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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
6章 闘技場、アンプヒビアンズ!―ミラクルランドは、奇跡の世界!―
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21 第三回戦! 劉生君VS幸路君!


 闘技場のステージに、二人の男の子が立っています。


 一人は、炎をまとった剣を手にする男の子、赤野劉生君です。決意を胸に抱き、剣をぎゅっと握ります。


 もう一人は、三又の槍を持つ男の子、高橋幸路君です。やる気満々でニヤニヤしています。


「ふっふっふー! 赤野劉生!! お前と戦える日を楽しみにしてたぞ!! いざ、勝負!!」


 アナウンスが試合開始を告げるとすぐに、(なんならそれよりも早く)、幸路君は劉生君に突撃してきました。


「剣と槍だったら、俺の方が相性がいいんだからな! ていや!」


 槍を振るおうとしました、が。


「ちょっと待った!!」


 劉生君は剣を捨て、両手を前に出します。


「はあ? ちょ、わわっ!」


 車は急には止まりません。同じように、攻撃する気満々で走ってきた幸路君も、急には止まれません。


 慌ててブレーキをかけますが、勢いあまって劉生君とぶつかってしまいました。


「うぎゃあ!」「あぶぶ!!」


 正面衝突です。


 両者、痛みでうずくまります。


「ひ、ひどいよ幸路君! ぶつかってこないでよ!!」

「そっちこそ避けろよ!!」

「当たってきたそっちがわる」


 ついつい口喧嘩をしてしまいかけますが、劉生君はハッと我に返りました。こんなことをしていては、せっかく考えた作戦も水の泡です。


 ごほん、と一咳して、体勢を整えます。


「えっとねえ、僕はね、とっておきの作戦があるの!」

「作戦? ほー、作戦ねえ。いいだろう! 寛大な俺が聞いてやろう!」


 相手の作戦なんて聞かずにさっさと戦えばいいのに、幸路君は槍を地面に置き、腕組みをします。完全に聞く姿勢をみせてくれています。


「それで、作戦ってなんだ?」

「ちょっと待ってね」


 劉生君はキョロキョロ辺りを見渡します。良さそうなものがなかったので、仕方なく砂を両手ですくいます。


「ほんにゃららー、ほんにゃららら! ミラクルランドの神様よー。僕の願いを叶えてくださいー」

「なんだその呪文」

「ていや!」


 よく分からない呪文を口にしながら砂をばらまくと、軽い破裂音とともに薄型テレビが現われました。


「……なんじゃこれ? もしかして、テレビで俺を殴るのか? けどこんなんじゃ、槍でひと突きだぞ?」

「違うよ。幸路君に見てほしいものがあるの」


 軽くテレビを叩くと、ある映像が流れてきました。


「こ、これは……!」


 幸路君は息をのみました。


「『仮面恐竜キョウスケ』の新作か!」


 テレビの画面に映るのは、幸路君の大好きなアニメ『仮面恐竜キョウスケ』でした。かっこいい恐竜たちが頭突きしあい、かっこいい主人公が華麗に戦闘しています。


 幸路君はテレビの目と鼻の先に座り(良い子は真似をしてはいけません!)、感銘のため息をついています。


「やっぱりいいなあ。動きがいい。ストーリーもいい。装備品もいい。すべてが完璧!」


 ニコニコ笑顔の幸路君でしたが、すぐに表情が固まりました。


「な、こ、こいつは!!」


 幸路君にとって、衝撃的な映像が流れました。


 アニメ調のイラストに、突然、実写の人物が入ってきました。


「『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の主人公、蒼井陽じゃないか!」


 劉生君が大好きな実写ドラマ、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』です。本来なら交わることがない、二つの世界が今ここに映っているのです。


「おい、これはお前が魔法で作ったのか?」

「……ううん。違うよ。来年の夏に公開予定の映画、『ドラゴンファイブVS仮面恐竜』だよ」

「……なん、だと……! そんな情報、聞いたことないぞ!」

「そりゃそうだよ。だって、今週に情報解禁したばっかりなんだもん」

「だが、それでお前はいいのか! お前は『仮面恐竜キョウスケ』が嫌いなんだろ!!」


 劉生君は目を反らします。


「最初は複雑だったよ? だから、あまり触れないようにしていたんだ。けどね、僕、君と会って考え直してみたんだ。それで、気づいたの。……これもありじゃないかって」


 胸に手をあてて、真っすぐ幸路君を見つめます。


「僕の友達がね、僕と幸路君は似た者同士だって言っていたんだ。僕はそれにかけることにしたんだ」


 劉生君の目は、


 決意の光に満ちていました。


「幸路君。君もこの新報を見て、こう思ったんじゃないの? これもありだって」

「……っ!」


 幸路君の肩がびくっとはねました。


 図星と知られたくないからか、幸路君は若干切れ気味で叫びます。


「そ、それがどうした! そ、そりゃあ、硬派な『仮面恐竜キョウスケ』とカジュアルな『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』がクロスオーバーしたら、どんな作品ができるのか気になったし、これもありだなって思ったけどな、けどな!」


