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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
6章 闘技場、アンプヒビアンズ!―ミラクルランドは、奇跡の世界!―
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12 第一回戦、終了! オタクの喧嘩は犬も逃げる

「……ふぇ?」


 劉生君はパチリと瞬きをして、不思議そうに少年を眺めます。


「……君は誰?」

「……へ?」

「戦いは? どうなったの? って、みつる君!? 咲音ちゃん!? どうしたの!?」

「記憶がないのか……?」


 自分が倒した旨を伝えると、劉生君はなんとも複雑そうに、どちらかというとむっとしつつ、「そうなんだ」といいます。


 ちまちまと咲音ちゃんみつる君を介抱する劉生君を、少年はじっと眺めます。


 劉生君には、先ほどのような暴力的な空気を感じられません。よくよく観察してみると、眼の色も黒色に戻っています。


「……お前、一体何者だ?」


 尋ねると、劉生君は不服そうに答えます。


「僕は赤野劉生だけど……」

「……そ、そうか」


 そういうことを聞きたかったわけではありませんでしたが、名乗られたからには、こちらも名乗るのが礼儀でしょう。


 男の子も自己紹介をします。


「俺の名前は高橋幸路。よろしくな」

「幸路君? もしかして、橙花ちゃんのお友達さん?」

「橙花……。ああ、蒼のことか! 蒼の知り合いなのか?」

「友達だよ! ほら、あそこにいるよ」

「本当だ。おーい、蒼ー!」


 幸路君はぶんぶんと手を振ります。


 ちょうどその時に、リンちゃんと吉人君が来てくれました。吉人君は倒れている二人にびっくりし、すぐに回復してくれました。


 みつる君と咲音ちゃんは目をこすり、上体を起こします。


「ん……。あれ、俺、倒れちゃったのか」

「うう……。やっぱり、疲れをしっかりとってから戦うべきでしたねえ……」


 二人は残念そうに言葉を交わして、続けて幸路君と目が合いました。


 劉生君は嫌な予感がしました。


 試合とは言え、幸路君は、咲音ちゃんとみつる君をこっぱみじんに倒してしまいました。いわば敵です。わだかまりがないとは言い切れません。


 もしかしたら、この場で再戦をはじめてしまうかもしれません。


 そうだったら、劉生君はみつる君たちの味方をするでしょう。しかし、幸路君は橙花ちゃんの友達です。傷つけてしまったら、今度は橙花ちゃんが悲しんでしまうことでしょう。


 それは嫌だけど、でも……。


 劉生君は一人うんうんと悩んでしまいます。


 しかし、どうやら劉生君の不安は杞憂に終わりました。


 みつる君と咲音ちゃんは柔らかい笑みをもらし、手を刺し伸ばしたのです。


「すごく強いんだね、君!」

「わたくしとみつるさんが協力していましたのに、手も足も出ませんでした」


 二人が差し出した手を、幸路君は照れくさそうに握りしめます。


「いやいや、結構強かったぞ。負けそうだなって思ったのも一度や二度じゃねえし。いやー、一対一で戦ってみたかったなあ」


 案外和やかな雰囲気です。


 あっけにとられていると、いつの間にかそばにいたリンちゃんが腕組みをしてゆっくりと頷いていました


「勝った側も、負けた側も相手を尊敬して礼を述べる。これぞ、スポーツマンシップね!」

「スポーツマンシップ……?」

「あら、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』にはそういう描写ないの? ありそうなのに」

「う……。あんまりないかもしれない……」


 『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』に出てくる敵は、みんながみんな姑息で卑怯です。ほとんどの話は、勧善懲悪、敵を倒して大団円で終わりますので、敵に配慮するなどなどの話はあまりありません。


 そういうところも『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の良いところかもしれません。が、しかし、リンちゃんに指定されたのがどうも批判されたような気がしたのでしょう。劉生君はむっと頬をふくらませます。


