17 第二回戦、開始! 戦え、リンちゃん吉人君!
黄色のカエルは、オロオロと闘技場内を見渡します。敵の女の子はどこにもいません。まさか逃げ出したかと思うも、即座に否定しました。
そのはずはない。もし本当に逃げたなら、実況者が試合終了を宣言する規則になっているのです。
アンプヒビアンズでは、規則違反は許されません。
ですので、あの女の子は、――道ノ崎リンちゃんは、どこかに隠れているはずです。
黄色のカエルは思わず怒鳴り声をあげます。
『一体どこにいるんだ!? 出てこい!!』
「ここよっ!」
上から聞こえてきました。
『なにっ!?』
「ていや!!!」
リンちゃんは思いっきり踵落としをします。
雷の力をまとった攻撃に、カエルは目を回して倒れてしまいました。
『勝者!! 道ノ崎リン!!!!』
「やった!!」
リンちゃんは天高くガッツポーズをします。観客たちは拍手喝采! 特に橙花ちゃんと劉生君はスタンディングオベーションです。
「いやー! 本当にリンちゃんはすごい!!」
「でしょ!!! リンちゃんかっこいいよね!!!!!」
この二人のはしゃぎっぷりに、さすがのみつる君も苦笑します。まるで自分の子供の晴れ舞台に喜ぶ親のようです。
吉人君は二人を微笑ましそうに眺めつつ、立ち上がります。
「さて、試合の準備をしてきますね」
橙花ちゃんは笑みをすっと消して、何とも言えないような表情に変わりました。
「幸路君と戦ってくるんだよね。……その、応援してる、から」
真実半分、嘘半分の言葉に、ついつい吉人君は噴き出してしまいます。
「無理なくてもいいですよ。僕を応援してくださってもいいですし、高橋君を応援しても構いませんから」
見抜かれていたのに照れたのか、橙花ちゃんは頬をかきます。
「……ごめん。でも、ちゃんと吉人君も応援するから」
吉人君はニコニコ笑顔で手を振り、去っていきました。
橙花ちゃんは複雑なのかもしれませんが、劉生君は両手にマスカラを持ち、応援する気満々でした。
「吉人君が勝ったら、僕たち四人で第二回戦にいけるね!」
ちなみに、劉生君と橙花ちゃんは既に勝利を収めています。危ない目にも合うことなく、あっさり勝てました。
ですので、劉生君は全力で吉人君を応援します。
「がんばれー! 吉人くーん!!!」
「劉生君。まだ吉人君も幸路君もいないよ」
からっぽの闘技場を応援する劉生君を、橙花ちゃんはそっと突っ込みました。
〇〇〇
歓声の雨に酔いそうになりながら、吉人君は闘技場の会場で武器を構えています。
相対するは、橙花ちゃんの友達、高橋幸路君です。
「うっし! 次の俺の対戦相手は誰かー? ん? おっ、蒼の友達の眼鏡っ子か!」
三又の槍を大げさに振り回し、好戦的に笑います。
「ふっふっふー。実はな、第一回戦のお前の戦いっぷりを見てたぞー? 魔力はそこまででもないが、頭の良い策略で相手を追い詰める系の戦い方だろ?」
幸路君はどや顔をします。
「どこぞのレプチレス・コーポレーションの社長さんみたいな戦い方だが、果たして俺に効くかな!」
ノリノリの幸路君ですが、一方の吉人君はまじまじと彼を眺めるばかりです。
「前から思っていたんですが……」
「ん?」
「あなたって、赤野君と似てますよね」
「はあ!? あの『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の迷惑なファンと!?」
心外だと言わんばかりに、幸路君はドタドタと地団駄を踏みます。
「俺は!! もっと大人だ!! 撤回しろ!!」
「あ、失礼しました。言葉をかえますね。赤野君よりは、煩いお人ですね」
「なんだと!! もう切れたぞ!!」
さっそく、幸路君は攻撃を仕掛けてきます。
「おっとっと」
吉人君は余裕そうに躱します。
「では、こちらからも。<マッチャ=ラテオーレ>!」
抹茶味とミルク味の飴がキラキラと輝き、緑と白がまじった光の弾を出します。光は幸路君のすぐそばで破裂し、身体を麻痺させる粉をまき散らします。
吉人君の策略はこうです。
まず、人や魔物を麻痺させます。これで相手は動きにくくなります。すかさず吉人君は後ろに退きつつ、<マッ=チャー>の葉っぱで遠くから攻撃し続けます。
ちくちくと攻撃されたら、相手も嫌になってくることでしょう。ならば反撃をするのみと、相手は必死に戦います。
しかし身体は痺れ、葉っぱによって体力は削られていきます。
運よく吉人君に攻撃が当たったとしても、<ギュ=ニュー>で回復するので、あまり気にすることもありません。
こうして攻撃を重ねて、重ねて、ついにはやっつけてしまう! というのが、吉人君の策略です。
第一回戦ではこの戦略でかなりの数の魔物や子供を倒すことができました。今回だってうまくいくはずです。
既に<マッチャ=ラテオーレ>は当たっていますので、あとは<マッ=チャー>で攻撃するのみです。
吉人君はこれで勝ったも同然と思いながら、後ろに下がりました。
しかし、
「ていや!!!!」
ぶん、と槍を振るうと、なんと<マッチャ=ラテオーレ>が風に飛ばされて消えてしまったのです。
「なっ! 当たったはず……!」
「これくらいの魔法じゃあ、俺をどうこうできないさ! んじゃ、次は俺の番だ! てい!」
瞬きする間に、吉人君のすぐ目の前に幸路君がいました。
「なっ!」
「ていや!!」
そのまま幸路君は体当たり!
吉人君はよろけて、後ろに倒れてしまいました。
「くっ、」
起き上がろうとする吉人君ですが、
「動いたら、……危ないぜ?」
吉人君の首元に、鋭利な槍先が突き付けられました。
「……」
吉人君は、起死回生の案を決死に考えました。しかし、<マッチャ=ラテオーレ>が効いていない今、どんな作戦も水の泡です。
自分の不甲斐なさを噛み締めて、彼は「ギブアップです」と告げました。