13 子供な子供と、大人な子供
みおちゃんは顔を上げます。
彼女の表情はひどく大人っぽく、どこか冷たい目でした。
「強いなら、困難にも立ち向かうべき。そうでないなら、弱者になる。私は本来、現実世界に戻るべき」
誰かの言葉を引用するかのように、みおちゃんは淡々と述べます。
「だから私は、……弱い。弱いんだよ、幸路」
無表情で、平淡とした口調で言うみおちゃん。
しかし、幸路君はというと、
「……はあ……」
幸路君はキョトンとしています。クエスチョンマークがはっきり見えるくらい、キョトンとしています。
「よくわからないが、嫌だなあって思うならちゃっちゃとトンズラした方がいいだろ」
「け、けど……。逃げたら、負け犬になるって、いってたよ」
「ほんと、みおの親は厳しい人だよなあ。まあ、俺はそうは思わないがな!嫌なもんは嫌だし」
「……けど、幸路はみおたちを連れて帰ろうとしてるじゃん」
「劉生はみんなを連れて帰りたいみたいだな。俺もどちらかというと、劉生の方が正しい気がする。でも、もしもみおがここに残りたいっていうなら、」
幸路君は、にこりと笑って手を伸ばします。
「一緒に残ってやろうか?」
「……へ?」
みおちゃんがぽかんとしている間に、幸路君はペラペラと一人で喋ります。
「その前に、蒼をどうにかしないといけないけどな!今のあいつはちょいとよくない。あんまりいい顔してないし!だから、蒼をどうにかした後で、色々考えるさ」
「……泣き虫お兄ちゃんの味方になった癖に、変なの」
至極当然の意見ですが、幸路君は不思議そうに首をかしげます。
「そうなのか?俺は頭が悪いからよく分からないが、俺は劉生の味方でもあり、お前の味方でもあるぜ!」
「……」
みおちゃんは、一歩、後退ります。
信じられないとでも言いたげに、しかしすがるように、みおちゃんは幸路君を見つめます。
「……どうして……。そこまでしてくれるの?だって、みおは幸路と仲良くなかったのに」
「いやー……。そんなこと言われても困る……。力になりたいって思ったから、力になるだけだ」
幸路君は頬をかきます。
「けど、出来れば俺はもとの場所に帰ってほしいんだがな。そうだ、みおの両親が面倒なら、俺がなんとかしてやろっか!」
「……どうやって?」
「ふっふっふ、それはだなっ!」
幸路君はグッと親指を立てます。
「みおの両親と会ってから考える!!」
つまり、何も考えていないという意味です。
これぞビックマウスです。
みおちゃんは怒る云々を通り越して、思わず吹きだしてしまいました。
「もう、幸路ったら。本当の馬鹿だよ。大馬鹿者だよ」
「人のことをバカバカ言うなよ」
幸路君は唇を尖らせて、ブーブー文句を言います。みおちゃんは大人っぽく微笑むと、小首をかしげます。
「ねえ、幸路。本当にどうにかしてくれるの?」
「おうよ! 誓ってもいいぞ!」
「もしどうにもならなかったら、幸路のこと馬鹿って呼ぶし、大大大嫌いになるよ! いい?」
「え、今までは嫌いじゃなかったのか?」
「うるさい。返事は?」
幸路君は、迷いなく答えます。
「もちろん! いいぞ!」
みおちゃんは、小さく笑います。
「なら、幸路の勝ちでいいよ」
特別だからね、と笑う彼女は、まるで何か吹っ切れたような、明るい笑みを浮かべていました。