「で、でも、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』はいいところもたくさんあるから……!」

「え? ああ、うん。そう」


 リンちゃんは小首をかしげながら、適当に頷きます。


 それでも劉生君は満面の笑みになります。


「だよね! いっぱいいいとこあるもんね!!」


 単純な劉生君に、他の子は微笑ましいような、どことなく呆れたような視線を送ります。


 しかし、幸路君は違いました。


 片眉をあげて、不機嫌そうになります。


「劉生は『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のファンなのか。……まあ、別に悪くはないけど、『仮面恐竜キョウスケ』の方が断然ためになるから、今後はそっちを見ればいいんじゃないか」

「『仮面恐竜キョウスケ』……! もしかして、幸路君は『『仮面恐竜キョウスケ』のファンなの?」

「その通り」


 幸路君はえっへんと胸を張ります。


「『仮面恐竜キョウスケ』はな、知れば知るほど深みにはまる、まさに沼みたいな魅力があるぞ。世界観も深いし、人間関係も複雑! あれはもうアニメってレベルじゃねえ。人生だ!」


 目を爛々と輝かせて、語り始めました。


 リンちゃんと吉人君はそっと目を合わせます。


 二人は心の中で、こう会話しました。


 ――この人、リューリューと同じノリだわ。


 ――話始めると、止まらないタイプですね。


 ――黙って頷いてるのが吉ね。


 ――お世辞を適当に言ってもいいかもしれませんよ。


 ――あー、リューリューも黙ってるだけだったら、若干機嫌悪くなるからなあ。その方がいいかも。


 さっそく二人はせっせと合いの手を入れます。


「へえ」やら「そうなんだ」「すごいね!」などなど、見え見えのお世辞を何度も繰り返しますが、本人は察する気配もありません。嬉しそうに『仮面恐竜キョウスケ』の良いところを有頂天で語ります。


「特に57話のラスボス過去話は最高だった! あれじゃ闇落ちしても仕方ない!」

「へー」「ほー」

「その次の話は休みだったから、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』を見てみたけど、あれはちょっと子供向けだな!」

「ふーん」「すごいすごいー」


 なんて会話をしていると、突然、劉生君が怒り始めました。


「幸路君の言ってることは間違ってるよ! ねえ、リンちゃん、吉人君!!」

「え?」「ん?」


 二人は適当に相槌を打っていただけですので、幸路君がさっき何を言ったのか全く記憶していませんでした。


 思わず固まる二人でしたが、劉生君が「『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』は大人も楽しめる」「僕のお母さんも面白いって言ってた」などなどの発言から、どうにかこうにか前後関係を理解できました。


「あー、まあまあリューリュー。落ちついて」

「そうですよ。せっかく戦いも終わったことですし、一旦休みましょう」


 二人は説得しますが、劉生君は聞く耳を持ちません。憤慨して幸路君を睨んでいます。


「そんなこといったら、『仮面恐竜キョウスケ』は小難しくて訳が分からないってネットで叩かれてたじゃん!」

「なっ!」


 幸路君は口をぱくぱくさせます。(みつる君は「赤野っちって、ネットの評価とかチェックするんだ」と呟きます)


 劉生君の怒りの咆哮はまだ続きます。


「それに、『仮面恐竜キョウスケ』はストーリーがすごいってよく聞くけど、結局はご都合主義だよね! 黒幕さんが改心するときだって、急に黒幕の妹が出てきて、よく分からないまま丸く収まってたじゃん!」

「なぬ!?」


 幸路君は怒りで顔を真っ赤にさせます。(咲音ちゃんは、「劉生さん、『仮面恐竜キョウスケ』を見てはいるんですね」と苦笑します)


