7 最強のタッグは解散です!
「よーし!どんどんいくぜ!!」
幸路君、テンション爆上がりで次々と魔物やロボットたちを倒していきます。
魔物も及び腰で、震えて固まってしまいます。
李火君が笛を吹いて無理やり促すと自棄になって攻撃を再開させますが、
「ぬるいぬるい!!」
幸路君に一刀両断されて、終了です。
これには、さすがの李火君も眉間にシワを寄せます。
誰の目から見ても、これでは李火君の軍勢が一網打尽になってしまいます。
「本当は劉生君のために自爆の機能は残しておきたかったけど、仕方ない。半分だけ使うか」
そんな独り言と共に、李火君は笛をくわえます。
彼の言葉自体は聞こえませんでしたが、行動や視線、険しい表情から、劉生君は李火君がやろうとしていることに気づきました。
「李火君、もしかして、爆発しようとしてるな!ふっふっふっ、僕にはわかっちゃったんだからね!」
人の心に鈍感な彼とは思えない、鋭い洞察と評価したいところですが、決して劉生君が敏くなったわけではありません。単に、李火君が彼らしくもなく、分かりやすかったからです。
その理由にたどり着くこともなく、劉生君はひとまず幸路君に向かって叫びます。
「幸路君、気を付けて!李火君、爆発させるつもりだよ!」
「なんだって!わかった!逃げる!」
慌ててロボたちの群れからの脱出を図る幸路君でしたが……。
「いやいや、黙って逃がさないよ」
あきれたようにため息をつき、李火君は軽く笛を吹きます。
魚の魔物たちはびくりと体を震わせると、逃げようとする幸路君を上から抑え込んできました。
「このっ!邪魔だぞお前ら!」
「ゆ、幸路君!!」
このままでは、幸路君が爆発に巻き込まれてしまいます。
劉生君は焦ります。何か幸路君の助けになれないかとおろおろ辺りを見渡しますが、視界に入るものは海藻と、天高くそびえ立つ、妙に大きな石だけです。
劉生君はその石にどこか既視感を覚えました。
魔王ギョエイと戦った場所に、ああいう大きな石があったような気がします。
そのとき、劉生君は橙花ちゃんに思いもよらない術の使い方を教えてもらい、どうにか勝利したのです。
「……そうだ」
劉生君は新聞紙の剣を握ります。
あの技なら、幸路君を救えるかもしれません。
劉生君はもう一度声を張り上げます。
「幸路君、飛んで!」
叫ぶや否や、劉生君は新聞紙の剣を地面に突き刺しました。
「<ファイアーウォール>!」
「なっ!?」
李火君は思わず笛を口からこぼれ落とします。
笛を吹いたか、それとも吹かなかったのか。それは最早分かりません。
なぜなら、ロボットたちは<ファイアーウォール>の技を受け、一体の例外もなく、全て爆発したからです。
地面が割れるような爆音、魚たちは爆発に巻き込まれ、水は爆心地から外側へ勢いよく流れます。
幸路君はジャンプしていたおかげで爆発には巻き込まれませんでしたが、水流にのまれ、一気に劉生君のところまで飛ばされます。
「あぐっ!」
ボキリと嫌な音を立てて、着地しました。
どうみても無事ではありません。ですが、なぜか劉生君は満面の笑みです。
「幸路君!気分はどう?」
「お前、煽ってんのか?あ!?」
さすがの幸路君も激おこです。苦しみもがきながらも怒っています。
一方で、劉生君はなおも笑顔です。
「もうー、幸路君ったら、もしかして見てないの?『勇気ヒーロードラゴンファイブ』65話!幹部のディルベニアの策略に嵌まったとき、蒼井陽さんがとった起死回生の一手!」
「……まさか、」
幸路君も思い当たったようです。
劉生君は、さらに嬉しくなります。
「そうそう!蒼井陽さんは爆風にのって敵の大群から逃げたの!だから、幸路君もそうやって逃げてもらおうって思ったの!」
「……なるほど、そっか……」
「それで、気分はどう?」
「……そうだな。あれは蒼井陽さんだから出来たんだなって、俺は思った……よ……」
幸路君は気絶しました。