6 最高のコンビ、結成!
幸路君は李火君の笛を奪い取ると、遠くへと放り投げました。
「え?ちょ、なにするの!」
「やっぱやめだ!!俺は李火たちにはつかん!破門だ離婚だ絶交だ!」
「いや、君なに言ってるの?」
「知るか!!」
吐き捨てるや否や、幸路君は魚の乗り物たちを踏みつけながら、中心へと駆け出します。
「よいしょ!」
幸路君は劉生君を一本釣りして、すぐに槍の先を李火君と魚ロボに向けます。
笛を取りに行こうとした李火君は、ピタリと止まります。
ちらりと遠くに落ちた笛に視線を向け、すぐに幸路君と向き合います。
「ひどいじゃないか、裏切るなんて」
へらへらと笑う李火君を、幸路君は睨み付けます。
「そもそも、俺はお前らがここに残るのは反対だったからな!その上、劉生をやっつけるなんて大反対!正々堂々と戦わないなら大大大大反対だ!」
幸路君は憤然として、槍で地面をガンガンと叩きます。
「友達を傷つけてまで、ここにいたいとは思えないね!」
幸路君のなんともかっこいい台詞に、劉生君は感動します。
たった一人で頑張っていた劉生君の、はじめての賛同者でしたので、劉生君は嬉しくて嬉しくて、思わずちょっと涙目になります。
「僕、幸路君の友達になれてよかった……!」
「お、おう。わかったから泣くな」
幸路君は苦笑いです。
一方の李火君は、内心の焦りを隠して薄ら笑います。
「どれだけきれいな言葉で取り繕っても、君がやってるのは裏切り行為だよ」
正義漢な幸路君のことです。それはそれはばつが悪そうな表情を浮かべるであろうと考えた李火君でしたが、意外にも、幸路君はニヤリと笑います。
「ふっふっふ、李火。お前はわかってないなあ。いいか、俺はな、『仮面恐竜キョウスケ』の斎藤一哉だってことだ!」
「……」
李火君は、「あっ、スイッチ入った」と思い、聞き流す姿勢に入りました。
もちろん、幸路君は李火君が聞く気ないなんて気づかず、ペラペラ話します。
「斎藤一哉はな、元々敵だったんだが、関ノ内の戦いで主人公の味方になったんだ!裏切りっちゃ裏切りだが、あの人の信念はな、まさに火のよう水のよう風のよう!!いやー、あのシーンは素晴らしかった!!」
「わかる!!」
劉生君は何度も頷きます。
「僕も見たけど、かっこよかったよね!!ボスに啖呵を切ったシーンは歴史に残るよ!!」
「さすが劉生!!話がわかる!!!」
「幸路君こそ!!!」
二人はがしりと握手します。
お互いの友情を称えたる同士たちでしたが、そんな二人の間を切り裂こうと、魚ロボが突進してきました。
「うおっ!」「わあっ!?」
二人は慌てて回避して、李火君に抗議します。
「ちょっと李火君!ひどいよ!なにするの!」「そうだそうだ!ひどいぞ!」
「目の前の戦いに集中しない方が酷くない?こっちは幸路君が裏切ったせいで追い込まれてるってのに」
李火君は軽く舌打ちをします。
「けれどまあ、俺にはこのロボット君たちがいるからね。負けることはないかな」
李火君は笛を手にしました。
「あれ!?いつの間に!?」
「君たちが下らない話をしているうちに取って来ちゃった。一度地面に落ちた笛を口につけるのは抵抗あるけど、仕方ないね」
笛を軽く吹くと、ロボたちは青く目を輝かせ、劉生君たちを睨みます。
それだけではありません。
「あとは、これかな。……聖奈に嫌な顔されるけど、それも仕方ない」
今度は長く笛を吹きます。すると、海草が大きく揺れ、何かが迫ってきました。
「あれは……!」
劉生君は既視感がありました。
そう、フィッシュアイランドで魔王ギョエイと戦う前に襲ってきた、魚の魔物の大群です。
まさにあのときのような集団が、魚ロボと共に襲いかかってきたのです。
「ぐぬぬ……!なら、<ファイアースプラ>」
「待て待て劉生!!」
火の粉を散らそうとした劉生君を、幸路君は慌てて制止します。
「あの魚ロボットもいるんだぞ!?下手に攻撃したら爆発する!」
「そうだった!けど、ならどうすれば」
「よーし、今こそ俺の出番!高橋幸路、いざ出陣!!」
好戦的な笑みを浮かべ、魔物とロボットたちの軍勢に突っ込みます。
「おらおらおらおらおら!!!」
ブンブンと槍を振り回し、時には足で蹴り倒し、踏み潰していきます。
戦いの合間に、幸路君はそれはそれは愉快そうに口端を上げます。
「いやっほう!久々の戦いは楽しいね!」
思えば、幸路君がまともに戦ったのは魔神との戦い以来です。
それからは、やれミラクルランドにいたらあの世行きだの、現実世界はどうだの、難しい講釈ばかりたれ、挙げ句の果てに、劉生君を倒せと言われたのです。
幸路君は、あまり難しいことは分かりませんし、分かりたいとも思いません。
戦うときは戦って、遊ぶときは遊ぶ、寝るときは寝ればよいのです。
今、小難しいことを考えずに戦えるのは、幸路君にとって最高の喜びでした。