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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
6章 闘技場、アンプヒビアンズ!―ミラクルランドは、奇跡の世界!―
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25 準決勝戦! 劉生君VS橙花ちゃん?

 キンコンカンコン。


 チャイムがなりました。


 クラスの子たちがわいわい騒ぐ中、リンちゃんは大きなあくびをしました。


「んーむにゃむにゃ。ふわあ。ねみゅい……」


 劉生君も目をこすります。


「僕もねみゅい……」

「リューリューったら、今日の試合に緊張して寝れなかったんでしょ?」

「うん……。だって、橙花ちゃんとのバトルだもん……」


 劉生君は、遠足の前日に眠れないタイプです。ですので、ミラクルランドに行く日はいつもあまり睡眠がとれませんでしたが、今回はいつもの何倍も寝れませんでした。


「なんかね、すごく緊張しちゃったの。だから、すごく眠いの。うにゃあー。どうやって橙花ちゃんに勝とうか考えちゃって、眠れなくて、眠いの」

「どっちよ」


 吉人君は心配そうに二人を見ます。


「どうしましょうか。本調子でなければ、今日はやめておきましょうか」

「いや!」「それはだめ!」


 二人は声を揃えて否定します。


「いく!」「いくいく!」


 劉生君リンちゃんの勢いに圧され、吉人君は若干引きます。


「そ、そうですか。お二人がよいのなら、別に構いませんよ」


 咲音ちゃんやみつる君と合流する頃には、リンちゃんも劉生君も元気になっていました。


「よーし、僕頑張るぞ!! いくぞ!!」

「がんばれ! リューリュー! 蒼ちゃんに負けるな!!」


 テンションハイマックスです。


「元気だね……」「ですね……」


 咲音ちゃんみつる君は苦笑しています。


「けど、劉生さんってすごいですよ!」


 咲音ちゃんはパチパチと軽く拍手をします。何を褒められているか全く分からなかったので、劉生君はぽかんとしています。


「僕、すごいの? どうして?」

「だって、蒼さんと戦うことだけに集中できているんですもの! もし蒼さんに勝ったら、魔王と一人っきりで戦わなくてはいけないのに」

「……はっ!」


劉生君、まっっっっったく気づいていませんでした。


「そうだ!! 勝ったら勝ったで、魔王と戦わなくちゃいけない!!」


 しかも、一人で、です。


「……」


 橙花ちゃんと戦い、その上、魔王と戦わなくてはならないかもしれないのです。


 一人で。


「……リンちゃん。代わってくれない?」

「頑張りなさいよ」

「ふぇええん、やだよ、怖いよお!」


 先ほどまでのやる気が一変し、涙目でリンちゃんに縋ります。


 リンちゃんたちは完全に呆れています。


「リューリューなら出来るよ。だって、リューリューなんだし」


 吉人君も呆れています。


「ええ。赤野君ですし」


 咲音ちゃんみつる君ペアも同様です。


「劉生さんですし、勝てますよ!」「うん。いけるよ。赤野っちなら」


 劉生君ったら、随分信頼してもらっていますね。これもそれも、劉生君が誰よりも魔王退治を頑張っているおかげですが、劉生君自身は心配してもらいたいですし、出来ることなら代わってもらいたいと思っていました。


 けれど、みんなは代わってくれなさそうです。


「そうだ! 橙花ちゃんに代わってくれるようにお願いしてもらえばいいじゃん! 橙花ちゃんなら橙花ちゃんと戦っても勝てそうだし!」

「……リューリュー、寝ぼけてるの?」

「うにゃ?」


 よく分からない劉生君はさておき、みんなは公園のエレベーターに乗り、最後の決戦場、アンプヒビアンズにたどり着きました。


〇〇〇


「橙花ちゃん!!」


 劉生君は潤んだ瞳で、橙花ちゃんにすがり、心の底からの願いを訴えました。


「僕と代わってくれない!?」

「……どうやって?」

「代わるだけでいいから!」

「……あの、……ごめん。劉生君。ボクはボクと戦えないよ……」

「……確かに!」


 ようやく劉生君が目を覚ましたところで、準決勝戦の幕開けです。


 橙花ちゃん劉生君はフィールドで相対します。


 フィールド変化は今回もあります。ドロドロマグマが噴き出していて、凄まじく危ないステージになっています。足を滑らせたら、そのまま消し炭になってしまうことでしょう。


「……もっと安全なところで戦いたかったなあ……」


 劉生君が頭を抱えます。なんなら、若干涙目になってしまっています。


 一方の橙花ちゃんは、ニコニコ笑顔で、全く緊張感がありませんでした。あれが経験年数の違いなのでしょう。劉生君はガクブル震えます。


 劉生君の思いを察することはなく、実況席は大興奮でアナウンスします。


『さあさあついに始まりました、準決勝!! 時計塔の力で数々の魔物を潰してきた、美しき暴君、青ノ君! その相手を務めるは、赤ノ君の力を打ちに秘める少年、赤野劉生!!』


