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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
8章 少年は誰がために剣を振る?
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6 先生に相談してみよう!

 

 冬至が過ぎると、一気に夜が短くなります。


 とはいえ、まだ夏よりは日が落ちるのも早く、劉生君が帰る頃には、夕陽がさしていました。


 まだ「うさぎおひし」もまだですので、劉生君の隣を子供たちが楽しそうに走り去っています。


 劉生君はちらりと視線を送ると、項垂れたてしまいました。


 重い足取りで、家に帰ります。


 お母さんは買い物に行っていて、まだ戻ってきていませんでした。


 劉生君は無言で自分の部屋に戻ります。


 部屋に入ってすぐの大きな姿見に、劉生君の強張った表情が映ります。


 そのままベッドに寝転ぼうとしますが、あの悪夢を思い出し、躊躇してしまいました。


「……」


 このままでは、悪夢は現実になり、みんなはこの世で永久に会えなくなります。


 それは嫌です。


 けれど、みんなの友達なら、みんなの思いを大切にしないといけないのではないか?と、劉生君は考えていたのです。


 ミラクルランドでたくさんのことを経験し、たくさんのことを学んだ劉生君は、果たして強引に連れ出すことがみんなの幸せに繋がるのか、分からなくなっていたのです。


「……どうすればいいんだろう……」


 彼の呟きは、誰にも届くこともなく、消えていきました。

 

 劉生君が悩みもがく間も、事態は着々と最悪な方向へと進みます。


 眠り病の子供たちのなかで、容態が悪化し、人工呼吸に踏み切る子が多くなっていきました。


 そして。


 リンちゃんたちは、翌日から学校に来なくなりました。


 ◯◯◯



 リンちゃんたちは次の日も、その次の日も登校しませんでした。


 一日二日の休みでしたら、「風邪か何かかな?」ですみましたが、何日も続くと、クラスメイトたちは異変を察しました。


「今日もリンちゃんとと鐘沢君はおやすみ?インフルエンザなのかな?」

「先生は家の事情っていってたけど、なんか嘘っぽいよね。だって、二人だけならまだしも、他クラスの子まで休んでるんでしょ?」

「俺、道ノ崎んちの前通ったけど、救急車がとまってたぞ。だから病気じゃね?」


 みんなの疑念質問は、リンちゃん吉人君、みつる君咲音ちゃんと仲がよかった劉生君に集まりました。


「なあ、劉生は何か聞いてないのか?」

「……」

「……劉生?」


 劉生君は、何も答えません。いえ、答えられる精神的余裕がなかったのです。


 ぎゅっと両手を握りしめ、爪を立てて皮膚に食い込んでいます。


「お、おい、劉生、大丈夫か……?」


 慰めの言葉も、劉生君には聞こえません。


「……な、なんか、ごめんな?」


 男の子は不気味そうに離れていきます。ようやく劉生君はちらりと顔をあげますが、すぐにうつむいてしまいます。


 劉生君の頭の中は、まるで絵の具をやたら滅多混ぜこんだように、ぐちゃぐちゃとしていました。


 リンちゃんたちを助けたい気持ち。


 みんなのためには何もしないほうがよいのかと逡巡する思い。


 悪夢の通りになることへの恐怖の思い。


 ――騙していた橙花ちゃんへの、怒り。


 そんな劉生君を心配してのことでしょう。学校の先生が声をかけてきました。


「赤野、少しいいか?」

「……はい」


 職員会議用の部屋に劉生君を招き、椅子に座るよう促します。


「ちゃんと朝御飯食べてきたか?よく寝たか?」

「……はい」

「……こんなこと聞くのもあれだが、道ノ崎たちのことを何か聞いているか?」

「……うん、知ってる」

「……なら、分かると思うが、道ノ崎たちは今少し体調が悪いみたいでな、お休みしているんだ」

「……」

「赤野の元気がないと、みんなが戻ったとき悲しむだろ?だから、元気出せって」

「……戻ってこないよ」


 劉生君は、ポツリと呟きます。


「みんなは、戻ってこない」

「……いや、そうとは限らないぞ。戻ってくるさ」

「来ない。……来ないよ」

「……」


 先生は背筋を伸ばすと、笑みを消して、真剣な表情になりました。


「もしかして、何か相談したいことがあるんじゃないのか?先生に話してみなさい。そうしたら、気分も軽くなるぞ」

「……」


 劉生君は初めて顔をあげました。


 胸がつぶれてしまうほどの苦痛を、先生が解き放ってくれるかもしれません。


 劉生君はすがるように、全てのことを話しました。


 公園のエレベーターから、ミラクルランドに行けること。


 そこにいる子供たちは、眠り病の患者であったことを。


「リンちゃんたちも、ミラクルランドにいっちゃったまま、帰ってこないんです!だから、眠り病にかかっちゃったんです!」

「……そうか」


 先生はポンポンと劉生君の頭を撫でます。


「……それは辛かったな」

「先生……!」


 先生はわかってくれたんだ。これでみんな助かると喜ぶ劉生君でしたが、


「だから、赤野はお医者さんに任せておいて、みんなが起きるのを待つといい」


 その一言で、自分の言葉が受け入れてもらえていないと察してしまいました。


「……どうして」

「ん?」


 劉生君は、信じてもらえなかったことが悲しくて悲しくて、怒りが込み上げてきました。


 劉生君は怒鳴ります。


「どうして信じてくれないの!!本当なのに、お医者さんじゃどうしようもないのに!!」


 鬼気迫る様子の劉生君に、先生はたじたじです。


「お、落ち着け落ち着け。一旦座ろう?な?」

「……でも……っ !」


 ちょうどこのタイミングで、授業開始のチャイムがなりました。先生は「あー」と声を漏らし、申し訳なさそうにちらちら劉生君を見ます。


「そのー、すまん。授業の準備をしなきゃならん。赤野は次の授業休んでていいからな。保健室にいてもいいし、ここにいてもいい」

「……」


 劉生君はすとんと座り込みます。


 無言でうなずくと、先生はバツが悪そうにいそいそと出ていきました。


 劉生君は動くのもままならず、ただただうつむいています。


 担任の先生は、ミラクルランドと眠り病の関係を信じてくれませんでした。


 担任の先生は優しくて頼りがいがあると思っていたので、劉生君はかなりのショックを受けました。


「……」


 結局、劉生君はどこかに行く気力もなく、そのまま終業のベルが鳴るまで動けませんでした。


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