!大っ嫌い!」
『安心しろ。オレもお前のことが嫌いだ』
一人と一匹がガルルと唸りあっていると、みつる君がぽつりと呟きました。
「なんか、意外だな、魔王リオンってすごく怖いイメージがあったのに、子供達を助けてくれるんだね」
加えて、喧嘩腰で劉生君が付け足します。
「魔王リオンだし、実は助けた子供を何らかの実験に使うつもりでしょ!そうでしょ!」
『んなわけない』
苦々しげにリオンは舌打ちをします。
『子供なんてものを実験に使って、何を解明するつもりだ。そもそもここはミラクルランド。お前らの世界とは違って、望めば大概のことは叶う世界だぞ』
「うっ、たしかにそうだけど……」
劉生君はしどろもどろになります。
ならばどうして、といった視線を向けるみつる君に、リオンは胸を張って答えます。
『ここはオレの国だぞ?国王たるもの、臣下の人間が苦しんでいるなら助け、侵略者が来れば滅ぼす。当然だろ?』
「「……」」
劉生君とみつる君は顔を見合わせます。
今まで、魔王リオンといったら、「めちゃ怖魔王」と捉えていました。
実際に、五匹の魔王たちの中でも、殺意がけた外れで高かったですし、怖い存在でした。
けれど、劉生君たちに対しての敵意は「侵略してきた人間を倒すため」、「自分の領土に匿った子供達を守るため」と考えれば、その残虐な態度にも幾分か納得ができます。
「俺、魔王リオンのこと誤解してた」
「うん、僕も。意外といい人なんだね」
劉生君の中で、リオンの印象がよくなりました。
『ふん。人間の子供に誉められても嬉しくはないな』
と言いながらも、尻尾をぶんぶんと振っています。
「そうだ!」
劉生君は目をキラキラさせて、リオンを見ます。
「リオンさんはいい人なんだし、僕をトリドリツリーに連れていってくれるよね!」
『……はあ?』
先程までの得意気な表情が一変し、リオンは不愉快そうに眉間にシワを寄せます。
『オレが?よりによってお前を?よりによってトリドリツリーに?』
「お願いっ!」
『自力で行け』
「そんな!」
せっかく僅かながら持ち上がっていたリオンの印象が、一気に悪化してしまいました。
「連れてって!!この流れで連れてって!!」
『断る』
みつる君を背中から降りるよう促してから、リオンは大きくあくびをして伸びをします。
『今度ばかりは、絶対に連れていかないからな。お前らのせいで滅茶苦茶になったマーマル王国を復興しないといけないんだ。そんな暇はない』
「う、うう……。そんな……」
本気で送ってくれる気はないようです。完全にリラックスモードです。
これでは、徒歩でトリドリツリーへ行かねばなりません。これから咲音ちゃんや吉人君、リンちゃんに橙花ちゃんと戦わねばなりませんので、可能な限り体力や魔力を温存したいのですが……。
「ううっ、諦めるしかないかな……」
そもそも、トリドリツリーがどこにあるかさえも見当がつきません。大きい木を目印にどつにかして向かわないといけないなあ、と思っていた劉生君でしたが、そんなとき、みつる君がナイスフォローを投げ掛けます。
「リオンさんの代わりに、俺が復興の手伝いをするってのはどうかな?それなら、赤野っちを送っていけるよ」
『ふーん。お前ごときが?』
「あはは……。リオンさんより上手には出来ないかもしれないけど、俺だって立派な料理人だからね。ほらっ、<レッツ=クッキング>」
フライパンを振ると、肉汁がたっぷりのステーキが出てきました。
もう一度振ると、チョコをふんだんにまとったケーキが、また振ってみると、みずみずしいメロンのシャーベットが出てきました。
「味は保証するよ。どうかな?」
『……ふむ。そういえば、お前は料理を呼び出す魔法が使えたんだったな』
リオンはなめるように料理を眺め、実際にぺろりと食べてみました。
みつる君が作った料理は人間用でしたので、リオンの大きな一口でパクりと食べます。
『ふむ……。まあ、悪くはないか』
目を細め、不機嫌そうにちらりと劉生君を見ます。
『このガキに感謝しろ。特別に送っていってやる』
「やったあ!ありがと!」
『特別に、だぞ。特別に、だからな』
恩着せがましいリオンですが、劉生君は何ら気にしていません。素直にきゃっきゃと喜んでいます。
そんな劉生君に、みつる君が真剣な顔をして話しかけてきました。
「ねえ、赤野っち。咲音っちをお願いね」
みつる君はうつむきます。
「咲音っちは、トリドリツリーでピーちゃんの影をずっと追っているんだ。そんなの、辛すぎる。……咲音っちを助けてあげて」
「もちのろん!」
ふふんと胸を張って、リオンの背中に飛び乗ります。
「じゃあじゃあ、レッツゴー!」
『オレに命令するな』
嫌々ながらもリオンは立ち上がり、駆け出しました。
向かうはトリドリツリー。咲音ちゃんがいる場所です