11 アンプヒビアンズの戦士、幸路君!
無事、一匹の魔物を倒した劉生君! よかったよかった、と一息つきます。 けれど、ここは戦地。休む暇はありません。
気が緩んだ劉生君に、大勢の魔物が押し寄せてきます。
「わわわっ、えーっと、それなら、<ファイアースプラッシュ>!!」
火の粉をまき、魔物たちを遠ざけます。弱い魔物は怯えて近づいてこなくなりましたが、屈強な魔物は果敢に挑んできました。
けれど、どの魔物もお互い協力して戦ったりはしません。一匹が単独で攻撃を仕掛けている間に、別の敵が割って入る。ついには敵同士で喧嘩をする有様です。
それが、劉生君にとって功を奏しました。一匹一匹、慎重に<ファイアーバーニング>で葬れます。
「よし、これなら勝てるかも!」
劉生君はるんるんです。
余裕が出てきましたので、吉人君たちはどこにいるのかと、周囲を見渡しました。
吉人君は見当たりませんでしたが、かわりに、みつる君と咲音ちゃんの後ろ姿を見つけました。
劉生君は、戦闘中の魔物たちの間を掻い潜り(時には魔物を凪ぎ払い)、二人に近づきます。
「おーい!みつる君!咲音ちゃん!」
劉生君の声が届いたのでしょう。二人はこちらを振り返ろうと体をねじり、
そのまま、地面に倒れました。
「……え?ど、どうしたの!?」
呼び掛けに応じてくれません。さらに近づくと、二人が気絶していることが分かりました。
体は傷だらけで、血がにじんでいます。
揺さぶっても、呻き声をもらすだけで、おきてはくれません。
「そんな……!」
悲痛な叫びをあげる劉生君の前に、ある少年が立っていました。
「お前、その二人の知り合いか?」
灰色の髪を一つに束ねていますが、男の子のようです。ひょろりと背が高く、手には、先端がフォークのように三つに分かれた槍を持っています。
少年は愉快そうにニヤリと笑います。
「なかなか骨のあるやつらだったが、俺の敵じゃないな!ふっふっふ、なんだって、俺はサイキョーだからな!」
自信満々に、槍を構えます。
「どうする?友達の敵討ちでもするか?俺は別に構わないが、痛い目に合いたくなかったら、ちゃっちゃと棄権するんだなってうお!」
男の子は転がるように避けます。劉生君が『ドラゴンソード』を振り上げたのです。
「ちょっ!おまっ!話し中になんだよ!」
「……」
劉生君は一言も発しません。しかし、その瞳は赤く、獰猛な光を帯びています。
少年は楽しげな雰囲気をかき消し、眉間にシワを寄せます。
「……お前、魔物か?」
「……みつる君と咲音ちゃんに、こんなひどいことを……!」
「ひどいことって言われても、ここは戦場だぞ?参加するなら、多少傷ついても仕方ねえ……うわ!?」
問答無用で切りかかってきました。
「……こんのっ!」
三叉槍で弾き、劉生君を睨みます。
「お前、正気じゃないな」
劉生君は、否定しませんでした。
……単に、劉生君の耳に届いていなかっただけかもしれませんが。
「どちらにせよ、ぶっ倒すまで!」
がるると唸りながら、少年は槍を構えます、が。
『試合終了ー!』
ピーっと笛の音が鳴りました。