 ビシッと劉生君を指さします。


「お前もそう思ってるんだろ! だ、だったら、俺だけがおかしくないぞ!! そうだろ!?」



 しかし、劉生君は冷静でした。


「幸路君のいう通りだよ。僕もいいなって思った。そんな自分の心を疑ったときもあった。でも、……僕は、気持ちに、心に、素直になる。だから、僕は、この映画を見に行く」

「なっ! ま、マジか。だ、だってお前、あんなに嫌がってたのに」


 幸路君は狼狽えます。一方で、劉生君も劉生君で、唇を噛み締めて後悔に苛まれています。

 

「うん。けど、幸路君に『仮面恐竜キョウスケ』の悪口を言っちゃった事実は変わらない。だから、」


 唐突に、劉生君は正座をします。


「僕を、倒してほしいんだ」

「……へ?」


 幸路君はぽかんとします。


「しょ、正気か?」

「もちろんだよ。これが、僕のけじめ。だからお願い。一思いに僕を刺してほしい」

「……」


 幸路君は絶句します。相当びっくりしているのでしょう。勿論、観客たちや実況の人たちは驚愕しています。


『おっとー? これはどういうことでしょうか! 魔神の力を封印した男の子、赤野劉生が事実上の敗北宣言だ!!』


 観客たちもどよめき、ざわめいています。


 リンちゃんたちすら、驚いています。


「はあ!!??? リューリューったら、何言ってるのよ!」


 吉人君は「なんて作戦ですか」と呆れ、みつる君は「ど、独特だね……」と引いています。咲音ちゃんだけは「劉生さんかっこいいですね!」と喜んでいます。


「……ま、まあまあ、みんな。落ち着いて落ち着いて」


 橙花ちゃんこそ宥めてくれていますが、実のところ一番ドン引きしています。


 競技場の空気は最悪になりましたが、そんなことを気にする劉生君ではありません。姿勢を正し、幸路君だけを視界に映しています。


「……」


 幸路君はわずかに後ずさります。汗がたらりと体を伝います。


 その時、幸路君は悟りました。


「……けた」

「え?」


 ぽつりと、幸路君は呟きました。うまく聞き取れず、劉生君は前のめりになりましたが、そのときです。


 突然、幸路君は大の字になって倒れ、会場に響き渡る大声で叫びました。


「負けた!!」 

「え、え、え、え……??」

「俺は、お前に負けた!!!!!」


 一体、どういうことでしょう。唖然とする劉生君の目の前で、幸路君はゆっくりと立ち上がります。


「俺はな、あの映像をみたときに、心の底からわくわくしたんだ。なのに、俺はそのわくわくを否定した。『仮面恐竜キョウスケ』を馬鹿にした『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のファンを許せなかったんだ」


 幸路君は、ゆるく、首を横に振ります。


「けど、お前は違った。過去のしがらみを乗り越え、お前は『仮面恐竜キョウスケ』を認め、『ドラゴンファイブVS仮面恐竜』を受け入れた。そんなお前に、俺は勝てない」


 彼は笑顔で、劉生君に手を差し伸ばします。


「お前の勝ちだ」


 その眼には、


 決意が灯っていました。


「……うん!」


 劉生君は笑顔で、彼と手を握りました。


 観客の罵声なんて気にせず、気にすることもなく、二人は互いの健闘をたたえ、互いの『好き』を認めあい、


 お互いの心を、認め合っていたのでした。


〇〇〇


「なんだったのあれ……」


 リンちゃんは死んだような眼で劉生君の勝利を見ていました。本当は応援したかったのですが、この内容ではそういう気分にもなりません。


 あの優しい橙花ちゃんでさえ、何度も頷いてしまっています。


「ただいまー」


 帰ってきた劉生君を出迎えるみんなも、若干冷たい視線を向けています。


 ……劉生君は「大試合を乗り越えた」と言わんばかりに、汗を拭ってはいますが。


「これで準決勝進出だね! ……つまり、次に僕と戦うのはリンちゃんか橙花ちゃんってこと? そ、それとも魔王と戦うの……!?」


 橙花ちゃんが答えてくれました。


「魔王は決勝戦で戦うことになってるよ。だから、次に戦うのはボクかリンちゃんだね」

「そっかあ……」


 友達と戦うのは出来れば避けたいなあ、と思う劉生君でした。


 けれど、橙花ちゃんほど嫌がってはいないことでしょう。


 次の戦いは橙花ちゃんとリンちゃんの試合ですが、アナウンスで呼び出されたというのに、ちょっぴり嫌そうにしています。やる気満々で、ぴょんぴょんと飛びはねるリンちゃんとは対照的です。


「リンちゃんと戦うのかあ……。試合とはいえ、あまり気が進まないなあ」

「えー? もう、蒼ちゃんったら。友達とはいえ、勝負は勝負よ! 真剣にやってよね!」

「……うん。頑張るよ」


 それでも乗り気ではないようで、足取りも重いですし、青い角の光が弱まってしまっています。一緒に待機場所に向かうリンちゃんとは大違いです。


 みつる君は心配そうに二人の背中を眺めます。


「二人は大丈夫なのかな……。こう、色々と……」

「まあ、どっかの誰かさんよりは安心して見れますけどね」


 劉生君はきょとんと吉人君を見ます。


「どっかの誰かさんって、誰の事?」

「誰なんでしょうねえー。僕にはわかりませんねえー」


 吉人君は肩をすくめて、小さく笑いました。

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