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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-1 自分勝手な少年の、たった一つの願い事~フィッシュアイランド編~
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12 幸路君VSみおちゃん! 優しい幸路君! 

 

 聖奈ちゃん李火君の勝負にけりがついたので、少し時間を戻して、今度は別の二人、幸路君とみおちゃんの戦いを見てみましょう。


 李火君がまだまだやる気を出さず、聖奈ちゃんの説得を聞いていたとき、二人はどうしてたかというと、


「みお、幸路と戦いたくない!幸路嫌い!」

「いいじゃねえか!楽しいバトルと洒落こもうぜ!」

「洒落こまない!幸路嫌い!」


 キャンキャン吠えながら、みおちゃんは遠距離攻撃をしかけ、幸路君は目を爛々と輝かせながら槍で弾いていました。


「お前は本当に強くなった!俺はお前と戦えて嬉しいぞ!」

「みおは嬉しくない!全然嬉しくない!!」

「んだよ、今日のみおは怒りっぽいな。ひょっとして、ちゃんと寝れてないんじゃないか?寝ないと元気でないぞ?ご飯も食べてるか?好き嫌いなくなったと聞いてるが、甘いものばかり食べてると体にど」

「みお、幸路のそういうとこが嫌い!」


 みおちゃんはプクリと頬を膨らませて、ポケットから折り紙を取り出します。


 折り紙はぷくぷくと膨れると、大きなゴムの風船になりました。


「おー、風船かあ。まっ、このくらいなら俺の槍でどうにかできるな!」


 幸路君は余裕ぶっこいて、風船を槍でつつきます。


 しかし、風船はふにゃりとへっこむと、ぼよんと跳ね返ってきました。


「おわっ!」


 幸路君、勢いのまま尻餅をつきます。


「へ?風船なのに割れない……?どういうことだ?」


 みおちゃんは得意気に腰に手を当てます。


「ふっふーん!あのね、この風船はね、ゴムで出来てるんだ!だからね、ちょっとやそっとじゃ割れないの!」

「ほー、みおにしては知恵が回るな。あ、分かったぞ。李火が手を回したろ。そうに違いないな!」

「むー、そうだけどさあ、その言い方ムカつく!ムカつくから、ボール一杯投げちゃう!」

「うおっ!?」


 反射的にもう一度突いてみますが、結果はお察しの通り、弾かれてしまいます。


「だああああ!もう!だるい!楽しくない!!」

「ふふーん、みお、すごいからね!このまま押し潰されちゃえ!」


 ボールが一気に押し寄せてきました。


「畜生、このままじゃ、ペチャンコに潰される……!」


 血で血を争う戦いの結果、潰されるのなら、まだ幸路君も納得がいきます。


 けれど、このまま手も足も出ず、成すすべなく倒されるのは、幸路君のプライドが傷つきます。ずたぼろです。三日三晩寝込みます。


「どうすれば……。そうだっ!」


 そう、あれは『仮面恐竜キョウスケ』の第三十九話、「洞窟の秘密」で、準主人公を救うために主人公が洞窟探検したときのこと。


 主人公たちが洞窟に入ると、数々のトラップが発動しました。


 立て続けの罠に、主人公はある一計を図りました。


「よーし、やってみるぞ!とりゃー!!!」


 なんと、幸路君はゴム風船に突進すると、がしりとしがみついたのです。


 幸路君が勢いよく飛び付いたため、風船はぐるんぐるんと回転します。幸路君がひっついたまま、みおちゃんに突撃しました。


「え?ちょ、ちょっと!こっちこないで!」


 みおちゃんは逃げようとしますが、ボールの転がる速度には敵いませんでした。


 幸路君はちょうどいいタイミングでぴょんとジャンプして、みおちゃんに飛び付きました。


「捕まえたぜ!」

「きゃあ!はーなーしてー!変態ー!!セクシュアルハラスメントー!!!」

「なんだよ、セクシュアルなんちゃらって。いいから負けを認めろ。それか正々堂々と戦え」

「いーやー!」


 みおちゃんはバタバタと暴れます。


「暴れんなって!……ん?……なっ!」


 幸路君は、ある方向を見て固まってしまいました。


 きっと、幸路君に捕まってビックリしたせいで、みおちゃんは魔法の操作がうまくできなかったのでしょう。


 風船の大群は、真っ直ぐ幸路君とみおちゃんへと転がってきたのです。


 あまりの数です。みおちゃんは足がすくんで固まってしまいました。


「っ!」

 

 幸路君はみおちゃんを抱えて逃げました。しかし、風船はなおも幸路君たちを追いかけてきます。


「つーことはっ!」


 みおちゃんを珊瑚の柱に置き、自分は横によけます。


「おりゃあああ!!槍!貫け!!」


 願いを込めて、幸路君は風船に何度も何度も槍で突きました。


 すると、バンっと破裂音を盛大に鳴らし、風船が破裂しました。


「っ!」


 幸路君は割れた衝動に吹き飛ばされ、珊瑚の柱に叩きつけられました。


「あー、くそ、痛いな」


 息を荒げ、幸路君はゆるりと顔を上げます。


「みお。お前、怪我はないか」

「け、怪我はないけど……」

「ならよかった」


 幸路君は珊瑚の柱に手をついて立ち上がろうとしますが、力尽き、座り込んでしまいました。


「あー、畜生。全然力が出ない。魔力も使いすぎたな」

「……」


 みおちゃんは、呆然と幸路君を見つめます。


「……バカじゃないの?」

「ん?なにがだ?」

「どうして、……どうしてみおを助けたの?助けなきゃ、みおを倒せたのに」

「おいおい、あれは別にみおが考えて作った技じゃないんだろ?事故みたいなもんだ。それで勝ってもスッキリしないわ」


 当然とばかりに、幸路君ははっきりと述べ、すぐに残念そうにため息をつきます。


「けど、これじゃあ、もう戦えないな。俺の負けかあ。うー、もうちょい戦いたかったんだがなあ」


 ひどく残念そうに幸路君は唇を尖らせますが、何の後悔もない、すっきりした表情です。


「ほんと、みおは強くなった!立派立派!」


 負けたはずの幸路君は晴れやかな表情を浮かべ、みおちゃんを称賛します。


 一方、勝者のみおちゃんはというと、顔を曇らせ、首を横に振ります。


「……違うよ」

「ん?」

「みおは、強くない。全然強くない」


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