 幸路君の反応に満足したのか、劉生君は満足感に浸って息をつきます。


 その隙を、戦士たる幸路君は見逃しませんでした。


 目の色を変え、反撃を仕掛けてきました。


「ご都合主義云々はそっちの方がひどいだろ! 『仮面恐竜キョウスケ』はごくまれ! そっちは毎回!」

「なっ! そ、そんなことは、」

「あるね! すっげー強敵が出たと思ったら、『なんと主人公に隠された力が!』っつって、敵を倒す流れ! 毎回それ! 月に一度は見る!」


 リンちゃん、思わず「確かに」と本音を漏らしてしまいます。


 素直な声だからこそ、幸路君はドヤ顔をします。


「ほらみろー! この子もそういってるー!!」

「ぐぬぬ……! そ、そんなこといって、『仮面恐竜キョウスケ』だって!!!」

「いやいや、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』だって!!」

「わあわあわあ!!」「ぎゃーぎゃー!!」


 二人はひどく言い争います。話せば話すほどヒートアップしていきます。


 周りの両生類たちも何事かと言わんばかりに注目していますし、アナウンサーも『えっと、そろそろ退場してください』と控えめに止めようとしています。


 けれど、二人は止まりません。


 あまりの止まらなさに、咲音ちゃんはアワアワとします。


「ど、どうしましょう! り、リンさん! お二人を止めてください!」

「う……。わかった。頑張ってみる! こらー、二人ともー!」


 リンちゃんは強引に劉生君を引っ張ります。


「一旦落ち着きなさい! 他の魔物たちが迷惑してるでしょ!」

「でもっ……!」


 まだ言い足りないことがあると暴れます。


 幸路君はふんっと鼻を鳴らします。


「へん! 男らしくねえな。『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のファンはこれだから……」

「なんだって! 『仮面恐竜キョウスケ』のファンだって、性格悪い人ばっかじゃん!!」

「はあ!!?? んなわけねえよ!!」


 喧嘩が再開してしまいました。


 罵り貶しあい、またもや大声で怒りをぶちまけていると……。


「……ええい! いい加減に、しなさい!!!!!」


 リンちゃんの雷が落ちました。


 物理的に、落ちました。


「うぎゃあ!?」「わあ!?」


 さすが力の強い二人です。たいしてダメージは食らいませんでしたが、二人はびっくりして口を閉ざします。


「悪口言わない!! 小学校一年生ならともかく、あんたたち違うでしょ!?」

「うっ……」「でも……」

「でもじゃない!!!」

「「……はい……」」


 二人はしゅんっとして、正座をします。申し訳なさそうに身を縮ませ、若干涙目になってしまっています。


 吉人君は、「まるで、ご主人様に怒られた犬みたいだなあ」と思いました。一度そう思いついてしまうと、二人の耳と尻尾が悲しそうに下がっている図を思い浮かべてしまいました。


「……」


 吉人君は笑いをこらえて、そっぽを向きます。


 そんなことは知らないご主人様ポジション、リンちゃんは、劉生君と幸路君をぎろりと睨みます。


「わかったら、二人とも解散!」

「「……はい……」」


 劉生君はみつる君たちの方にこそこそと近づき、幸路君はよろよろと退出して行きました。


 リンちゃんはプンプンしながらため息をつきます。


「全く二人とも、こんな場所であんな喧嘩をするなんて! TOPをわきまえてほしいわ!」


 吉人君とみつる君は、「それはTPOではないか」「TPOだとトップではない」と突っ込みたかったですが、そんなことをできる空気ではありません。黙ってしまいました。


 ちなみに、咲音ちゃんはいつものごとく、のほほんとしながら、「それは違いますよ」と指摘しようとしました。


 ですがその前に、咲音ちゃんは「あれ、蒼さん?」と驚きの声をあげます。


「観客席から降りてきたんですね」

「まあ、うん。すごい喧嘩だったからね……」


 橙花ちゃんは幸路君がいなくなった方をちらちらと見ます。


「幸路君にフォロー入れてきたいけど、その前にみんなは帰らないとだよね。君たちの世界につながる道を作るね」

「「あ、お願いします」」


 みつる君と吉人君は間髪いれずに、うなずきました。


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