15 友之助君の思い、劉生君の願い
友之助君は淡々と語ります。
「俺らは俺らで勝手に幸せに生きる。だからお前はお前で幸せに生きろ。それでいいだろ。俺らのことは、放っておいてくれ。そう約束してくれれば、俺らは、」
お前を傷つけない、と続けようと致しましたが、劉生君は間髪いれず幸路君に飛びかかってきました。
「なっ!?」
幸路君は思わず腕を大きく上げます。勢いをつけすぎたのでしょうか。拳銃はからりころりと下に落ちてしまいました。
「っ、拳銃が、」
幸路君は拳銃に手を伸ばします。
しかし、指の先が触れる前に、劉生君が組み付いてきました。
「この、離れろっ!」
「嫌だ!離れない!!僕は幸路君たちと一緒に幸せになりたいんだ!幸路君が負けてくれるまでは、絶対に離れない!!」
劉生君は吠え、噛みつきました。これは比喩表現ではありません。本当の意味で友之助君の首をガブガブ噛みついたのです。
「痛い痛いっ!やめろ!」
幸路君は劉生君を引き剥がそうと手を伸ばします。しかし、がしりとしがみついているので、全然とれません。
「このっ……」
それなら、足を思い切りつねるか、自分がひっくり返って劉生君を地面に叩きつけてやろうと、しゃがんでがむしゃらに手を伸ばします。
すると、指先に何か固いものが触れました。先ほど落としたブドウの拳銃です。
こんなに密接している状況です。劉生君の背中を撃ち抜くのも容易です。
運はどこまでも友之助君に味方してくれています。
この機を逃す訳にはいきません。
友之助君は、ブドウの銃を手にしました。
そのまま背中につき向けようとしますが、劉生君の呻くような叫び声に、ぴたりと動きを止めました。
「絶対に、僕は負けない。負けないぞ……!」
目元を真っ赤に、ボロボロと涙を流しながらも、劉生君は友之助君にしがみつき、もがき、噛みついてきます。
「……僕は、みんなを、みんなを助けるんだ……。橙花ちゃんも、リンちゃんも、友之助君も、みんなを助けるんだ……!」
その姿は、まるでみんなを救おうと一人でもがく片角の女の子のようでした。
「……」
友之助君は、一人で孤軍奮闘する橙花ちゃんの力になりたいと思い、懸命に努力していました。
子供達を率いて、魔物たちと戦って。
それでも、元々の能力が高い劉生君たちに敵わず、ムラに取り残されつづけました。
自分では、納得したつもりでした。
橙花ちゃんがいない間、ムラを守るのは自分だけだと。
けれど、胸中ではモヤモヤとした気持ちを抱き続けていました。
自分も、橙花ちゃんの隣で戦いたい。
橙花ちゃんを守りたい。
彼女のためになるようなことをしたい。
そう願い、懸命に特訓をしました。
魔王を全て倒し、魔神を倒した後、喜び、安堵しましたが、同時に「俺は結局、蒼の力になれなかった」と落胆したのも事実でした。
そんなときに、橙花ちゃんからミラクルランドの真実と、劉生君が敵となったことを告げられたのです。
橙花ちゃんにフィッシュアイランドの守りは君に託したいと言ってくれた、その瞬間こそ嬉しくて嬉しくて、ついつい顔が綻んでしまいました。
けれど、ふとしたタイミングで、みんなをここに残してもいいのかと迷いがよぎってしまいます。
橙花ちゃんに頼ってもらったんだから、みんなのためだから、と誤魔化して誤魔化して、ここまできました。
……本当に、これでよいのでしょうか。
必死に抗う劉生君を見ていると、迷いが膨れ上がってきて、拳銃を握る力すらなくなっていき、
ついには、ぽとりと、地面に落としてしまいました。
「もう、いいよ」
頭で考えるより、心の中から、思いを口にします。
「もう、いい。……俺の負けでいい、から」
優しく劉生君の肩を叩きます。劉生君は噛みつくのを止めて、口を離します。劉生君はキョトンとして、泣いて腫れた目をまん丸にさせます。
「……いい、の?」
「ああ。その代わりに、……絶対に蒼を助けてくれ。いいな」
劉生君はふんわりと、笑顔になります。
「うん、もちろん!!」