19 第三回戦!? 戦え、劉生君……?
次の日は、念のためにお休みにして、その次の日に、ミラクルランドへ行くこととしました。
その日のお昼休みに、劉生君たちは教室の片隅で作戦会議を開いていました。
リンちゃんもすっかり吹っ切れたのか、すっきりした顔で橙花ちゃんお手製マニュアルをめくっていました。
「リューリューが戦うのは幸路君だったわよね。そういえば、あたしは誰と戦うんだっけ」
対戦相手を見つける前に、吉人君が教えてくれました。
「実はなんと、蒼さんですよ!」
「ええ! 蒼ちゃんと戦うの? そっかあー。蒼ちゃんとかあ」
リンちゃんったら、ワクワクしているようです。
「蒼ちゃんと勝つにはどうすればいいんだろうなあ」
「蒼さんは補助タイプの人ですから、接近戦に持ち込めば勝てるかもしれませんね」
橙花ちゃんをいかにして倒すか、多少盛り上がりましたが、最悪どっちが勝っても目的は達成されますので、そこまでは盛り上がりません。
今回の論点は、そちらではなく、
「問題は、赤野君ですよね」
「僕? 僕、頑張るよ!」
「赤野君の力は僕だって分かっていますが、彼は、――高橋君は只者ではありません。対策を考えなくてはなりませんね」
リンちゃんは攻略本をめくり、『高橋幸路』のページを開きます。
「わあ、すごい。写真までついてる! かっこよく撮れてるわね。誰が撮影したのかしら。蒼ちゃん?」
「だったらすごいね! 僕の写真も撮ってもらいたいなあ」
しょっぱなから脱線しはじめました。みつる君が軌道修正をかねて、ページをのぞき込みます。
「なになに? 『仮面恐竜キョウスケ』が大好きで、特に主人公のティラノサウルスが好き? あ、主人公のイラストも載ってる。ふうん、結構かっこいい」
「『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の蒼井陽さんの方がっこいいもん!!」
ぐぬぬと劉生君は悔しがり、先生に見つからないように隠し持っていた『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』蒼井陽のグッズを手にします。
「あ、う、うん。分かった、分かったよ赤野っち」
みつる君は引き気味に言います。
そんな二人のやり取りを眺めていた咲音ちゃんは、不可思議そうに首を傾げます。
「少しお聞きしたいんですが、劉生さんはどうして『仮面恐竜キョウスケ』が好きではないんですか?」
「あー確かにそれは謎かも」リンちゃんが声をあげます。
恐竜が嫌いだから、ではなさそうです。
そもそも劉生君の恐竜嫌いは、『仮面恐竜キョウスケ』嫌いが根幹にあります。つまり、『仮面恐竜キョウスケ』が先、恐竜嫌いが後です。
なら、どうして『仮面恐竜キョウスケ』を嫌いになってしまったのでしょう。
正直、あまり興味ないですが、話の流れで、劉生君に尋ねてみました。
「それはね……」
劉生君は、重い口を開きます。
「……ファンが、好きじゃないからさ!!」
「ふうん、そうなんだ。じゃ、ユッキーをどうやって倒せるか、考えてみま」
「いつも『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』を馬鹿にするの!!」
「あー、話題振ったの失敗だったわね」
本題に入ったかと思いきや、さっそく脇道に入ってしまいました。劉生君は『仮面恐竜キョウスケ』のファンがいかに酷い人たちか語りはじめました。
もうリンちゃんも吉人君も、みつる君でさえも苦笑しながら劉生君をスルーしています。
ただ一人、咲音ちゃんだけが、真摯に聞いてくれて、誠実に疑問を投げかけます。
「それなら、『仮面恐竜キョウスケ』は嫌いではないんですね!」
「……そ、それは……」
劉生君は絶句しました。「あれ、話終わった?」とリンちゃん吉人君が顔をあげてみると、劉生君は教室の床に膝をつき、悔しがっていました。
「……嫌い、って、本当は言いたいんだ。……でも、……でも!! 『仮面恐竜キョウスケ』もいいかなって、思っちゃうときも……ある」
謎の熱量です。
人生をかけた告白、みたいな雰囲気です。
咲音ちゃん以外の子は、「ふーん」といった反応でしたが、咲音ちゃんはいたく感動しています。
「そうなんですね……。複雑なお気持ちを抱いているんですね。わたくしも分かります。可愛いフクロウさんが、可愛いラットを餌にしているような気持ちですよね」
みつる君、それは違うのではないかと内心思います。
劉生君は勢いよく「そうなんだよ!」と頷いていますが、おそらく咲音ちゃんの言葉をしっかり聞いての発言ではないでしょう。自分に賛同してくれたから、適当に頷いているだけです。
それだけ熱中しているのです。
「だから……。僕、幸路君にちょっと言い過ぎたかなって思ってるんだ。そりゃあ、幸路君が『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』を馬鹿にしたのは許せないよ? でも、……僕も
反省しなくちゃいけないところはある。……そう思うんだ」
そういえば、とみつる君が何気なく話します。
「高橋っちも、その、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』だっけ? を、見てはいるみたいだったね」
「……確かに、そうかもしれない」
幸路君は『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の悪口をたくさん言っていました。けれども、どれも適当に発した言葉ではありません。番組を見ていないと分からない内容の誹謗中傷でした。
「……もしかして……」
この前、吉人君と幸路君が戦っていた時、吉人君がこう言っていました。
劉生君と幸路君が似ている、と。吉人君の言う通りだったら、幸路君も実は劉生君と同じような気持ちを抱いているのかもしれません。
……それなら、
劉生君はある案を考えつきました。
もし、その案が成功すれば、劉生君と幸路君の間のいさかいはなくなり、仲直りできるかもしれません。
これは、劉生君と幸路君の間だけの話ではありません
全『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のファンと、全『仮面恐竜キョウスケ』のファンとの争いがなくなるかもしれません。
けれど、作戦の成功はすなわち、敗北を意味します。本来の目的である魔王と戦えなくなってしまいます。
……それでも。
劉生君は、決断しました。