27 強すぎる魔王! 苦戦する劉生君!
みんなの願いを一身に受けたからでしょうか、ふらふらとしながらも、なんとか劉生君は立ち上がります。
『ふっふっふ。よきことよきこと』
魔王は上機嫌です。
『先に仕掛けてきていいぞ? 譲ってやろう』
「……」
立てたは立てましたが、さっきから痛みで目の前がかすんでいますし、魔法を使うどころか、歩けさえもしません。
どう考えても、勝てる算段がつきません。
「ううっ……」
もし橙花ちゃんがいれば、この状況を挽回できる良案を思いついてくれるかもしれません。
でも、今、劉生君の隣に橙花ちゃんはいません。観客席で見てはくれているでしょうが、アドバイスができるような距離でもありません。
いくら考えても、頭を悩ませても、全く思いつきません。
「え、ええいい!!」
もうやけです。
「<ファイア―バーニング>!! <ファイアースプラッシュ>!! <ファイア―バーニング>!! <ファイアースプラッシュ>!! <ファイアーウォール>!!!!」
やみくもに技を連発します。
『おお! いいぞいいぞ! いやー、一発一発の魔法が重くていいね!! さすが、ワタシが見込んだ戦士!!』
魔王は拍手喝采、テンションマックスで褒めています。
……まあ、全て避けていますが。
「そ、そんな……!」
劉生君の全力を持っても、傷一つついていません。
『君への礼をこめて、ワタシの全力を出してやろう』
尻尾をフリフリして、槍を天に掲げます。
槍は赤く輝くと、空一面に複数の真っ赤な光が灯ります。三十、いや、五十もの光です。よくよく見れば、一つ一つの光は槍の形をしています。全ての槍の先端は、劉生君を狙っていました。
『この程度でやられてはならないぞ?』
ウインクして、魔王は持っている槍を劉生君に向けます。
『<千差万別、大同小異>!』
四文字熟語です。
ちなみに、魔王ザクロの技名は気分で変えてきますし、特に教訓めいたものもありませんので、覚えなくても結構です。
覚えてほしい点があるとすれば、『魔王ザクロの一つ目の技は、槍を雨あられのように降り注ぐ』ことでしょうか。
五十本もの赤い槍が、劉生君に襲い掛かります。
「ひっ、!」
逃げる場所はありません。
<ファイアーウォール>を出す暇さえありません。
「……っ!」
劉生君は目を固く閉じて、衝撃に堪えました。
ですが、
「時よ、<トマレ>!」
橙花ちゃんが叫ぶと、槍も、魔王も、観客たちさえも静止しました。
あまりの静けさに、劉生君はおそるおそる目を開けました。周りの状況と、自分の目の前で止まった槍をみて、腰を抜かします。
「ひゃ!? なに? どうかしたの?」
劉生君のすぐ横に、橙花ちゃんが降り立ちます。
「劉生君っ! 無事!?」
「ぶ、無事かどうかって言われると無事じゃないけど……」
「そうだよね。ごめん。時計塔から魔法を持ってくるのに苦労しちゃったんだ」
魔法がまだ残っているからでしょう。右側の角は太陽のように輝いています。思わず目をこすりながらも、劉生君は戸惑いを口にします。
「橙花ちゃん、どうして下に降りてきちゃったの!? 掟違反じゃ……」
橙花ちゃんは凍えるように冷笑します。
「魔物のルールなんて、端から守る気はなかったよ」
それよりも、と橙花ちゃんは固まったままの魔王を睨みます。
「あっちを早く始末しないと。劉生君、君の力でザクロを切り付けて!」
いつもなら橙花ちゃんの言う通りにしますが、劉生君は躊躇してしまいました。魔王は確かに怖くて残酷ですが、他の魔王のようにズルせず、正面堂々と戦ってくれました。
だから、劉生君もそれに応えなくては、――いや、それに応えたいと思っていたのです。橙花ちゃんから見れば「甘い考え」ですが、ヒーローになりたい劉生君にとっては、非常に重要なことだったのです。
しかし。
一瞬のためらいが、彼らにとって致命傷でした。
突如として、劉生君と橙花ちゃんの足元が赤く輝きました。
「わっ!?」「なっ、時間は止めているはずなのに、」
橙花ちゃんがもう一度時を止める間もなく、光は二人と魔王を包み込みました。