1 吹っ飛び劉生君、全力で!!
かっこよく決めたところで、劉生君はある重大な事実に気づいてしまいました。
「あれ!?僕の『ドラゴンソード』が変形してない!?」
いつもはカッコよくて強そうな剣に変身するのですが、劉生君が握っている『ドラゴンソード』は新聞紙のままです。
「うーん。どうしてだと思う?」
劉生君は気軽に橙花ちゃんに尋ねます。宣戦布告した相手にとる態度ではありません。
橙花ちゃんはそこらへんをよく心得ていました。
「降参して帰ってくれるなら、ボクは嬉しいけど」
「えー。やっ!」
「だったら、君とは戦わなくてはならないね」
橙花ちゃんは杖をふります。
「……ん?」
足場がグラグラと揺れました。何が起きたのかなあ、と足元を見てみると、
なんと、雲が次々と消えていたのです。
「うわあ!お、落ちちゃう!落ちちゃうよ!!」
ホップ、ステップ、ジャンプでどうにか普通の地面に着地しました。
「ふう、これがいわゆる、九死に一生!だね!……って、わわっ!?」
雲の中から、モコモコと青色の巨人が出てきました。いつぞや戦った魔神の色違いです。
巨人は劉生君を捕まえようと、大きな大きな手を急速に下ろしてきました。
「ぎゃあ!潰される!」
逃げる場所をキョロキョロと探してみますが、全て消されて逃げ場はありませんでした。それもこれも、橙花ちゃんの策略です。劉生君が避けることができないようにして、巨人に攻撃させ、劉生君を戦闘不能にさせようとしたのです。
さすが橙花ちゃんです。
「ぐぬぬ、『ドラゴンソード』、いける!?」
新聞紙の剣はピカリと赤く光ります。
「よーし!燃えよ、『ドラゴンソード』!!」
合図を境に、新聞紙の剣は勢いよく燃え上がりました。
「よし、いくぞー!<ファイアーウォール>!」
火の壁を巨人は思いっきり殴ります。
「うぐぐぐぐぐっ!」
火の壁が崩れかけますが、劉生君は気合いと根性で耐え抜き、
「ていやっ!」
弾き返しました。
巨人は揺らめくと、状態を崩しました。
「おっ!ようし、」
劉生君は巨人に乗り移り、ちゃんとした地面に着地します。
「セーフセーフ!」
まあ、当然ながらセーフではありませんが。
劉生君がちょこまかしていてイラッときたのでしょう。巨人はくぐもったうめき声をもらすと、腕を鞭のように右から左に振りかぶりました。
「ふぇ?わっ、わーっ!」
バットに当たったボールのように、劉生君はポーンっと飛んでいきました。
「っ!何をしている!」
橙花ちゃんが杖を振ると、巨人は青い霧となって消えていきました。
「劉生君を捕まえるだけでよかったのに、あんな危ないことを……」
橙花ちゃんは心配そうに劉生君が飛んでった方向を見ます。
「……あっちの方向は、フィッシュアイランドか。友之助君たちに連絡をしておくか」
橙花ちゃんは小さくため息をつくと、ムラへと歩いていきました。