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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-2 自分勝手な少年の、たった一つの願い事~マーマル王国編~
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3 使えるものは何でも使って、いざみつる君のところへ!

 

 劉生君は牛の魔物に乗っていました。


「頑張れ!牛さん!ファイト!」

『ひどいモー!パワハラだモー!』


 劉生君はニコニコ笑顔で牛に乗り、牛はピーピー喚きながら階段を登っていきます。


「牛さん、そんな泣かないで。僕は悪い人じゃないよ!」

『そんなこと言われても困るモー!怖いモー!』


 ちなみに、劉生君は別に牛を脅迫したわけではありません。「上に行きたいんだけど、乗せていって!」とお願いしただけです。


 しかし、牛からすると、相手は一度とならず二度も魔物に襲ってきた人間です。背丈こそ小さいですが、牛の目で見れば悪魔か闇の化身にしか見えません。


 そんな恐ろしい存在相手からの「お願い」を拒否するなんて、到底できません。無理です。放牧されるに決まっています。


 ですので、牛は涙目、劉生君はニコニコしている、というわけです。


 怯えきってはいますが、腐っても牛、泣き虫とはいえ魔物です。


 城内部の魔物しか知らない階段を登って登って、


 そして、


 最上階へとたどり着きました。


 ○○○


 王がいる間の内装も、城の外装同様、よくいえば身近、悪くいえばチープな食べ物で作られていました。


 食べ物の種類も何もバラバラですが、どこかでこんなラインナップを見たことがあるような気がします。


 首をかしげていると、懐かしい声が聞こえてきました。


「赤野っち。前の方がよかったなって思ってるでしょ」


 玉座の前に立つ男の子は、劉生君に背を向けたまま呟きます。


 彼の声色はどこか寂しげで、苦しそうでした。


 劉生君は彼の背中をじっと見つめて、彼の名を呼びます。


「……みつる君……」


 みつる君が振り返ります。彼の表情はとても悲しげで、疲れきっています。劉生君と戦わなくてはならないから、という心労のせいでもありますが、それ以外のストレスも抱えているようです。


