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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
6章 闘技場、アンプヒビアンズ!―ミラクルランドは、奇跡の世界!―
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26 流れで決勝戦!? VS魔王ザクロ!

 観客席では、客たちは声こそ上げませんが、固唾をのんで魔王と劉生君の姿を見つめます。一方、リンちゃんたちは不安そうにひそひそと話します。


「こんなに早く戦うことになるなんて、思わなかったわ」

「え、ええ」吉人君も戸惑い気味に頷きます。てっきり、一度帰って、作戦を考えてから魔王と戦うと思っていたので、びっくりしているのです。


「みんな、お待たせ」

 

 みつる君が顔をあげて、「蒼っち。お疲れ………様?」と微妙な労いの言葉をかけます。橙花ちゃんが何か答える前に、リンちゃんが歯をむき出しにする勢いで、橙花ちゃんに噛みついてきました。


「ちょっと。あれはどういうことよ。もっと真剣に戦いなさいよ!」

「ごめん。魔王を相手にするだけなら、ボクが代わってあげられたんだけどね。劉生君と戦うとなると、もしかしたら魔神が出てくるかもしれないからさ」


 みつる君は怯えたようにぎゅっと腕をつかみます。


「……蒼っちが倒されそうになるくらい強いんだっけ」

「その上、劉生君を人質にして戦ってくるから、……もし再戦することがあったら、ボクでも負けてしまうかもしれない」


 トリドリツリーで戦った魔神の、あまりの暴力的な戦闘を思い出し、橙花ちゃんはぎゅっと杖を握ります。


「魔王との対決が待っている今、劉生君を傷つけるわけにはいかなかったし、ボクが倒されてしまうわけにもいかないからね……。劉生君には、申し訳ないことをした。けどね、リンちゃん。安心して」


 橙花ちゃんは微笑みます。


「劉生君だけに辛い思いをさせないような作戦を考えているから」

「……作戦?」


 疑問を解決する前に、咲音ちゃんがわっと叫びます。


「見てください、劉生さんが!」


〇〇〇


 時系列を少し戻し、橙花ちゃんがリンちゃんたちと合流していた、ちょうどそのときの劉生君の様子を見てみましょう。


 唐突な勝利と新たな戦いのショックに、劉生君は膝から崩れ落ちていましたが、さすがにこのままではまずいと思い、よろよろと立ち上がっていました。


 とはいっても、へっぴり腰で、眼も泳ぎまくり、『ドラゴンソード』の剣先も小刻みにゆれています。

 

 魔王ザクロは、舐めるように劉生君を観察します。


『見れば見るほど、ただの子供のようだな』

「ぼ、僕はただの子供だよ……?」

『ふっ、何を言うか』


 目を爛々と輝かせて、笑顔を浮かべて、


 ……なんなら頬も赤らめて、劉生君の両手を掴みます。


『この無尽蔵な力! 触れたものを全てを平等に消し炭にする、おぞましくも美しい魔力! 普通の子どもにはこんな力持っていない!』

「う、うん」

『だがもったいない!! あと一押しが足りない!!! なぜだ、一体なぜなんだ!!』

「えー……。そんなこと言われても……」

『分かったぞ!』

「そ、そうなんだ」

『つまり、ワタシが君の力を目覚めさせれば良いんだな!!』

「う、うん……?」


 そうなのかな? と首を傾げます。劉生君が返事できないでいましたが、魔王ザクロは問答無用で話を進めます。


『古来のことわざで、こういうものがある! 力とは、それすなわち経験! 経験とは、それすなわち決闘!! 血と血で争う真剣勝負!!!!』

「ん?」


 嫌な予感がしました。


 けれど、劉生君が行動をする前に、


 魔王の槍が、劉生君の眼前にせまっていました。


「ぴゃあ!」


 倒れるように避けますが、頬が切れ、たらりと血が伝います。傷口の深さを確かめている暇はありません。魔王が槍を持ち直し、追撃してきます。


「わあ!」


 何か攻撃をしないと!


 劉生君は『ドラゴンソード』に炎を灯して叫びます。


「<ファイア―バーニング>!!」


 火力は十分。そこんじょそこらの魔物なら瞬殺です。しかし、


『まずまずの魔力がこもっちゃいるが、これではワタシには勝てないぞ?』


 槍で受け止められ、攻撃を横に流されます。


「わっとっと、」


 ふらつく劉生君の横腹に、思いきり回し蹴りをいれてきました。


「がっ!」

『さらにもう一度っ』

「ぐっ……! <ファイアーウォール>!!」


 炎の壁で防御しますが、


『残念! う・し・ろ!』

「っ!」

 

 背後から槍で薙ぎ払われます。


「……ひ、ひやあ!」

 

 攻撃を受けたくない。怖い。めっちゃ痛そう!


 劉生君は後ろに飛んで逃げます。劉生君の背後にはマグマだまりがありましたので、慌てて飛び越えます。


「わあ! 危ないっ! ううっ、本当にこの場所ヤダ!」


 劉生君のみっともない悲鳴を聞いていないのでしょうか、魔王ザクロは目を爛々と輝かせて『事前にマグマを避けるとは素晴らしい!』と絶賛しています。


 無論、そんな褒められ方をされても、嬉しくありません。


「どうしよう、思ったより魔王の動きが早すぎる!」


 魔王リオンのように絶対避けれないわけではありませんが、これでは攻撃を受けないだけで手一杯です。


「な、なら遠くから戦えばいいかもしれない……!」


 ダッシュで魔王から距離をとり、剣を構えます。


「<ファイアースプラッシュ>っ!」


 火の粉が舞い上がり、魔王に集中砲火します。所詮火の粉ですので、大したダメージにはなりませんが、何度も続けていれば勝てるかもしれません。


「後ろから攻撃なんてヒーローっぽくないけど、でも、こ、これでやってやるぞ!」


 しかし。


『いい攻撃だが、甘い甘い』


 全ての火の粉を受けてもなお、魔王は身じろぎもせずに立っていました。


『遠距離攻撃をするときには、連続して畳みかけるか、一撃で倒せるような攻撃をせねばならないぞ?』


 ニンマリと笑うと、魔王は槍を大きく振りかぶり、投げてきました。


「は、早い……! うわあ!」


 劉生君の脇腹を槍の穂先がえぐります。


「うわあああああっ!」


 痛い。


 焼けるように痛い。


 劉生君は地面にのたうち回り、悲鳴をあげます。苦しむ劉生君を、魔王は至極楽しげに目を細めて眺めるばかりです。


『心配するな。急所は外した。腹にぐっと力を込めてれば、まだまだ戦えるぞ? さあさあ、次は何を見せてくれる?』


 おもちゃを前にした子供の様に、無邪気な笑顔です。命をかけた戦闘中とは思えない余裕っぷりです。


 あまりの戦力差です。


 観客席にいるリンちゃんたちは、手に汗握り、ハラハラと劉生君を見守ることしかできません。


 咲音ちゃんはぎゅっと図鑑を胸に抱いて、今にも泣き出しそうです。


「このままでは、劉生さんが倒されてしまいますよ!」


 橙花ちゃんは唇を噛みます。


「劉生君、ごめん。もう少しだけ、もう少しだけ耐えてくれ……!」


 固く握る橙花ちゃんの手は、


 青い光がパチパチと爆ぜていました。

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