2 やっぱり、二度あったから、三度目もある!
そのままぐんぐんと泳いでいき、ギョエイたちはマーマル城までやってきていました。
劉生君はマーマル城を見上げ、ある違和感が頭をよぎりました。
前にマーマル城へ来たとき、城はたくさんのお菓子がきれいに飾ってある、美味しそうであり、かつ幻想的なお城でした。
しかし、今のお城は単にお菓子を山積みにしただけの、不格好な形をしていました。
それに、材料となっているお菓子も、よく言えば素朴、よく言えば地味なものばかりです。そもそも、お菓子自体あまり目につかず、パンや麺など、ご飯ものがメインで建っています。
「お菓子のお城じゃなくなってる……?けど、どうして……」
『リオンの力は感じられないから、他の子供たちの願いが作用しているね。この魔力からすると、みつる君かな。……しかし、本当に強い結界だね』
ギョエイは小さく体を震わせます。さっきよりも苦しげです。
『もう限界かな……。劉生君、あとは頼んだよ。着地は頑張ってね』
「うん!……うん?」
着地、とはどういうことでしょうか。
嫌な予感がしました。
恐る恐るギョエイを伺うと、にっこり微笑み、黄色のオーラをまといます。
『<離岸流>!』
技を出すと共に、劉生君を放り投げました。
「へ?う、うわああああああ!」
ミラクルランドに来て三度目の吹き飛ばしです。三度目とはいえ、そうそう慣れるものではありません。わーわーと騒ぎながら、劉生君は窓を割り、マーマル城に突っ込みました。
揚げパンのクッションにダイブしたおかげで、怪我はしませんでしたが、ちょうど鼻を潰してしまい、バタバタともがいています。
「いふぁい、いふぁいっ。もう、ギョエイったら、僕の扱い荒いよ!!」
ピーピーと文句を行う劉生君。しかし、残念ながらずっとギョエイの悪口を言っている暇はありませんでした。
気がつくと、魔物や子供たちがサンタクロースのような大きな袋を手に、劉生君を睨んでいました。劉生君がその事に気づくと同時に、彼らは白くてふわふわなものを投げてきました。
大きさはバスケットボールくらいでしょうか。けれど、柔らかそうですので、これくらいなら余裕で切れそうです。
「よーし、えいっ!『ドラゴンソード』!」
ところが、そこらへんの対策は抜かりありませんでした。
劉生君が白い饅頭のようなものを切ると、中から熱い汁が飛んできたのです。
「うぎゃあ!熱いっ!?なにこれ!?」
手に飛んできた汁をペロッとなめてみると、旨味がふんわりと口の中に広がります。
「美味しい……。あ、分かった。小籠包!小籠包だ!」
その通り。小籠包です。
中には熱々の肉汁がつまっています。
「僕、小籠包好きだけど、熱い汁は好きじゃないー。火傷しちゃうよ」
バスケットボール大なら、余計火傷するに違いありません。
「なら、全部焼いちゃえ!<ファイアースプラッシュ>っ!」
火の粉をどんどんばらまいて、小籠包をカリカリに焼いて炭にしていきます。
ただ、炭になった小籠包はそれはそれで凶器となりました。
「微妙に痛い!微妙に痛い!」
炭化していますので、切っても熱い汁は飛んでこないのでしょう。が、しかし、常識はずれのことばかり起こるミラクルランドのことです。万一ということもあります。
次々と炭にして、降ってこない方こない方へと逃げていきます。
しかし。
それは、罠でした。
「うわっ!」
劉生君は足をとられ、べたんとこけてしまいます。
「な、なにこれ……!」
どろどろの飴状のものが足にまとわりついていたのです。
『それはヌガーってお菓子だぜ』
クマの魔物は低く唸ります。
『残念ながら、ヌガーに囚われたら逃げられないぜ』
気がつくと、劉生君の回りにぐるりと肉食動物が囲んでいました。
「な、なんでこんなところにヌガーがあるの……?こんなところにあったら、みんな大変じゃないの……?」
ちょっとトイレに行きたいなあと思っても、このヌガーに嵌まったら用も足せません。喉乾いたなあと思っても、嵌まってしまったらヌガーをなめることしかできません。
疑問を言う劉生君に、クマの魔物は呆れます。
『そんなわけなかろう。このヌガーはお前を捕まえるために用意したんだ』
「ええ!?そうなの!?」
なら、捕まっていられません。
懸命に抜け出そうともがくも、まるで底無し沼のようにズブズブと落ちていくばかりです。
クマは高笑いします。
『はっはっは。残念だったな。お前の火で熱すれば溶けるだろうが、そんなことをしてはお前の足が焼けてしまうことであろう。諦めて我が新王、林みつる様の前にひれ伏すがいい』
「熱で溶けるんだね。よーしっ!」
迷いなく『ドラゴンソード』をヌガーの中に突き刺し、魔力を込めます。
『<ファイアーウォール>、地上バージョン!』
炎の壁をヌガーに押し付けます。
激しい炎に熱され、ヌガーは徐々に液体へと戻っていきます。同時にヌガーの温度も上昇し、熱い鉄板を押し付けられているような痛みに襲われます。
「っ!」
けれど、劉生君は魔力を緩めることはなく、むしろ火力を強めます。
「おりゃあああああ!!!」
足が抜けるようになりました。
劉生君は足を引き抜き、ヌガーの沼から抜け出しました。
魔物たちは強面を崩し、戸惑うように互いに顔を見合わせます。
『ヌガーをあんな柔らかくするまで熱するだと!?』
『そんなバカな。あいつは痛覚がないのか!?』
もちろん、痛いに決まっています。
けれど、劉生君の思いが灼熱の痛みさえも凌駕したのです。
劉生君はじんじんする火傷さえも気にせず、新聞紙の剣でヌガーを掬い上げ、魔物たちに撒き散らしました。
「これでも食らえ!」
熱々のヌガーをかけられ、肉食獣の魔物たちは悲鳴を上げて逃げ惑います。
もろにうけた魔物は霧となって消えてしまいますし、そうでなくても、急速に固まったヌガーに囚われ、身動きがとれずもがいています。
「この隙に、逃げるよ!」
阿鼻叫喚の魔物たちの合間を潜り、劉生君は階段を探し出して駆けます。
けれど、さすがの劉生君も火傷で赤く腫れた足では、そうそう走れません。
「うっ、急がないといけないのになあ……」
そんなときです。
『モーモー、赤野劉生ってのが来たらしいモー。怖いから早く逃げるモー』
モーモー言う魔物が走っていきました。
「……」
劉生君は、ポン、と手を叩きます。
「そうだ!」