24 リンちゃんの悩み! 迫られる選択!
ご飯を作って、食器を洗って、明日の学校の準備を手伝って。
さあ寝ようと、妹弟たちをまたいで自分の布団に潜り込んでも、赤ん坊が泣き始めて、抱っこをして、泣き止むまで宥め続ける。
それが、リンちゃんの仕事。
真冬の夜は凍えるように寒く、コートを何枚も着こんでも温かくなりません。車いすじゃなかったら、足踏みでもして運動していることでしょう。
「……」
暗く冷たい絶望を振り払おうと、頬をはたきます。思ったよりも大きな音を出してしまい、慌てて妹弟たちの様子を伺います。
気にならなかったようで、ぐっすり眠っています。赤ちゃんも段々と瞼がおりて、目を閉じてくれました。
リンちゃんはほっとして、赤ちゃん用のベッドに戻そうとしました。
けれど、すぐそばの道に、喧しいバイクが通り、リンちゃん家の薄い壁が揺れ、赤ん坊が泣き喚きます。
「……ああ、もう」
赤ん坊を抱きしめて、ゆらして、宥めようとしますが、やっぱりうまくはいきません。泣き止ませることはできず、弟や妹たちも起きてしまいました。ついにはピンポンを鳴らされ、近所に住む奥さんが怒鳴り込んできました。
「ちょっと! うるさいんだけど!」
「ご、ごめんなさい」
リンちゃんは必死に頭を下げます。彼女の車いす姿を見て一瞬うろたえますが、まるでそれを跳ねのけようとでもするように怒鳴り声をあげます。
「親は!? まだ帰ってないの!?」
「……まだ帰ってなくて……」
「ほんとさあ、あんたらの親、いつ帰ってきてるのよ! 虐待なんじゃないの!?」
「……っ! すみません。本当にすみません。あたしたちは大丈夫ですから、すぐに泣き止ませますから」
もしかしたら通報されてしまうのでは。
そんなことをされたら、またお母さんが仕事できなくなってしまいます。
また、無理をしてしまいます。
止めてほしい、と願いながらひたすらに頭を下げていると、ようやく怒りの矛先をおさめてくれました。
「……あとでお母さんにいっておいてよね。ちゃんと子供の世話くらいしなさいって!」
「……はい」
通報はまぬがれたようです。リンちゃんは小さくため息をつき、家に戻りますと、妹と弟たちが不機嫌そうに腕を組んでドアの外を睨んでいました。
「ああいうの、ほんとムカつく。文句ばっかいって、正しそうなことばっかいって、俺たちがきついときに助けてくれた試しがない!」
「嫌いー!」「だいっきらい!!」
不平不満をあれこれと並べ立てる妹たちを、リンちゃんはポンポンと手を叩いて黙らせます。
「はいはい。あんたたちの気持ちは分かったから、さっさと寝なさい。明日も学校なんだから」
「俺、赤ちゃん寝かす!」
「大丈夫! 大体、あんたじゃ泣かしちゃうでしょ? さあさあ、お姉ちゃんに任せて! 寝なさい!」
小さな子はすぐに床に就き、大きい子たちも渋々ながら眠ってくれました。
リンちゃんは、まだまだ泣き喚く赤ちゃんをどうにかこうにか宥めようとしますが、中々泣き止んでくれません。いつもよりも暴れまわって、泣き続けます。
「あー、近所の人も来ちゃったし、みんな起きちゃったし、ビックリしちゃったのかな」
泣いて泣いて泣いて、
泣き続ける赤ちゃんを見つめて、ぎゅっと抱きしめます。
「……」
ミラクルランドに、ずっといたい。
そう願ったリンちゃんに、橙花ちゃんはミラクルランドに残るための、ある条件を教えてくれました。
条件は、リンちゃんにとって驚きの内容でした。
今までの常識が覆されるような条件でした。
あまりに驚いて、そのときはすぐに返答できませんでしたし、今だってどうしようか悩んでいました。
けれど。
「……」
みんなのためを、思うなら。
「……」
リンちゃんは、
選択を、迫られていました。