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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
7章 最終決戦、VS魔神!!―みんなのために、みんなのために!―
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9 見せつけられる過去……?

 

 魔神は地を這うような叫びをあげます。


 身体は赤い光となり散っていき、小さく小さくなります。元の姿に戻ると、魔神は力なく倒れます。地面に落ちる寸前に、砂のように体が砕け、消えていきます。


「……よかった」


 これで、ようやく。


 張り詰めていた緊張がほどけたのでしょう。


 意識がふっと遠くなり、よろめきます。


 地面に倒れる前に、橙花ちゃんが彼を抱えます。


「お疲れさま、劉生君」

「……うん」


 橙花ちゃんは柔らかい笑顔をしていました。


 劉生君も微笑み返します。


 もし、言葉が交わせるほど元気があれば、こう言っていたことでしょう。


 これで、橙花ちゃんもみんなと一緒に遊べるようになるね。


 みんなのために頑張らなくてもよくなるんだよ、と。


 けれど、劉生君はもう限界でした。勝利の余韻に浸りながら、彼は目をつぶりました。


 ◯◯◯


 うさぎおひしかのやま


 聞き覚えのなるメロディが流れてきました。


 ぬるま湯に浸かっているような、心地よい気分だった劉生君は、薄く目を開けます。


 劉生君は、ミラクルランドではない、どこか別の場所にいました。


 ここ、どこだろう?


 頭がふわふわとしていて、思考がまとまりません。


 ただひとつだけ、ここが夢の世界だとおぼろ気ながらに理解できていました。


 動けないくらい疲れていましたが、不思議と体が動きました。


 椅子から降り、劉生君は歩みを進めます。


 僕は、どこに向かっているのだろう?


 内心首を傾げますが、考えるのも億劫になってきて、足が動くままにどこかへと行きます。


 たどり着いた場所は、リハビリルームと書いてある部屋です。


 そこで劉生君、ピンとしました。


 もしかして、リンちゃんがいるのかもしれない。


 そう思うと、疲れていた頭がパッと鮮明になりました。


 時間にするとわずかでしょうが、魔神との長く辛い戦いのせいで、長らく会っていない気がします。


 どうしてミラクルランドからこちらに移動したかは分かりませんが、リンちゃんに会えばすべて解決してくれるでしょう。


 劉生君はウキウキしながらドアのノブに手を伸ばします。


 けれど、開ける前に、廊下から足音とキャスターの騒がしい音が聞こえてきました。


 これは大事だと、劉生くんは飛び退きます。


 白衣のお医者さんたちがベッドを引いて走ってきました。


 お医者さんたちの気迫が凄まじいので、よっぽど容態が悪い人が運ばれているに違いありません。


 邪魔になってはいけませんので、出来るだけ壁にぴったりと張り付きます。


 ちょうどリハビリルームに入るようで、先行して看護師さんがリハビリルームの扉を開けます。


 そこで、劉生君は疑念を抱きました。


 劉生君は英語が苦手ですので、「リハビリ」の意味はよく分かりませんが、病気がある程度なおったら使う部屋なんだろうなあ、と認識していました。


 では、どうしてこの部屋に入るのでしょうか。


 不思議に思い、劉生君はお医者さんたちを目で追いました。


 隠れるように布で顔を覆っていましたが、ふわりと、風で布がめくれました。


 そして、劉生君は気がつきました。


 ベッドに眠っていたのは、彼の幼馴染み、道ノ崎リンちゃんでした。


「……え?」


 ベッドが部屋に運ばれ、廊下に誰もいなくなっても、劉生君は呆然と立ち尽くしていました。


 見間違える訳がありません。今のはリンちゃんでした。


 けど、どうして……。


 まさか、足がより悪くなってしまったのでしょうか。


 劉生君は我に返り、急いでリハビリルームに飛び込みました。


「 リンちゃん!……え?」


 広い広い部屋には、ベッド、ベッド、ベッド、ベッドだらけです。


 全てのベッドは埋まっていました。しかも、眠っているのは子供ばかりです。


 誰も彼も、女の子も男の子も、身動ぎひとつせずに、瞼を閉じています。


 子供達のなかには、吉人君やみつる君、咲音ちゃんの姿もありました。


 みんな、眠っています。


 まるで、


 死んでしまったように。


「……みんな……。どうして……」


 呟くと、どこか見覚えのある白衣を着た男性が劉生君を見ました。


「ん?な、き、君っ!どうしてここに!?ここは関係者以外立ち入り禁止だ!出ていきなさい」

「……みんなは……」


 劉生君は、叫びます。


「みんなは治るんですか!?おじさん、お医者さんなんでしょ?みんなを治してください!」

「……そうか、君は赤野劉生君か。全力を尽くしてみせるよ。だから、君はここから出て、お母さんお父さんのところに戻りなさい」


 他の看護師さんに抱えられ、劉生君は廊下に追い出されました。


「……」


 劉生君は、呆然自失として扉を見つめます。


 彼には、分かっていました。


 理解してしまっていました。


 もうみんなは戻ってこない。


 リンちゃんも、吉人君も、みつる君も、咲音ちゃんも。


 ……みんな、もう二度と会えない場所に行ってしまうのだと。


「……許せない」


 彼は、怒りのまま呟きます。


「絶対に、許さない」


 彼は、憎悪を込めて、彼女の名を呼びます。


 彼女の、名前は――。


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