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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-1 自分勝手な少年の、たった一つの願い事~フィッシュアイランド編~
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9 最後の一人は、動物好きな女の子

みおちゃんが作った折り紙の金魚たちは、スピーディーに泳ぐと、劉生君をつつきます。


「痛い痛いっ!ちょっと待って、ちょっと待って!」

「待たないよーだっ!」


みおちゃんはベーっと舌を出します。


続けて、友之助君の攻撃です。


みおちゃんのようにお喋りせず、無言でブドウ銃を構え、容赦なく撃ってきました。


「ぎゃあ!わあ!うぎゃあ!」


弾を避けようとすると魚に太ももを齧られ、魚を避けようとすると弾が頬をかすめます。


「うぐぐぐ……!そんな遠くから攻撃してこないでよ!剣で戦おうって!」


李火君はチッチと舌をならして、愉快そうにニンマリとします。


「友之助君は剣ってタイプじゃないからね。遠距離でチマチマ戦う子だよ」


李火君は大きな石に寄りかかり、のんびりと劉生君を眺めます。


「友之助君本人は、『魔王と戦うには、劉生みたいに特効できなきゃダメなのに』って悔しがってたけど、そんな劉生君とは結構有利に戦えそうだね。よかったねえ、友之助君」


誉めているのか嫌みを言っているのかは判断つきませんが、とりあえず李火君は戦わず、高みの見物を決め込んでいます。


「もー、李火!一緒に戦お!」「嫌だよ。俺はここから二人を応援することに決めたんだから」「ずるーい!」


みおちゃんはブーブーと文句を言います。真の指揮者、友之助君はちらりと李火君を一瞥するのみで、すぐに攻撃を再開します。


「痛っ!痛っ!痛いよ!?もう……!」


劉生君は痛みからか涙目になりながらも、みおちゃんに強く訴えかけます。


「みおちゃん、こんなことはやめて、みんなで一緒にもとの世界に帰ろうよ!」

「やーだよ!」


みおちゃんはふんっと鼻をならします。


「だって、あっちの世界にいても楽しくないもん。パパもママも、みおと遊んでくれないもん。だから、みお、ここに残る!泣き虫お兄ちゃんを倒す!」


みおちゃんは折り紙をおり、思いっきり投げてきました。


「いけーみおちゃん号!出発進行ー!!」


小型船が汽笛を上げて襲ってきました。ファイアーウォールでは防ぎきれなさそうでしたので、劉生君は横によけます。


しかし、それがみおちゃんの、――もとい、李火君の策略でした。


李火君は口元を緩めます。


「いまだよ、友之助君」


そうです、船には友之助君が乗っていたのです。


小船は急ブレーキ、逆走します。船のスピードに乗り、友之助君が劉生君の背後に飛び出ます。そのまま、間髪いれずに銃撃を繰り出します。


「ぎゃあ!ふぁ、<ファイアーウォー>」

「させないよー!」


みおちゃんは折り紙の手裏剣を投げます。


「えいえいえい!!!」

「うわっ、<ファイアースプラッシュ>!」


どうにかこうにか、火の粉でダメージを最小限に抑えようとしますが、途中、劉生君はくらりとふらつき、荒い息を吐きます。


さすがの劉生君でも、体力の限界が近づいているのです。


李火君はじっと劉生君の異変を観察します。


「劉生君の力の根源は、魔神の力だったはず。魔神が滅んだ今、劉生君は前のように無尽蔵な魔力はない。つまり、そこをつけば勝てるってことだね」

「李火、すこく偉そうだね!」

「まあね」

「李火は全然動かないのにね!」

「こうして知恵を出しているからセーフさ。あとは、友之助君が決めてくれたら、ゲームセット、だね」


劉生君の様子を間近で見ていた友之助君も、李火君と同じように感じていました。


ですので、ブドウの銃に渾身の魔力をこめます。


「これで、止めだ……!」


グレープ色の銃弾は、劉生君に直撃しました。


「っ……!」


劉生君はふらりと倒れ、膝をついてしまいました。


「やったー勝った!泣き虫お兄ちゃんに勝ったよ!」


みおちゃんはおおはしゃぎです。李火君もにっこり笑顔です。


「さてさて、あとは捕まえて、蒼に渡すだけだね。蒼が来る前に片付いてよかったよかった」


友之助君は相変わらず何も話さず、表情が固いまま、劉生君の方へと歩いていきます。


手には、海藻を幾重にも編んで作ったヒモが握ってあります。


「むむむむっ……!」


劉生君、決死の思いで『ドラゴンソード』、もとい、新聞紙の剣を構えて、ギロリと睨みます。


「僕は絶対に負けない。ぜっっっったいに負けない、みんなと、みんなと一緒に帰るんだから!!!」


李火君は肩をすくめます。


「あんな追い詰められて、まだ諦めないんだね。もうあれは執念だよ、執念」


李火君はバカにするような声色をします。一方で、友之助君は歩を止めて、カチリと固まりました。


ボロボロになっても、こんな袋叩きになっても、なおも自らの願いを訴え続ける劉生君。


そんな彼を、友之助君はじっと見つめます。


「……友之助お兄ちゃん?どうかしたの?」


みおちゃんが不思議そうに声をかけ、ようやく友之助君は正気な戻ったかのようにびくりと体を跳ね、劉生君から目をそらします。


「……悪く思うなよ。これも、みんなのためなんだ」


ようやく友之助君は覚悟を決めて、一歩踏み出しました。


しかし、その隙が、友之助君たちにとっては仇となり、劉生君にとっては、幸いとなりました。


ゆらりと、海藻が揺れました。


李火君が何事かと後ろを振り向くと、眼前に、巨体な魚が飛び出してきました。


つんと、三角の突起が突き出し、口のなかは小さな歯がぎっしりと並んでいます。


みおちゃんは怯えて、李火君にしがみつきます。


「さ、サメ!サメだよ、 李火!!食べられちゃう!!」

「落ち着いて、みお。あれはジンベエサメだから人は食べないよ」


確かにそのサメは、灰色の背中に可愛らしい白の水玉模様がついているサメ、ジンベエサメです。おとなしい性格ですので、B級映画で出てくるような人食いサメとは違って、優しい目をしている気がします。


それでも、大きいことには変わりありません。


みおちゃんは怯えていますし、李火君だって、内心身構えてました。


けれど、ジンベエサメは二人の頭上を通りすぎました。彼の(彼女の?)目的は別にありました。


ジンベエサメの目的。つまりそれは、


「へ?わあ!」


劉生君です。


サメは真っ直ぐ劉生君に向かうと大きな口を開けて、パクリ、と、なんと食べてしまったのです。


「「なんだって!!??」」


李火君と、友之助君は叫んでしまいました。


「た、食べられちゃった……!泣き虫お兄ちゃん、食べられちゃったよ!」

「だ、大丈夫のはずだよ、みお。ジンベエサメは肉食じゃないから。……現実世界では、そのはず、だけど……」


さすがの李火君も自信なさげです。


けれど、劉生君が食べられることはありません。


「……大丈夫だよ、李火」

「……その声は……」


李火君の言葉を遮るように、みおちゃんが大声を上げます。


「聖奈お姉ちゃん!」


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