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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
6章 闘技場、アンプヒビアンズ!―ミラクルランドは、奇跡の世界!―
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27 強すぎる魔王! 苦戦する劉生君!

 みんなの願いを一身に受けたからでしょうか、ふらふらとしながらも、なんとか劉生君は立ち上がります。


『ふっふっふ。よきことよきこと』


 魔王は上機嫌です。


『先に仕掛けてきていいぞ? 譲ってやろう』

「……」


 立てたは立てましたが、さっきから痛みで目の前がかすんでいますし、魔法を使うどころか、歩けさえもしません。


 どう考えても、勝てる算段がつきません。


「ううっ……」


 もし橙花ちゃんがいれば、この状況を挽回できる良案を思いついてくれるかもしれません。


 でも、今、劉生君の隣に橙花ちゃんはいません。観客席で見てはくれているでしょうが、アドバイスができるような距離でもありません。

 

 いくら考えても、頭を悩ませても、全く思いつきません。


「え、ええいい!!」


 もうやけです。


「<ファイア―バーニング>!! <ファイアースプラッシュ>!! <ファイア―バーニング>!! <ファイアースプラッシュ>!! <ファイアーウォール>!!!!」


 やみくもに技を連発します。


『おお! いいぞいいぞ! いやー、一発一発の魔法が重くていいね!! さすが、ワタシが見込んだ戦士!!』


 魔王は拍手喝采、テンションマックスで褒めています。


 ……まあ、全て避けていますが。


「そ、そんな……!」


 劉生君の全力を持っても、傷一つついていません。


『君への礼をこめて、ワタシの全力を出してやろう』


 尻尾をフリフリして、槍を天に掲げます。


 槍は赤く輝くと、空一面に複数の真っ赤な光が灯ります。三十、いや、五十もの光です。よくよく見れば、一つ一つの光は槍の形をしています。全ての槍の先端は、劉生君を狙っていました。


『この程度でやられてはならないぞ?』


 ウインクして、魔王は持っている槍を劉生君に向けます。


『<千差万別、大同小異>!』


 四文字熟語です。


 ちなみに、魔王ザクロの技名は気分で変えてきますし、特に教訓めいたものもありませんので、覚えなくても結構です。


 覚えてほしい点があるとすれば、『魔王ザクロの一つ目の技は、槍を雨あられのように降り注ぐ』ことでしょうか。


 五十本もの赤い槍が、劉生君に襲い掛かります。


「ひっ、!」


 逃げる場所はありません。


 <ファイアーウォール>を出す暇さえありません。


「……っ!」


 劉生君は目を固く閉じて、衝撃に堪えました。


 ですが、


 「時よ、<トマレ>!」


 橙花ちゃんが叫ぶと、槍も、魔王も、観客たちさえも静止しました。


 あまりの静けさに、劉生君はおそるおそる目を開けました。周りの状況と、自分の目の前で止まった槍をみて、腰を抜かします。


「ひゃ!? なに? どうかしたの?」


 劉生君のすぐ横に、橙花ちゃんが降り立ちます。


「劉生君っ! 無事!?」

「ぶ、無事かどうかって言われると無事じゃないけど……」

「そうだよね。ごめん。時計塔から魔法を持ってくるのに苦労しちゃったんだ」


 魔法がまだ残っているからでしょう。右側の角は太陽のように輝いています。思わず目をこすりながらも、劉生君は戸惑いを口にします。


「橙花ちゃん、どうして下に降りてきちゃったの!? 掟違反じゃ……」


 橙花ちゃんは凍えるように冷笑します。


「魔物のルールなんて、端から守る気はなかったよ」


 それよりも、と橙花ちゃんは固まったままの魔王を睨みます。


「あっちを早く始末しないと。劉生君、君の力でザクロを切り付けて!」


 いつもなら橙花ちゃんの言う通りにしますが、劉生君は躊躇してしまいました。魔王は確かに怖くて残酷ですが、他の魔王のようにズルせず、正面堂々と戦ってくれました。


 だから、劉生君もそれに応えなくては、――いや、それに応えたいと思っていたのです。橙花ちゃんから見れば「甘い考え」ですが、ヒーローになりたい劉生君にとっては、非常に重要なことだったのです。


 しかし。


 一瞬のためらいが、彼らにとって致命傷でした。


 突如として、劉生君と橙花ちゃんの足元が赤く輝きました。


「わっ!?」「なっ、時間は止めているはずなのに、」


 橙花ちゃんがもう一度時を止める間もなく、光は二人と魔王を包み込みました。


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