16 意外な再登場!?
全ての戦いが終わり、完勝した劉生君は小躍りします。
「やったー! 勝った!」
あまりの嬉しさに、何なら涙も流します。
「うえーん。よかった、よかったよう」
幸路君、みおちゃんは劉生君の上下に激しく揺れる感情に、呆れ果ててしまっています。
「おいおい、泣くか喜ぶかどっちかにしろ。せわしない」
「泣き虫おにいちゃん、本当に泣き虫なんだね」
聖菜ちゃんは黙って優しく微笑んでいます。
一方で、李火君はなんとも言えないような表情でため息をつきます。
「しかし、この人数差でまさか負けるとは思ってなかったよ。みんなで力を合わせて戦ってたのにね。どこぞの誰かさんたちが裏切っちゃうから……」
恨めしげに幸路君と聖菜ちゃんに視線を送ります。
けれど、二人が返事をする前に、友之助君が口を開きました。
「いや、二人のせいじゃねえ。俺らの気持ちがバラバラだったのが問題だったと思う」
友之助君は、みおちゃんを、聖菜ちゃんを、李火君を、それから幸路君を見ます。
「俺らは、力を合わせて劉生を倒そうとしていた。けど、どうして劉生と戦うのか、どうしてミラクルランドに残るのか、そこの思いや願いはみんなバラバラだった」
みおちゃんは、元の世界の家族に嫌気がさして、ミラクルランドに逃げ出したいと思っていました。
劉生君と戦うこと自体には、あまりこだわりはありませんでした。ですので、どこか遊び感覚で戦っていたのです。
聖菜ちゃんは、元の世界にあまり好意的ではありませんでしたが、だからといって死んでしまいたいと願うほどではありませんでした。
それでも残っていたのは、友達である橙花ちゃんを尊重したかったから、みおちゃんを始めとした他の子たちのため、といった目的がありました。
友達である劉生君と戦うことは、彼女にとって戸惑いしか生みませんでしたし、何から何まで犠牲にしてまで、ミラクルランドに残りたいと思うほどの執着心もありませんでした。
李火君は、元の世界が面倒になってミラクルランドに残ることにして、橙花ちゃんへの違和感を抱えたまま、なあなあで劉生君と戦いました。
真剣さはそこまででもなく、どこかゲーム感覚で戦っていました。
幸路君も、みんなのためと騙し騙しミラクルランドに残っていましたが、劉生君を倒そうとする橙花ちゃんの考えに反発して、ついには橙花ちゃんのチームから抜け出しました。
友之助君も、他の四人とは思いの方向性が違います。
元の世界で過ごしたくないと思う子たちの救済、といった気持ちもありましたが、それ以上に、友之助君は橙花ちゃんに頼られることが嬉しくて、彼女の言葉に従っていたのです。
橙花ちゃんが間違っているかもしれないと思えば思うほど、戦いへの意欲がなくなり、ついには負けを宣言してしまいました。
五人だけでも、ここまでミラクルランドや劉生君へ向ける気持ちが異なります。そんな彼らが力を合わせたところで、バラバラになり、本来の力が出せないのも仕方ないことでした。
友之助君は、疲れたようにサンゴの柱に寄りかかります。
「結局、俺らは個人個人の願いで動いていたってこと。そんなんじゃ、劉生にも負けるさ」
劉生君はふんふん、と話を聞いています。
「つまり、単に力を合わせるだけじゃ駄目で、みんなの気持ちも一つにしなくちゃいけないってことなんだね」
「そういうことだ。だから、俺らは負けちまったんだ」
「僕が勝ったってことは、……元の世界に帰ってくれるの?」
不安そうな劉生君に、友之助君は微笑みます。
「まあ、仕方ない。そういう約束だったからな」
「えへへ、よかった!」
「フィッシュアイランドにいる子たちには、俺から説得してみる。そこは任せておけ」
「うん! お願いね!」
友之助君と劉生君は、互いに笑いあいます。李火君もみおちゃんも幸路君も、勝者も敗者も関係なく、お互いの健闘を祈ります。
和やかな空気が流れます。
そんな中、聖菜ちゃんがそろそろと手をあげます。
「……ちょっと、いい?」
「どうかしたんか?」
幸路君が尋ねると、聖菜ちゃんは観覧車を指差します。
「……あれ、なんか、すごいことになってるよ」
李火君は皮肉気に鼻を鳴らします。
「すごいことって、そんな抽象的な表現、君らしくないね。一体何がどうなっているのかを言ってくれないと、こっちもどう反応すればいいのか困るよね?」
嫌味を言いながら顔をあげ、李火君は真っ青になります。
「……なんか、すごいことになってる」
端的に述べましょう。
観覧車が、倒れてきています。
劉生君たちを圧し潰そうとするかのごとく、倒れてきています。
「ぎゃ、ぎゃああああ!!!!!」
劉生君が叫び、みおちゃんが悲鳴をあげます。
「ちょ、と、友之助お兄ちゃん!! どうにかしてよ!!!!」
「いや、どうにかするって、と、ともかく逃げるぞ!!」
みんなは必死に走り出しました。けれど、そううまく逃れることはできないでしょう。下敷きにならないような場所に逃げるまで、時間がなかったのです。
それに、友之助君は人払いをしていましたが、観覧車が倒れてくるぎりぎりの範囲には、みんなの戦いを心配げに見守っていた多くの子供たちがいました。
友之助君は彼らも助けようと走っていきますが、到底、間に合わないことでしょう。
そう、誰も助けに来なかったら、の話ですが。
『起きて早々、大変なことになってるね』
のんびりとした声色が聞こえると、直後、劉生君たちの体がふわりと浮かびました。
友之助君は上を向き、あっと息を飲みます。
「ま、魔王ギョエイ!?」