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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
6章 闘技場、アンプヒビアンズ!―ミラクルランドは、奇跡の世界!―
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13 持久走大会! 雨は降ってほしい時に限って降らない

 翌日、劉生君とリンちゃんは、手足をこすりながら小学校に登校します。昨日は第一回戦を突破しましたし、いつも通りなら晴れやかな気持ちを抱いていることでしょう。


 けれど、どうしたのでしょうか。リンちゃんだけはテンション上がっていますが、劉生君はどこか沈んでいます。


「……はあ……」


 劉生君は落ち込んでいます。


「どうしたのよ、リューリュー! 元気だして!」

「……出せないよ」


 彼がここまで落ち込んでいる理由。


 それは、今日が持久走大会だからからです。


 劉生君が一番苦手な学校行事でしたので、こんなにテンションが下がっていたのです。


「はあ……。雨降らないかなあ」

「今日は風こそ強いけど、快晴の予報よ」

「うう……」


 一方、リンちゃんはテンション爆上がりです。


「今日こそ、あたしは持久走大会で一位になるわよ!!」


 目が爛々と輝いています。今にも走り出しそうな勢いです。ミラクルランドで戦っているときよりも元気一杯です。


 劉生君はつられて笑ってしまいます。


「リンちゃん、頑張ってね。応援してるから」

「うん! リューリューも頑張りなさいよ」

「それはちょっと……」

「せめてずっと走ってなさい」

「……それはちょっと……」


 やる気のない劉生君に、リンちゃんは肩をすくめます。


「ほんと、リューリューはミラクルランドと『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』以外だと、やる気ださないわよね」

「だって、走るのは楽しくないもん」


 『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』は見ていてドキドキしますし、元気が湧いてきます。ミラクルランドで戦うのも、子供たちを守るんだー! なんて気持ちで挑めますので、ドキドキしますし、元気が出てきます。


 そう考えていると、ふと、昨日ミラクルランドに帰る寸前に橙花ちゃんにもらった攻略本を思い出します。


「そうだ、ねえねえ、リンちゃん。橙花ちゃんにさ、第二回戦の対戦相手について書いてくれた本もらったよね」

「あー、そうね。もらったわね」


 あまり時間が取れない劉生君たちのために、対戦相手の強みや癖などなど、丁寧に書いてくれた本です。


 ミラクルランドの世界のものは、こちらの世界には持ち込めません。


 ですが、この本は元々みおちゃんがミラクルランドに来たときに持っていたお絵描き帳でした。


 お絵描き帳にたくさんの情報を書いて渡してくれましたので、こちらでも読むことができるのです。


 その話を聞いた時、「あとでみおちゃんに可愛い折り紙をプレゼントしたいね」、と、わいわいお喋りしていました。


 あまりに詳細に記載していましたので、ミラクルランドから帰ってすぐ読むことはせず、あとで読もうと約束していました。


「あの本、いつ読む? 持久走大会終わったら読んじゃおうよ!」

「んー。そうね、そうしましょっか」


 持久走をした後にそんな元気があるかどうかは分かりませんが、ひとまず二人の間ではそれでまとまりました。


「読み込んで、戦い方考えないとねー」「うん!」


 二人はてこてこと歩きます。太陽は優しく二人を照らし、劉生君はともかく、リンちゃんを元気づけてくれます。


 しかし、冷たい突風がびゅん、と吹いて、リンちゃんは立ち止まりました。


「いい天気だけど、今日は寒いわね……,。……ん?」


 リンちゃんの目の前を、ビニール袋が飛んでいきました。


「おー。結構な風ねえ」

「だねえ。僕、飛んで行っちゃうかも!」

「ないない。……そういえば昨日、リューリューったら空き缶踏んで転びかけてたわね」

「……そうだっけ?」

「そうだったわよ。今日も風が強いみたいだし、気を付けなさいよ」

「はーい!」


 二人は仲よく足並み揃えて、学校へと向かいました。



〇〇〇


 劉生君の学校の持久走大会は、一度学校の外に出て、車通りのない裏道を往復してから校庭に帰ってくるルートで走ります。


 ちょうど今のタイミングで、低学年の子が学校のグラウンドに戻ってきました。わーわーと歓声が響く中、低学年の子たちは晴れやかな顔でゴールテープを切ります。


 頑張って走る子たちを、劉生君たち男子組は疲れ切った表情で見ていました。


「リンちゃんたちを応援したら、もう教室に戻りたい……」


 劉生君のうつろな一言に、みつる君吉人君は頷きます。


 持久走大会はみんなで応援する趣旨でしたので、走り終わった後も、こうしてグラウンドに残らなくてはならないのです。


 体力がある中で応援するなら、もう少し気力を振り絞ってエールを送れますが、さっき走ったばっかの男子組はもうヘトヘトで、それどころではありませんでした。


 それでは、女子組はどうでしょうか。様子を見てみましょう。


 低学年の子が走り終わったら、今度は四年生女子の番、つまりリンちゃん咲音ちゃんの走る番です。


 そんな中で、咲音ちゃんは空を飛ぶカラスを眺めて、「あの子はハシボソガラスかな? ハシブトガラスかな?」と首を傾げていました。いつもの咲音ちゃんですね。運動は苦手な方ですが、嫌いではありませんので、そこまで身構えてはいません。


