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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
8章 少年は誰がために剣を振る?
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4 ミラクルランドにて、明かされる真実!

 

 放課後になりました。


 帰りの会が終わるとリンちゃんたちは駆け足で合流し、すぐにあの公園へ行きます。


 ミラクルランドに行くのが楽しみだなんだと語るみんなの後ろを、劉生君がとぼとぼと歩きます。


 いつもだったら、意気揚々とまっすぐ前をみて歩きますが、今の劉生君は時折リンちゃんたちの背中に視線を向けるも、すぐにうつむいてしまっています。


 劉生君の心の中で、ぐるぐると不安が渦巻きます。


 みんなは、このまま治らないのでしょうか。


 どうして治らないのでしょうか……。


 ふと脳裏によぎるのは、みんなが眠るあの病室の悪夢。


 慌てて頭を振って、嫌な思い出を打ち消します。


 最後の頼みは、橙花ちゃんだけです。


 彼女も、みんなのようになっていたら、どうしましょう。


 最悪の予想が頭に浮かぶのと、公園につくのは同時でした。


「ようし、ついたわよ!」「いきましょいきましょ」「だねー!」「ですね!」


 みんなは駆け足でエレベーターのボタンを押して、我先にと乗り込みます。


「……」


 劉生君もあとに続きます。


 エレベーターは淡々と閉まり、劉生君たちを異世界に連れていきます。


 扉が開き、外に出てみると、そこはミラクルランドのムラでした。


 一昨日来たとき、ムラのまわりは瓦礫だらけでしたが、魔法の力か異世界の力か、すっかり綺麗になっていました。


 続いて、空を見上げてみます。


 魔王全員がいたときは、赤い五角形が描かれていましたが、今は青の五角形が浮いています。


 見たところ変化はそれだけです。


 復活した魔神から恐ろしい目にあったとか、新たな敵が現れたとか、そんなハプニングはなさそうです、が……。


 劉生君が不安そうに辺りを見渡していると、青い角の女の子、橙花ちゃんがやってきました。


「あれ?劉生君!熱はなおったの?」


 心配そうに劉生君に語りかける、その表情はまさに橙花ちゃんでした。


「……橙花ちゃん……」

「え?りゅ、劉生君、どうしたの」

「とうかちゃあああああん!!!


 劉生君は橙花ちゃんに抱きつきました。


「僕、僕、僕っ……!わああああん!」

「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて、落ち着いて」


 橙花ちゃんはひとまずみんなを別の場所に行くよう目で促してから、優しく劉生君の肩を撫でます。


「どうかしたの?」

「みんなが、みんながね!おかしくなっちゃったの!」

「みんなが?……そうは思えないけど……。どう変になったの?」

「なんかね、みんな、ミラクルランドのことばっかり話すの……。だから、もしかしたら、魔神になにか変な魔法にかけられちゃったのかなって思って」

「……いや、魔神はもういないよ。魔王もいない。ボクらに悪いことをしてくる敵はもういないよ」

「じゃ、じゃあ、どうして……」


 彼女はにこやかに、頼りがいのある笑みで、こう答えます。


「多分だけど、みんな、向こうの世界のことがどうでもいいと思ったから、だと思うよ」

「……え?」


 どうでもいい……。


 どうでもいい?