 せっかく奇跡の世界、ミラクルランドに来たというのに、苦しそうです。


 思わず、新聞紙の剣を下に下ろしてしまいます。


「みつる君、大丈夫……?」


 すると、みつる君は微笑しました。


「これから戦う相手を気遣うなんて、赤野っちらしいよ。だからといって、手加減しないからね」


 みつる君はフライパンを手にします。


「<クッキング=アンセーフ>」


 フライパンを軽く振ると、金色の光を放ち、白いお餅が出てきました。


 足止めさせる気でしょう。ピンときた劉生君は、小籠包と同じ方法、「火力を高めて燃やしてしまおう」の策に打って出ました。


「焼き餅になっちゃえ!<ファイアーバーニング>!」


 お餅の表面に焦げ目がつき、固くなりました。これで伸びることもありません。劉生君に当たってコロコロと転がります。


「ならこれで!<クッキング=アンセーフ>!」


 フライパンから飛び出したのは、肉団子や白菜、豆腐などなど、たくさんの具材が入った料理、鍋です。


 熱々ですので、少しでも触れてしまえば火傷するでしょう。


 けれど、劉生君は慌てることなく、手慣れた様子で<ファイアーウォール>を放ちます。


 炎の壁に触れ、鍋の汁具は液体個体かかわらず蒸発しました。


「やっぱり、赤野っちには効かないか……」


 みつる君は攻撃の手を緩めます。


 この隙を逃すまいと、劉生君はみつる君に呼び掛けます。


「みつる君!ここにいても死んじゃうだけだよ!向こうに帰ろう!そりゃあ、ミラクルランドも楽しいけど、もとの世界だって楽しいよ!」

「……楽しい……?」


 みつる君の空気が一変しました。


「俺のことを何にも知らない癖に、知った口聞かないでよ!!」


 みつる君は激昂し、フライパンを振ります。


「<クッキング=アンセーフ>!」


 黄金の光と共に現れたのは細かく砕いた氷、巨大なかき氷です。


 かき氷はゆっくり傾くと、劉生君の頭上に降り注ぎました。


「わあ!ふぁ、<ファイアー」


 しかし、劉生君の技は間に合いませんでした。かき氷を頭からかぶってしまいます。


「あぶぶぶぶ、冷たい!」


 ここで、皆様に問題です。


 暑い夏には是非とも食べたい、美味しいかき氷ですが、食べることにより弊害も生じます。一体、どんな弊害でしょうか。


 答えは、頭がキーンとする、です。


 ここ、ミラクルランドのかき氷は、どうやら食べずして頭が痛くなるようです。劉生君は身体をふらつかせて、頭を抱えます。


「ううっ、目の前がクラクラする……」


 これでは攻撃どころではありません。


 ふらつく劉生君を、ここぞとばかりにみつる君は追撃します。


「<クッキング=アンセーフ>!」


 出したのは網目状に編まれたフランスパンの檻です。劉生君をがっつりと拘束します。


「ぎゃあ! 捕まっちゃった!?」


 頑張って逃げようと、剣を振り回し、噛みついてみましたが、檻は緩みません。


 何せ、檻はフランスパンで作られています。ただでさえ歯が欠けそうなほどに固いパンを、丁寧に編み込んでいますので、ヒビ一つつきません。


 むしろ、中途半端に攻撃をしたせいでフランスパンの欠片がささくれ立ち、劉生君の身体に傷をつけます。


「うっ、動けない……」

「まあね。そうしたんだから」


 檻のそばまでみつる君が近づいてきます。やっぱり顔色が悪く、どこか疲れています。


「ねえ、赤野っち」


 みつる君はちらりと部屋の内装に目をやります。まるで劉生君が王の間に入っていた時のように、悲しげな表情を浮かべています。


「マーマル城、こんな風にかっこ悪くなったのは、どうしてだと思う?」


 唐突な質問に、劉生君はキョトンとしました。とはいえ、せっかく会話になりそうな場面が来たのです。さっきはよく分からないまま怒られてしまったこともあり、追及せず、必死に答えを考えてみます。


「えっと、えっと、あ、そうだ。みつる君の願いが反映してるって、ギョエイが言っていたよ」

「うん。俺の願いのせい。正確に言うと、俺がずっと心の底で気になっちゃっている思いのせいで、こんな不格好な姿になったんだと思ってる」

「……? どういうこと?」


 話が見えてきません。劉生君が問いかけると、みつる君はゆっくりと瞬きをして、劉生君を見ます。


「今のマーマル城はね、学校の給食に出てきたメニューで出来てるんだ。その理由はね、赤野っち。給食の時間だけが、学校生活の中でほっとできる時間だった。食べることに集中すればいいからね。それ以外の時間は、……苦痛だったんだ」


 劉生君はハッとします。


 同時に、劉生君の脳裏に浮かんだのは、みつる君が一人寂しく教室の席に座る姿でした。


「みつる君、あの」

「言わなくてもいいよ」


 みつる君は首を横に振ります。


「先生に相談するほど、ひどくはない。けど、学校に行くのは辛くなるような時間がずっと続いたんだ」


 ぎゅっと手を握りしめます。話すのも辛そう、だけどもう止めることもできず、傷つきながら言葉を紡ぎます。


「もちろん、家に帰ると好きな料理を作れるし、クラブがある日は聖菜っちと一緒にご飯作れる。最近はみんなと遊べて、すごく楽しかった。でも、教室にいる時間はしんどくてね」


 気が付くと、みつる君は涙目になっています。声も震えています。


「もうすぐでクラス替えで、赤野っちたちと同じクラスになれたら、こんな苦しくなくなるかもしれない。でも、もし違ったら? 友達が一人もいないクラスになったら? そう思うと辛くて辛くて、仕方なかった」


 目をこすり、大きく息を吸って吐きます。


「だから、俺はミラクルランドに残る。……そう決めたんだ」

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