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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
6章 闘技場、アンプヒビアンズ!―ミラクルランドは、奇跡の世界!―
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9 異世界の謎ドリンク! 飲みたくない、飲みたくない!

 嵐のような魔王との接触は一旦忘れ、スタジアムの中に入りました。


 入口の門をくぐると、開放感のあるホールでした。ホールの周りには、両生類や子供の銅像がずらりと並んでます。パネルを見てみると、『第105回優勝者』やら、『第241回優勝者』やらと書いてありました。


 受付らしき場所のすぐ後ろには、一番大きな銅像があります。


 こちらは、誰の銅像かすぐに分かりました。


 先ほどあった、魔王ザクロ・オオサンショウウオの像です。二足歩行で立ち、小さな手でピースサインをしています。他の銅像よりも何倍も大きいです。


 劉生君が大きいなあと眺めている間に、橙花ちゃんが受付をしてくれました。


 みんなの名字をすらすらと書き(劉生君の名前だけはこっそり吉人君に聞いてから書いて)、参加票を渡します。


 受付のヤモリはビジネススマイルを浮かべて受け取ります。


『第一回戦は間もなく開始されますので、ご準備ください』


「あら、もう戦うんですね」「うっ、思ったより早いなあ」


 咲音ちゃんとみつる君は狼狽え、戸惑っています。どうかしたのかと橙花ちゃんが訝しがると、吉人君が代わりに答えてくれました。


「僕たち、学校で持久走の練習をしてきたせいで、身体がヘロヘロなんです」

「あたしはまだまだいけるけどね!」「僕も! 僕も!」


 リンちゃんは誇らしげに胸をはり、劉生君はぴょんぴょん跳ねます。この二人はいつも通り元気ですが、吉人君咲音ちゃんみつる君の三名はいつもよりも動きが鈍く、顔も疲れていました。


「そうだったんだ。気づけなくてごめん……。次回の試合への参加に変更できるか聞いてみるよ」


 アンプヒビアンズでは、毎日のように試合が行われています。どの試合でも内容は同じで、最後まで勝ち抜くと魔王と戦う権利を得ることができます。


 ですので、今回を逃しても、また次回参加すれば魔王に挑戦できるのです。


 だがしかし、受付係ヤモリはふるふると首を横に振ります。


『大変申し訳ございません。規則199により、一度参加を表明してしまうと、撤回はできません』

「……そっか。なら仕方ないか」


 と、ここで吉人君が橙花ちゃんを制しました。


「僕たちは大丈夫ですから、杖を振り回して受付係さんを攻撃するのは止めてください」

「……え? ああ、うん、わかったけど、ボクが何をしようとしたかよく分かったね」

「まあ、それは……ねえ?」


 みんなは大きく頷きます。劉生君でさえ頷きます。

 

 橙花ちゃんのことを何も知らない子でしたら、「参加の辞退を諦めたのかな」と思うことでしょう。

 

 しかし、劉生君たちは橙花ちゃんと一緒に幾度も苦汁を飲まされ、何度も困難を乗り越えてきました。


 まぎれもない、橙花ちゃんは劉生君たちの友達なのです。


 ですので、橙花ちゃんが何を考え、何をしようとしているのかが手に取るように分かったのでした。

 

 橙花ちゃんは「そ、そう」と複雑そうな表情を浮かべます。


「なら、少しでも元気が出る飲み物をもらいに行こうか。こっちにおいで」


 案内されて訪れたのは、選手用の待合室でした。安楽椅子がずらりと並び、ひと眠りできる簡易的なベットも置いてあります。もうすぐ試合が始まるからか、くつろいでいる魔物や子供はわずかしかいません。


