8 みんなの思い、劉生君へ届け!
息を吸うごとに痛みが走り、赤黒く輝く魔神の姿さえ霞んでよく見えません。ゴホゴホと咳をすると、固まった血が地面に落ちます。
うすれる意識を懸命に保ち、顔をあげても、魔神が圧倒的な力のこもった攻撃に息をのむことしかできません。
橙花ちゃんの悲痛な叫びが聞こえます。
このまま自分がやられてしまえば、次は橙花ちゃんの番です。もしかしたら橙花ちゃんを虐めるために、先にムラの子たちを傷つけるかもしれません。
そんなことは、させない。
勝算もなく、力も残っていません。
ですが、劉生君は必死に魔神を睨みます。
そのときです。
「っ、」
歌が、聞こえてきました。
歌詞はしっかり聞き取れません。風に乗って、わずかにメロディが聞こえるだけです。
けれど、劉生君には分かりました。
これは、みんなの歌だ。
みんなが僕に力を貸してくれているんだ、と。
気づくと共に、体の奥から力がわき上がってきました。
実際に、劉生君のからだに変化が現れました。橙花ちゃんは彼の姿を見て、息をのみました。
彼の体からは、眩い赤い光が放たれていました。魔神の光のような、ドロドロとしたおぞましい光ではありません。暖かく心が満たされる、まるで太陽のような光です。
「……なるほど、歌の力か」
魔神は憎らしげに舌打ちをします。
「そんなもの、俺が挫いてやる」
赤い球を何十、何百も増殖させ、劉生君に放ちます。たった一発だけ触れただけでも、人一人は吹き飛ばせることでしょう。
ですが、劉生君は恐れずに剣を構えます。
「<ファイアースプラッシュ>!」
火の粉を散らす技です。全体攻撃用の技ですので、一発一発の威力は弱いはずです。普通だったら、<ファイアースプラッシュ>だけの力では、魔神の攻撃に太刀打ちできないことでしょう。
けれど、みんなの力を得た<ファイアースプラッシュ>は、威力がけた違いでした。火の粉の火力は凄まじく、次々と魔神の球に食らいつき、無効化させます。
「なっ、」
唖然とする魔神に、劉生君は力いっぱい吠えます。
「もう僕は負けないぞ! みんなのために、ミラクルランドを守るために、僕はお前を倒す!」
「相変わらずふざけたことを言う……」
またもや、劉生君は魔神の地雷を踏み抜いたようです。
魔神は怒り狂い、怒鳴ります。
「お前の願いは握り潰してやる。絶対に、絶対にだ!!」
魔神の身体が赤く輝くと、徐々に巨大になっていきました。大きな牛の角を振りかざし、魔神は憤怒をこめて吠え、赤いムチを放ちます。
劉生君は『ドラゴンソード』を握り締めます。
「いーやーだ! 僕は絶対に願いを叶える! とりゃあ!」
魔神のムチを踏み台にして、劉生君はジャンプします。魔神の本体まで行くと、劉生君は渾身の力を振り絞ります。
「<ファイアーバーニング>!!」
魔神の身体ばバッサリ傷ができ、真っ黒な血が滴り落ちます。
「よし、これで……!」
しかし、魔神は堪えた様子もなく、攻撃を繰り返します。
みんなの力を得た劉生君ですので、魔神の攻撃にやられることはありませんが、これじゃキリがありません。
「どうしよう、何か、何か弱点はないのかな……!」
劉生君は攻撃を『ドラゴンソード』で弾きながら、懸命に目を凝らし、頭をフル回転させます。
すると、劉生君の頭にとある考えがよぎりました。
「……右ひざの、膝……」
なぜだか分かりませんが、そこが弱点だと確信しました。迷いはありません。劉生君はすぐに下へ下へ行くと、足らしき場所につけました。
よく見ると、膝のあたりにまるで切り傷のような亀裂が走っていました。
「これで、止めだ!!」
魔神から奪い取った力を、みんなから託された力を、劉生君は全て『ドラゴンソード』に載せます。あまりの強い力に、劉生君の肌にピリピリと痛みが走ります。
それでも、劉生君は願いを乗せて、剣を振りかぶります。
「いっけえええええええええええ!!!!!!」
そして、
劉生君の剣は、魔神の傷に刺しました。