 劉生くんの頭が真っ白になっている中、橙花ちゃんはいつもと変わらず、丁寧に説明してくれます。


「昨日、みんなに話したんだ。ミラクルランドにずっと一緒にいようって」

「ずっと、ここに……?」

「うん!みんな悩んでいたけど、ここにいたいって言ってくれたんだ!劉生君も一緒にいようよ」


 ここにずっといる。


 それは、とても魅力的な提案かもしれません。


 けれど、そうなったら……。


「そしたら、もとの世界に帰れなくなるってこと?」

「まあ、そうだね」

「そしたら、お母さんとお父さんに会えなっちゃうよ!それに、それに、僕らがもとの世界からいなくなったら、学校の先生とか、友達みんなが心配しちゃうよ」

「そこは心配しないで」


 橙花ちゃんは、にっこり笑います。


「この世界にずっといても、向こうの世界で劉生君たちの体が消える訳じゃない。体は眠ってるだけ」


 だから、失踪届けを出される心配はないだのなんだのと、彼女は話します。


 けれど、劉生君の耳には届きません。


「……眠る?」


 その言葉から、劉生君はある病気が連想されました。


 子供だけが罹患し、死んだように眠り続ける、正体不明の病。


「……眠り病……? そ、そんな。僕はてっきり、」

「魔王に囚われたら、眠り病にかかる。君たちはそう思っていたんだよね」


 橙花ちゃんは先回りして答えます。


「でもね、実は違うんだ。魔王が子供たちにかけた眠りの呪い、魔王が子供を捕まえていた理由は、眠り病の進行を遅らせるためだったんだ」

「……え?」


 橙花ちゃんは嘘をついているようには思えません。思えませんが、唐突な真実に頭が真っ白になっていました。


 ここで、皆様にちょっとした解説を致しましょう。


 そもそも、劉生君たちはどうして「ミラクルランドで眠りの呪いにかかると眠り病になり、魔王に捕まると眠り病が悪化する」と思い込んでいたのでしょうか。


 その理由は、吉人君の誤解でした。


 ちょうどフィッシュアイランドで子供たちを解放してもとの世界に帰った際、テレビで眠り病の特集が放送されていました。


 映像には、魔王ギョエイのもとで捕まっていた子供、友之助君が眠り病にかかっていること、容態が良くなっていると報道していました。


 ですので、てっきり魔王から解放されたら眠り病がよくなると思ったのです。


 眠りの呪いと眠り病の因果関係は、明確な根拠はありません。呪いと病がどうも似ているなあと感じた劉生君たちが勘違いしていたのです。


 実際は、真逆でした。


 眠りの呪いをかけられた子は、容態が安定し、魔王に捕まっていた子はさらにより一層症状が緩和されていたのです。


 テレビ報道の真相は、魔王から解放された直後の容態悪化を報じていなかっただけです。単に取材を怠けていたのか、それとも唐突な容態悪化が世間に衝撃を与えぬように報道を規制したのかはわかりませんが、劉生君たちはとんでもない思い違いをしていたのは間違いありません。


 劉生君は、たらりと冷や汗を流します。


「なら、なら、ミラクルランドにいたら、みんな眠り病にかかっちゃうってこと?」


 重体者一名の文字と、あの悪夢でみた無数のベッドが頭をよぎります。


「……みんな死んじゃうってこと?」


 劉生君は否定を望んでいました。しかし、橙花ちゃんはあっさりと頷き、劉生君の願いとは真逆の言葉を口にします。


「うん、今のところはみんな生きているけど、もう少したてばあっちの世界で死んでしまうだろうね」

「……そん、な……」

「ミラクルランドにいる時間が長ければ長いほど早くに亡くなってしまうから、最初に命がつきるのは李火かな」


 青い角が一瞬点滅します。すると、橙花ちゃんは首を小さく横に振りました。


「いや、最初はボクみたいだね。李火は魔王に捕まっていた時間が長かったからかな?」


 橙花ちゃんは、いつもの通りに、平然と話します。


 魔王や魔神を倒してから、この世界の仕組みがなんとなく分かるようになった、だとか、あちらで亡くなってもミラクルランドでは存在し続けられるだとか、橙花ちゃんは色々と話していました。


 けれど、どの話も劉生君にとっては些細なことでした。


「橙花ちゃん、死んじゃうの……?」

「まあ、そうだね」

「……ここにいる、みんなも死んじゃうの?」

「うん。けど、大丈夫。死ぬときは苦しくないから」

「……そういう問題じゃないよ」


 劉生君は顔を真っ青にさせて、首を横に振ります。


「ダメだよ。そんな、そんなのって……」

「……劉生君は、ここに残りたくないの?」

「当たり前だよ!!」


 珍しく、劉生君は怒鳴ります。それだけではありません。橙花ちゃんの手を掴むと、ぐいぐい強引に引っ張り始めました。


「わっ、ちょっ!どうしたの劉生君?」

「帰ろう!もとの世界に!今なら間に合うよ!」

「……」


 劉生君は後ろに大きく引っ張られました。


 橙花ちゃんを引いていた手に軽い痛みが走り、暖かい手の感触がなくなります。


 橙花ちゃんは、困ったように微笑みます。


「ごめんね、劉生君。それはできない」

「いやっ!」


 劉生君は目をつり上げ、ぶんぶん首を横に振ります。


「帰るのっ!橙花ちゃんも、友之助君も、リンちゃんも、みんなで一緒に帰るのっ!」


 誰かがいなくなってしまう、だとか。


 ひとりぼっちになってしまう、だとか。


 そんな恐ろしいことは、夢で十分です。


「だから、みんなで……!」

「劉生君」


 橙花ちゃんはひどく冷たく、彼の名を呼びます。


 子供たちに向けたことがないような声色に、劉生君は凍りついてしまいます。


「劉生君、いいかい?」


 先生が生徒を説教するように、大人が子供に語りかけるように、橙花ちゃんは言います。


「ミラクルランドに残りたいと願ったのは、みんなの意志だ。それは尊重しないといけない」

「そ、尊重って……」

「ボクは、ここに残りたいと思っている。例え向こうで命を落としたとしてもね」


 橙花ちゃんはくるりと後ろを振り向きます。


「みんなもそうでしょ?」

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