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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
1章 ミラクルランドへようこそ!
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19 ビリビリリンちゃん、あまあま吉人君? 子供たちの武器、解禁です!

 一方そのころ、劉生君は汗をたらして剣をふるっていました。何匹もの魔物を葬った劉生君は疲労困憊気味です。

 

 それでも魔物たちは段々と減ってきています。気力を振り絞り、劉生君は剣を構えます。


「おりゃあ! <ファイアーバーニング>! <ファイアースプラッシュ>! はあ、はあ、あともう少し!」


 安心していた劉生君でしたが、彼をあざ笑うかのように、どこかからか黒い軍団がやってきました。


「ひいっ! あれって魔物!?」 


 そうです。赤黒いオーラを身にまとう、ハトの魔物たちです。なんと魔物の援軍がやってきてしまいました。


 さらに悪いことは続きます。


 敵が増え、動揺してしまったからでしょう。劉生君のすぐ近くに魔物が忍び寄っていましたが、気が付くことができなかったのです。


「っ!? わあ!?」


 慌てて剣で守ろうとしたときには、もう手遅れでした。


「ひっ……!」


 思わず固く目をつぶって、来るであろう痛みに怯えていた、そのときです。


「いくわよ、必殺、<リンちゃんの ビリビリサンダー>!」


 目の前がピカッと明るくなりました。気が付くと、劉生君の前にリンちゃんが不敵な笑みを浮かべて立ってました。


「へえ、これが魔法の力ね。中々いいじゃない

 

 ふわふわのぬいぐるみリュックを背負い、リュックと同じ色のシューズを付けてます。よくみるとシューズは電気の膜に覆われています。


「わあ、かっこいい! ビリビリ!!」


 リンちゃんは嬉しそうに胸を張ります。


「そうそう! いいでしょー。まあ、優しくてかわいいあたしにしては、攻撃的すぎる気がするけどね!」

「え? あー、う、うん。そうかも、しれない、かな」

「ちょっと。何しどろもどろになってんのよ」


 リンちゃんは唇を尖らせます。


「ともかく、もうリューリューだけに働かせないわよ! 必殺! <リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>!!」


 リンちゃんの目の前に電気の塊ができました。


「えーい!!」


 電気の玉を、サッカーボールの要領で蹴りました。


 投げた玉はまっすぐ魔物に当たると、雷の落ちる音を発し、電気の玉が爆発しました。周りにいた魔物も道連れです。


「ふふん、どんなもんよ!」

「わあ、電気爆弾だ! かっこいい!」

「でしょ? これじゃあもうヨッシーの力がなくても倒せちゃうわね」


 なんて天狗になる二人ですが、吉人君は冷静沈着、まるでアナウンサーのようにこう呟きます。


「……そう、この時の二人は気づいていなかったのです。わずが数秒後に、恐ろしい目にあうことを……」

「不吉なプロローグやめなさい!」「フラグ! フラグ!」


 リンちゃんと劉生君が抗議します。


 ですが、天狗の鼻は折れるのが常です。


 ハトの魔物たちはお互い目配せすると、フルーツバスのすぐ上に飛ぶと、嘴を下にして落下してきたのです。


 ハトの一斉射撃です。


「わ、わあ!?」「ちょ、ちょ!?」


 雨のようにハトの魔物が降り注ぎます。


「ふぁ、<ファイアーウォール>!!」


 劉生君は剣を上に突き立てました。剣の炎は一気に燃え盛り、劉生君とリンちゃんの上に炎の壁を作りました。


「ナイス、リューリュー!」


 はしゃぐリンちゃんですが、劉生君は苦しそうに息をもらします。


「ごめん、あんまもたないかもしれない……!」

「ええ!? そうなの!?」

「このまま、うまい具合にはじき返せればいいんだけどっ、ち、力を使いすぎちゃったから、うまくできなくて……! リンちゃん、今のうちに何とかできる!?」


 リンちゃんが答える前に、橙花ちゃんが鋭く警告します。


「いや、それはできない! リンちゃんは近距離攻撃が主体だから、直接魔物に接していないと戦えないんだ!」

「くっ……!」


 リンちゃんは唇をかみしめ、八つ当たりとばかりに吉人君に向かって叫びます。


「ヨッシー! 立てたフラグは責任をもって回収しなさい!」

「……そうですね。さすがに頑張ってみます」


 正直ここまで酷い状況になるとは思っていなかったのですが、とにかく頷きます。


 時間は一刻も争います。このままだとみんなまとめて焼きフルーツです。橙花ちゃんも慌てて吉人君と向き合います。


「吉人君の大切なものを見せてくれるかいっ!」

「ええ!」


 急いでバックからいくつか物を出します。


 橙花ちゃんもさっと視線を向けます。


 まずは腕時計。テストのときに使うのでしょう。勉強熱心な吉人君らしいです。


 次に眼鏡。いまつけているものの予備なのでしょう。これも勉強熱心な吉人君らしいです。


 最後の一つは棒付きキャンディーです。ミルク味と抹茶味のミックスです。白色と緑色の飴が渦まいています。実に勉強熱心な吉人君らし……。


「……このキャンディーはうっかり出しちゃったんだよね?」


 一応確認すると、吉人君は心外だと言いたげに眉を顰めます。


「いえ、そんなことはありません。腕時計も眼鏡も棒付きキャンディーも、勉強で使うマストアイテムです」

「……そ、そうなんだ。ごめん」


 かなり違和感がありますが、ここで問答を繰り広げている時間はありません。ひとまず謝ってから、一つ一つのものを丹念に観察します。それから、橙花ちゃんは戸惑いながらもあるものを指さします。


