12 幸路君VSみおちゃん! 優しい幸路君!
聖奈ちゃん李火君の勝負にけりがついたので、少し時間を戻して、今度は別の二人、幸路君とみおちゃんの戦いを見てみましょう。
李火君がまだまだやる気を出さず、聖奈ちゃんの説得を聞いていたとき、二人はどうしてたかというと、
「みお、幸路と戦いたくない!幸路嫌い!」
「いいじゃねえか!楽しいバトルと洒落こもうぜ!」
「洒落こまない!幸路嫌い!」
キャンキャン吠えながら、みおちゃんは遠距離攻撃をしかけ、幸路君は目を爛々と輝かせながら槍で弾いていました。
「お前は本当に強くなった!俺はお前と戦えて嬉しいぞ!」
「みおは嬉しくない!全然嬉しくない!!」
「んだよ、今日のみおは怒りっぽいな。ひょっとして、ちゃんと寝れてないんじゃないか?寝ないと元気でないぞ?ご飯も食べてるか?好き嫌いなくなったと聞いてるが、甘いものばかり食べてると体にど」
「みお、幸路のそういうとこが嫌い!」
みおちゃんはプクリと頬を膨らませて、ポケットから折り紙を取り出します。
折り紙はぷくぷくと膨れると、大きなゴムの風船になりました。
「おー、風船かあ。まっ、このくらいなら俺の槍でどうにかできるな!」
幸路君は余裕ぶっこいて、風船を槍でつつきます。
しかし、風船はふにゃりとへっこむと、ぼよんと跳ね返ってきました。
「おわっ!」
幸路君、勢いのまま尻餅をつきます。
「へ?風船なのに割れない……?どういうことだ?」
みおちゃんは得意気に腰に手を当てます。
「ふっふーん!あのね、この風船はね、ゴムで出来てるんだ!だからね、ちょっとやそっとじゃ割れないの!」
「ほー、みおにしては知恵が回るな。あ、分かったぞ。李火が手を回したろ。そうに違いないな!」
「むー、そうだけどさあ、その言い方ムカつく!ムカつくから、ボール一杯投げちゃう!」
「うおっ!?」
反射的にもう一度突いてみますが、結果はお察しの通り、弾かれてしまいます。
「だああああ!もう!だるい!楽しくない!!」
「ふふーん、みお、すごいからね!このまま押し潰されちゃえ!」
ボールが一気に押し寄せてきました。
「畜生、このままじゃ、ペチャンコに潰される……!」
血で血を争う戦いの結果、潰されるのなら、まだ幸路君も納得がいきます。
けれど、このまま手も足も出ず、成すすべなく倒されるのは、幸路君のプライドが傷つきます。ずたぼろです。三日三晩寝込みます。
「どうすれば……。そうだっ!」
そう、あれは『仮面恐竜キョウスケ』の第三十九話、「洞窟の秘密」で、準主人公を救うために主人公が洞窟探検したときのこと。
主人公たちが洞窟に入ると、数々のトラップが発動しました。
立て続けの罠に、主人公はある一計を図りました。
「よーし、やってみるぞ!とりゃー!!!」
なんと、幸路君はゴム風船に突進すると、がしりとしがみついたのです。
幸路君が勢いよく飛び付いたため、風船はぐるんぐるんと回転します。幸路君がひっついたまま、みおちゃんに突撃しました。
「え?ちょ、ちょっと!こっちこないで!」
みおちゃんは逃げようとしますが、ボールの転がる速度には敵いませんでした。
幸路君はちょうどいいタイミングでぴょんとジャンプして、みおちゃんに飛び付きました。
「捕まえたぜ!」
「きゃあ!はーなーしてー!変態ー!!セクシュアルハラスメントー!!!」
「なんだよ、セクシュアルなんちゃらって。いいから負けを認めろ。それか正々堂々と戦え」
「いーやー!」
みおちゃんはバタバタと暴れます。
「暴れんなって!……ん?……なっ!」
幸路君は、ある方向を見て固まってしまいました。
きっと、幸路君に捕まってビックリしたせいで、みおちゃんは魔法の操作がうまくできなかったのでしょう。
風船の大群は、真っ直ぐ幸路君とみおちゃんへと転がってきたのです。
あまりの数です。みおちゃんは足がすくんで固まってしまいました。
「っ!」
幸路君はみおちゃんを抱えて逃げました。しかし、風船はなおも幸路君たちを追いかけてきます。
「つーことはっ!」
みおちゃんを珊瑚の柱に置き、自分は横によけます。
「おりゃあああ!!槍!貫け!!」
願いを込めて、幸路君は風船に何度も何度も槍で突きました。
すると、バンっと破裂音を盛大に鳴らし、風船が破裂しました。
「っ!」
幸路君は割れた衝動に吹き飛ばされ、珊瑚の柱に叩きつけられました。
「あー、くそ、痛いな」
息を荒げ、幸路君はゆるりと顔を上げます。
「みお。お前、怪我はないか」
「け、怪我はないけど……」
「ならよかった」
幸路君は珊瑚の柱に手をついて立ち上がろうとしますが、力尽き、座り込んでしまいました。
「あー、畜生。全然力が出ない。魔力も使いすぎたな」
「……」
みおちゃんは、呆然と幸路君を見つめます。
「……バカじゃないの?」
「ん?なにがだ?」
「どうして、……どうしてみおを助けたの?助けなきゃ、みおを倒せたのに」
「おいおい、あれは別にみおが考えて作った技じゃないんだろ?事故みたいなもんだ。それで勝ってもスッキリしないわ」
当然とばかりに、幸路君ははっきりと述べ、すぐに残念そうにため息をつきます。
「けど、これじゃあ、もう戦えないな。俺の負けかあ。うー、もうちょい戦いたかったんだがなあ」
ひどく残念そうに幸路君は唇を尖らせますが、何の後悔もない、すっきりした表情です。
「ほんと、みおは強くなった!立派立派!」
負けたはずの幸路君は晴れやかな表情を浮かべ、みおちゃんを称賛します。
一方、勝者のみおちゃんはというと、顔を曇らせ、首を横に振ります。
「……違うよ」
「ん?」
「みおは、強くない。全然強くない」