 壁際には、歴戦の優勝者のチラシが雑多に貼ってあります。なぜか指名手配犯風の紹介チラシです。


 角っこには、ファミレスであるようなドリンクサーバーが置いてありました。どうやら橙花ちゃんの目的はこちらだったようです。


 紙コップに並々とドリンクを入れ、笑顔で吉人君たち疲労組三人に渡しました。


「はい、どうぞ」

「「「……」」」


 三人は黙ってしまいました。


 固まる三人を不思議に思い、リンちゃんは飲み物をのぞき込んでみました。


「うわ! なにこれ! 黒い!? 生臭い!?」


 生魚の匂いとハッカの香りを混ぜて煮詰めたような香りです。


「大丈夫。匂いはあれだけど、味は想像よりは悪くないから。鼻を摘まんで、一気に流し込めば、たちまち元気になるよ!」

「「「……」」」


 橙花ちゃんの言葉は本当なのでしょう。


 良薬は口に苦し、なんてことわざもありますから、効き目はあることでしょう。


 しかし……。だからといって、これを飲むのは……。あまりにも……。


「お、俺はいいかな!」


 美食家みつる君はそっと橙花ちゃんに返します。


「なんだか元気でてきたし! 今なら1000メートルでも、10000メートルでも走れそう!」


 みつる君は力こぶを懸命に浮かべて、元気さをアピールします。


「わ、わたくしも!! 元気です!!」


 お嬢様な咲音ちゃんも、ぶんぶんと首を横に振り、飲み物を返しました。


 橙花ちゃんは残念そうにしながらも、受け取ります。


「それなら仕方ないかな……。吉人君はどうする?」

「……僕は……」


 本当は嫌でした。


 こんな得体のしれないものを口に近づけることさえ避けたいと願っていました。ましてや飲み込むなんてもってのほかです。


 ……それでも、吉人君は恐怖と嫌悪感を抑えていました。


 前のレプチレス・コーポレーションでは、吉人君はみんなのためになるような行動がとれませんでした。


 敵の術中にまんまとはまり橙花ちゃんを疑い、罠にかけられたときは何もすることもできませんでした。


 挙句の果てに、アンプヒビアンズの攻略も、吉人君の勉強の都合を優先してもらっています。


 橙花ちゃんや劉生君たちはそんなこと微塵も気にしていませんし、むしろ吉人君を心配してより一層配慮したいと思ってくれています。


 吉人君もそれは分かっていましたが、だからといって、何も感じないわけにはいきませんでした。


 ならば、アンプヒビアンズではもっと頑張らなくては。そう決意を胸にしていました。


 ですので、吉人君はぎゅっと目を閉じ鼻をつまむと、一気に飲み物を流し込みました。


「わあ! 飲んだ!」


 みんなが息をのんで吉人君を見守ります。


 ごくごくと喉を鳴らして飲んでいきます。


 全て飲み切ると、吉人君は呻き声をあげて、しゃがみこんでしまいました。


「……まずかった……。ですが、匂いがあれなだけで、思っていたよりはまずくありませんね……」

「でしょ? 癖になる味だよね!」

「その考えには賛同できませんね……」


 咲音ちゃんとみつる君は賛美を込めて軽く拍手をします。


「すごいですわ! 吉人さん!」「あれを飲めるなんて……。それで、元気はわいてきた?」

「……言われてみれば、疲れがみるみるうちに取れていきます」


 吉人君は手をぐーぱーしてみます。


 先ほどよりも動きが機敏になっている気がしますし、頭もすっきりしています。


「不思議な飲み物ですね。一体何が入っているんですか?」

 

 何気なく尋ねると、橙花ちゃんはすっと視線をそらしました。


「……もうすぐで試合も始まるから、スタンバイしにいこっか」

「え? ま、待ってください。何が入ってるんですか、何が入っているんですか!?」

「吉人君、世の中には知らない方がいいこともあるよ」

「怖いんですけど!?」


 一体何が入っていたのでしょうか。


 知りたいような知りたくないような気持のまま、劉生君たちはアンプヒビアンズ第一回戦に参加することとなりました。

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