「……まさかとは思ったけど、これだね」


 選ばれたのは、棒付きキャンディーでした。


 これにはハトの猛攻に耐えているリンちゃんも劉生君もびっくりしてしまいました。


「え、ヨッシーの武器は棒付きキャンディーなの? どうやって攻撃するの?」

「な、殴るのかな?」

「棒付きキャンディーで殴る? 思いっきりやられたら痛いだろうけど、なんかあれよね。地味よね」

「それじゃあ、敵の喉に突き刺す……?」

「えぐい!? えぐいわよ?! そんな考え方どこで覚えたのよ!」

「が、学校の先生から……。歩きながら棒付きの飴舐めると喉に刺さって死んじゃうって言ってたから……」

「あたし知らないわ!? いつ言ってたのよそんなこと!」

「今日の道徳の時間……」

「なるほど! 寝てたわ!」

「そういえばそうだったね」


 燃え盛る火の下で、リンちゃんも劉生君がほのぼのとした雰囲気をかもしだしました。


「……えっと」


 橙花ちゃんが戸惑いながら口を開きます。 


「今から変化させるよ、えいっ!」


 またまた橙花ちゃんは杖を振ると、飴はキラキラと輝くと、一本の長い杖になって吉人君の手に戻りました。


 持ち手が長くなったので、本体の飴も大きくなっています。吉人君の頭より少し小さいくらいの大きさです。


「これが、僕の武器……?」


 吉人君が呟くと同時に、劉生君が叫びます。


「も、もう駄目だ! 持ちこたえられない!」


 劉生君が膝を曲げてしまいます。<ファイアーウォール>の火力も段々と弱まっています。かなり危険な状況です。


 橙花ちゃんは急いで叫びます。


「ともかくその棒を振ってみて!」

「え、ええ! えっと、<ギュ=ニュー>!」


 吉人君は思いっきり杖を振ると、ミルク味の飴がきらりと光りました。


 ミルクは優しい甘さで子供たちの心をわしづかみにして、なおかつ身長を伸ばす効果もあるといわれています(諸説あり)。


 そんな健康的なミルクの飴は、彼らに癒しを与える力を持っているようです。吉人君が杖を振った途端、劉生君に力が戻ってきました。


「よし、これならっ!」


 劉生君は腕に力を込めました。


「<ファイアーバーニング>!!」


 炎の壁はそのまま剣となり、魔物たちに襲い掛かります。


 ハトたちの猛攻も、完全回復した劉生君には蚊のようなものです。


 見事弾き飛ばし、ハトたちに大ダメージを与えられました。


「やった! ありがとう吉人君!」

「すごい、本当に何とかできたのね……。さすが、頭いいだけあるわ」

「学力と魔法の連関性はないと思いますけど……」


 それでも褒められて悪い気はしません。照れたように頭をかきます。 

  

 リンちゃんは上機嫌で魔物たちを見上げます。


「まだ残ってるけど、あんなに数が減ったんだしもう大丈夫よね! 残った魔物もバシバシ倒しちゃうわよ!」


 リンちゃんがぶんぶん腕を振ります。


 さてみなさん、このリンちゃんの発言を聞いてどう思ったのでしょうか。きっと、こう思ったに違いありません。


 戦闘中に『もう大丈夫』と言ってしまうなんて、フラグでしかないのでは? と。


 その通りでした。みんなが安心しきっていたそのとき、ハトたちが一か所に集まり始めたのです。なんだなんだと四人が目を丸くさせる中で、魔物の体を覆っていた黒いもやが集団を包み込みました。


 黒いもやは、意志を持っているかのようにモクモクと広がると、ある姿になりました。


 羽毛は白く、二本の黒いシマが入っています。首から上と尾羽は灰色で、首元はほんのりと赤みがかっています。赤い目はぎょろりと劉生君たちを睨み、桃色の足は彼らを捕まえて叩き落としてやろうと広がっています。


 そう、その姿とは、先ほどまで劉生君たちを襲っていたハトの魔物です。ですが大きさが違いました。先ほどのハトのサイズを劉生君とした場合、今のハトはアフリカゾウなみの大きさでした。


 吉人君は呆然と呟きます。


「あの魔物は本当にハトだったんですね……」

 

 現実逃避よりの発言です。


「りゅ、リューリュー! さっきの盾をやるのよ!」

「もう力が出ないよ! 吉人君、回復お願い!」


 しかし、時すでに遅く、ハトの魔物はバッサバサと羽音を鳴らして襲い掛かってきました。


「わああ!?」


 劉生君とリンちゃん、それから吉人君は頭を伏せて体を縮めます。

 そのくらいで避けられるとは思っていませんが、反射的にそうしてしまいます。

 ですが、橙花ちゃんは違いました。


 なんと、彼女は杖を片手に一歩前に出たのです。


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