11 パーティータイム! 橙花ちゃんと二人でお喋りお喋り!
橙花ちゃんは杖を振るい、子供達は歌を歌います。
どこからともなく机が出てきて、シワひとつない白い布がふんわりとかかりました。
風船がプカプカ浮かんできました。
ひとりでにクネクネ動くと、可愛らしい犬の姿や、『ドラゴンソード』のような剣の姿に変わっていました。
よく磨かれたお皿が飛んできました。お皿がテーブルの上にのると、カレーやからあげ、パスタやグラタンでいっぱいになります。
咲音ちゃんとみつる君は目を丸くしてみんなの魔法を見つめます。
一度見たことのあるリンちゃん吉人君は、顔を見合わせ、笑顔で子供達と一緒に歌を歌います。
「楽しい楽しいパーティーだ!
みんなで歌おう、ランランラン!
ここはみんなの遊び場ミラクルランド
踊ろう踊ろう、ラン、ラララン!」
びっくりしていたみつる君も咲音ちゃんも、涙を流していた劉生君も、笑顔で楽しく歌を口ずさみます。
青空には虹色の花火が打ち上がり、草木は色とりどりの花を咲かせます。
蝶々がみんなを祝福するようにくるくる躍り、鈴虫は愉快な音楽を演奏し、つられて子供たちの何人かが手を繋いで踊りだします。
そこからは、もうみんなどんちゃん騒ぎ、やりたい放題です。
みおちゃんはお喋りしながら、歌いながら食事をしています。マーマル王国で食べる、どんな料理よりも美味しそうです。
みつる君はみおちゃんにせがまれるまま、たくさんの料理を作っています。レプチレス・コーポレーション産の包丁を使えて、満足げに笑っています。
吉人君は、李火君が呼んでくれた恐竜を興奮ぎみに眺めています。隣で、聖奈ちゃんが恐竜をなでなでします。怖い顔の恐竜ですが、うっとりと目を細める様はまるで犬か猫のようです。
咲音ちゃんはみんなの歌に合わせて、ピアノを弾きます。彼女のすぐそばには、白く小さな鳥が何羽も集まり、寄り添うように歌います。トリドリツリーで聞くどんな歌より美しい曲です。
リンちゃんはしばらく劉生君に付き添って甲斐甲斐しくお世話していましたが、さすがお姉ちゃん気質なだけあって、いろんな子供達が立ち代わり入れ代わり遊んでほしいと訴えてきました。
リンちゃんも満更ではなく、一緒に遊んであげました。
鬼ごっこやかくれんぼで、リンちゃんは二本の足でちからいっぱい走り回ります。フィッシュアイランドよりも歓声が溢れています。
そして、劉生君は。
かくれんぼの途中で、一人で座る橙花ちゃんを見つけました。
「あれ?橙花ちゃーん!おーい!なにしてるの?」
「劉生君か。ううん、ちょっとね」
「ふうん」
劉生君も、橙花ちゃんのそばに座ります。
二人がいる場所は、ほんのりと小高くなっていますので、ミラクルランドのいくつかの国を一望できます。
とはいえ、魔神がミラクルランドのほとんどをガラクタにしてしまいましたので、瓦礫と残骸ばかりで、景色がいいとお世辞にも言えません。
元々はどこの場所なんだろうと首を傾げる劉生君に気づき、橙花ちゃんは説明してくれます。
「前だったらアンプヒビアンとフィッシュアイランド、あとは、トリドリツリーが見えていたよ。今はこの惨状だけどね……」
橙花ちゃんは肩を竦めます。
改めてこの状況をみると、魔神がいかに常識はずれだったかが明白です。
そんな魔神に勝利した劉生君はというと、ショックを受けていました。
「ええ!?フィッシュアイランドもぐちゃぐちゃになったの!?」
「劉生君、フィッシュアイランドが好きだったの?」
「だって、みんなでフィッシュアイランドで遊ぶって約束した……」
そういえば、観覧車でそんな話をしたような気がしました。
それにしても、魔神とあんなに死闘を繰り返していたのに、とても子供っぽいお願いです。橙花ちゃんはくすりと笑いながら、応えます。
「……多分だけど、時間が経てば、ミラクルランドはもとに戻ると思うよ」
「ええ!?それじゃあ、マーマル王国とか、レプチレス・コーポレーションも直るの?」
橙花ちゃんが頷くと、劉生君はとびきりの笑顔になりました。
「やったー!!それなら、みんなで遊べるね!!!」
劉生君はおおはしゃぎです。
こうして喜んでいるのをみていると、年頃の男の子です。
魔神と死闘を繰り広げていた男の子と一緒とはとても思えません。
あのときの劉生君は、鬼気迫っていて、それでいてひどく怯えていました。
今の劉生君の方が断然嬉しそうで、楽しそうです。
当然と言えば当然ですが、そう感じた橙花ちゃんは、途端、罪悪感がわいてきました。
「……劉生君たちには、本当に悪いことをしたよ」
「え?どうして?」
「君たちもムラのみんなと遊びたかっただろうに、魔王との戦いに付き合わせてしまった」
橙花ちゃんは肩を縮め、ひどく落ち込みます。
「魔神との戦いでは、劉生君には埋めることのできない辛い思いをさせてしまった。……それなのに、ボクは君に何もできなかった。何も与えられなかった。ボクがしっかりすべきなのに……。本当にごめん」
橙花ちゃんの心からの吐露です。
劉生君はのんびりと否定します。
「そんなことはないよ!とにかく、倒せてよかったね」
「……うん。そうだね。……そうだ、ねえ、劉生君。次来たときになんだけど、……ちょっと話しておかないといけないことがあるんだ」
「へえ、何々?」
「次来たときに話すよ。今日はもう遅いから」
橙花ちゃんはふんわりと微笑みます。
劉生君は気づきませんでしたが、このときの橙花ちゃんは、彼女らしくない、ほの暗さをはらんでいました。