 一方、リンちゃんはというと……。


「……ふう……」


 大きくため息をついていました。咲音ちゃんが不思議そうに尋ねます。


「どうなさいましたか? 体調が悪いんですか?」

「あ、いや、そうじゃないの。頑張って、一位とらないとなって思ってたの」

「もしかして、一位をとったらプレゼントを頂けるんですか?」

「ううん、もらえないもらえない」


 リンちゃんは苦笑しながら首を横に振ります。


「あたしんちはそこまで裕福じゃないからねー。生活していくだけでやっとだもん」

「あ……。ごめんなさい。わたくし、」

「いいのいいの。これはこれで結構楽しいからね。けど、あたしたちの弟や妹たちは、やっぱりきついと思うんだ。だからね、大きい大会でたくさん一位をとって、賞金たくさんもらって、家族を楽にさせてあげたいの」


 それがあたしの夢! とリンちゃんは元気よく答えます。


「そのためには、こういうところでも、ちゃんと結果出さないとダメだから、頑張ってるってだけ。……あんまり頭いい考えじゃないけどね」

「そんなことはありません」


 咲音ちゃんは心の底から否定します。


「リンさんは本当に素晴らしい人ですよ。わたくし、尊敬しています」

「ふふっ、ありがとう」


 体育の先生が「そろそろ出番よ。みんな手早く並んで!」と呼びかけてきました。リンちゃんは「あの先生、一言多いのよね」とちょっぴり悪口を言いながら立ち上がります。


「それじゃ、あたし前の方に並ぶから。ばいばい!」

「ええ! リンさん、頑張ってください!」

「うん! がんばるよ!」


 リンちゃんはひらひらと手をふって、満面の笑みで去っていきます。


 咲音ちゃんもニコニコしながら、リンちゃんの背中を見つめます。


「あ、そうだわ。リンちゃんが有名なアスリートさんになる前に、サインもらっておかないといけないですね」


 後でもらっておきましょう!


 そのときの咲音ちゃんは、無邪気にリンちゃんを見送りました。


〇〇〇


 地を蹴り、風を切り、リンちゃんは走ります。


 凍えるような空気も、段々と暖たくなる太陽も、一緒に走る生徒たちでさえ、彼女は意に介しません。


 先生の声援を軽く流して、走る先を真っすぐ見つめます。


「いい? 道ノ崎さん」


 ある日のクラブで、顧問かつ体育の先生が目を吊り上げて説教じみたことを言います。


「あなたはペース配分を間違えて突っ走ってしまうところがあるから、そこをちゃんと気をつけなさい」


 悔しいですが、正解です。


 一生懸命になりすぎて最初から飛ばしてしまい、疲れてしまうことがよくあったのです。


 リンちゃんは自分自身に言い聞かせます。「ペースを守って、走りすぎないで、慎重に」、と。


 それでも、ついついスピードを出したくなる自分もいます。


 一位になりたいから速く走りたい。そんな思いだって、勿論あります。


 けれど、どちらかというと、単純に走るのが楽しくて楽しくて仕方なくて、テンションが上がっていたのです。


 風景がどんどん後ろに流れ、前へ前へと進んでいっていると、自分が何十人もいるクラスの中の一人でもなく、六人家族の一人でもない、たった一人だけの主役のような気持ちになれるのです。


 気を付けていましたが、もしかしたらペースを上げてしまったのかもしれません。体が段々と疲れてきます。


 それでも、リンちゃんはまっすぐ前を見ます。


 あともう少し、あともう少し。


 校庭が見えてきました。


 ぴんと張ったゴールテープもぎりぎり見えます。


 リンちゃんは走ります。


 走って、走って、走って。


 強風が、吹いてきました。


「っ!」


 目にゴミが入ってきて、リンちゃんはぎゅっと目を閉じました。


 そのせいで、反応が遅れました。


 足元に何かがまとわりつきました。それが何かわからぬまま、リンちゃんは走る行きイオのまま足を滑らせます。


 裏道は山の斜面にそっています。


 一応、柵はありますが、リンちゃんの身体はまだ小さく、柵をすりぬけてしあいました。


「道ノ崎さん!」


 体育の先生の、悲鳴のような声が聞こえてきました。


 けれど、鈍い痛みに頭がいっぱいで、何も答えることができませんでした。


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