 歓声と、やっぱり罵声で湧きあがります。


 しかし、観客たちは期待で目を輝かせています。どんな戦いを見せてくれるか、気になってワクワクで仕方ないのです。


 観客たちの声に負けぬよう、実況はさらに、さらに音量を上げます。


『それでは、歴史に残る一戦、スタートです!!!!!!!』


 劉生君は『ドラゴンソード』を握り、橙花ちゃんに向けます。


「勝てる気がしないけど、ぼ、僕、頑張るよ!!」

「そっかそっか」橙花ちゃんは相変わらずの笑顔です。「劉生君はかっこいいし、強いもんね! けど、……ごめんね?」


 橙花ちゃんはぱちりとウインクをすると、真っすぐ片手をあげました。


「ボク、青ノ君、本戦を辞退します」

「……へ?」

『『『はああああああ!!!?????』』』


 観客、アナウンサー、試合関係者、その他エトセトラ。


 全員が怒り、全員が絶叫しました。


『なんという……。なんということでしょうか!! 我らが族長を倒そうと乗り込んでおきながら、リタイア!!! なんたる侮辱!! なんたる卑怯者!! 許せません! なんなら、このワタシが退治してやりましょう!!!!』


 橙花ちゃんは冷めた目で実況席を見上げます。


「君たちの掟では、一対一の決闘に他者が介入してはいけないのでは?」

『うっ……。それは……』

「リタイアしたい場合は宣言すれば認められる。そう掟に書いてなかったっけ?」

『……はいはい分かりましたよ!! 認めます!! 青ノ君の敗北を認めます!!』


 喧しいほどのブーイングを一身に受け、橙花ちゃんは背を向けて帰ろうとします。


「ちょ、ちょっとまって、橙花ちゃん!」


 橙花ちゃんは振り返り、平然と首を傾げます。


「どうしたの?」

「あのー、た、戦わないの?」

「うん」


 悪びれる様子もなく、橙花ちゃんはあっさりと言います。


「ボクたちの目的はお互いに潰しあうことじゃなくて、魔王を潰すことだからね。もし準々決勝で幸路君が勝っていたなら本気で戦ってたけど、劉生君が上がってきてくれたからね。ここは君に魔王と戦ってもらうよ」

「……そ、そんな……」

 

 劉生君は、こう思いました。


 それならそうと、先に相談してほしかったよ! と。


 劉生君は膝から崩れ落ち、観客はぶちぎれ、リンちゃんたちは戸惑い、混乱と怒りが競技場を支配します。


 橙花ちゃんだけが、ひょうひょうとしています。


 ……いや。


 違いました。


 橙花ちゃんだけでは、ありません。


『鎮まれ、者ども!!』


 たった一声で、けたたましかった観客たちは口を閉ざし、沈黙しました。彼らたちの視線を一身に浴び、奴は、


 魔王は、そこに立っていました。


 つぶらな瞳は闘志に揺れ、気の弱い子ならすぐに気を失ってしまうほどの鋭い殺気を込め、橙花ちゃんを睨んでいました。


『去れ。蒼。お前とは暫く口を聞きたくない』

「……」


 橙花ちゃんは魔王ザクロを冷たく一瞥し、一方で劉生君には満面の笑みで優しく朗らかに微笑みます。


「劉生君。頑張ってね。応援してるから!」

「う、うん」


 ここまで態度が違うと、もはや恐怖を覚えます。


 橙花ちゃんがフィールドから去ると、ようやく魔王は劉生君を見てくれました。まだ怒りが収まっていないようですが、劉生君には笑みを見せてくれています。


『まさかこんな空気の中で戦うとは思わなかったが、君が勝ち抜いた事実は変わらない。しかも、魔神の意識に一度も身体を貸すこともなく。いやすごい。君の勇気と力に感服だ』


 さて、と言い、魔王は槍を構えます。幸路君のような三又に分かれた槍ではありません。皆さんが『槍』と聞いて想像できる武器を手にしています。


『改めて、自己紹介をしよう。ワタシの名はザクロ。ザクロ・オオサンショウウオ。アンプヒビアンズの族長だ』


 ザクロ・オオサンショウウオ――最後の魔王は、不敵な笑みを洩らしました。

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