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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
6章 闘技場、アンプヒビアンズ!―ミラクルランドは、奇跡の世界!―
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8 闘技場、アンプヒビアンズ! それと、魔王。

 ドラゴンを注意深く下ろし、子供たちは大地を踏みしめます。


 ドラゴンとはここでお別れ、青いチリとなって消えてしまいました。


 劉生君は、ひどく残念そうにしています。「帰りも乗りたかったな」と肩を下ろします。


 一方、劉生君以外の子達は、彼の荒い運転でまいっていたので、やっぱり自分の足でたってる方がいいと安堵し、もう二度と乗りたくないなと思いました。


 それはさておき、とうとう最後の魔王の根城までやって来ました。


 すぐ目の前には、テレビでしか見たことがない大きなスタジアムがあります。


 さすがの劉生君たちも、身が引き締まります。


 緊張感が漂うなか、みんなを導くのはやっぱり橙花ちゃんです。


「みんな、中に入ろうか。ここの魔王の性格からすると途中で襲われることはないだろうけど、一応武器だけはもっておい」

『あれ?蒼だ!』


 橙花ちゃんの注意喚起中に、一匹の魔物が笑顔でやってきました。


 つるりとした頭に、プニプニの肌、石と見間違える姿をしています。


 目はとても小さく、米粒ほどしかありません。


 咲音ちゃんは魔物に聞こえないくらい小さな声で囁きます。


「あの子はオオサンショウウオさんですよ。両生類さんです」


 普通のオオサンショウウオは地べたに這いつくばって進んでいますが、このオオサンショウウオは二本足で歩いています。


 赤黒いオーラをまとっていますので、敵であることには間違いありませんが、そう感じさせないほどの満面の笑みを向けています。


『久しぶりー!おや、この子達は友達かい?蒼が誰かを連れてくるなんて珍しいな』


 咲音ちゃん、みつる君、リンちゃん吉人君と、順々に眺めます。


 劉生君に視線を向けると、魔物は驚いたように目を見開きます。


『へえ!赤ノ君の魔力だ!』


 距離をつめ、頭のてっぺんから足先までうっとりとした目で観察してきます。


『ああ……。この暴力的な力……。全てを無に変えそうと願う力……。素晴らしいね……!』


 魔物はぬっと手を伸ばしてきました。思わず劉生君は後ずさるも、魔物は大きく一歩近づいてきました。


 魔物の目が怪しく光り、劉生君に詰め寄ります。


『なあ、君!ワレとお手合わせしないか?なに、気にすることはない。ほんの短い時間だけだ。なあ、よいだろ?』

「え、えっと、」


 あまりの勢いに、劉生君は困惑し、怖がってしまいました。涙目で橙花ちゃんに助けを求めます。


 橙花ちゃんはぎろりと魔物を睨むと、劉生君をかばうように前に出てきてくれました。


「これ以上、この子を困らせるなら、君をここで葬るけど、いいの? 」


『ここで戦うと?』


 オオサンショウウオは先程の笑顔とは打って代わり、不機嫌そうに橙花ちゃんを睨みます。


『蒼。忘れたのか?規則124、闘技場の外で戦闘行為をしてはならない。そうだろ?』

「そんなものに興味はない。ボクの目的はただひとつ。お前を倒す。そしたら、魔王は全員倒せるからね」


 みんなは驚いて、魔物を、いえ、魔王を見つめます。


 オオサンショウウオの魔王は、じっと橙花ちゃんを見つめ、首をかしげます


『なあ、蒼』

「なに?」

『魔王ってなに?』


 みんなずっこけます。


 思わずリンちゃんが突っ込みます。


「あんたのこと!あんたらのことよ!」

『……ワレらのこと?……誰と誰?』


 橙花ちゃんは頭を抱えながら答えます。


「……ギョエイさんとか、リオンさんたちのことだよ」

『……ああ!彼らのことか!倒したのか?へー!いいなあ!!』


 仲間が倒されたと初めて聞いたのに、魔王は怒りの感情もありません。むしろ羨ましそうです。


『どうだ?強かったか?誰が一番強かった?意外とギョエイが一番か?ワレもギョエイと戦いたくてな、闘技場に来るよう誘ってるんだが、いい返事をくれな』

「黙れ」


 橙花ちゃんは一刀両断します。


「お前も他の魔王と同じように葬ってやる。それだけだ」

『蒼は冷たいな。ワレは知ってるぞ。反抗期だろー?そうだろー?このこのっ!』

「みんな、さっさと中に入るよ」


 魔王を完璧にスルーして、みんなを促します。


 しかし、橙花ちゃんたち一行が先に進んでも、魔王はうろちょろと追いかけます。


『それで蒼は彼ら全員に勝ったんだよな?さすが蒼!時計塔の力もあるけど、蒼の願いが強いからってのもあるな!けど、ワレも負けないぞー!』

「みんなは闘技場に参加する?もし戦うのが苦手なら、応援するだけでいいからね」

『いやいや!全員参加してほしい!戦うのはいいことだぞ!うんうん!!』

「第一回戦はバトルロイヤルだから、怪我には気を付けてね」


 ここまでスルーされると、なんだか可愛そうになってきました。


 試しに咲音ちゃんが話しかけてみました。


「あのー。魔王さん?」

『ワレの名はザクロ・オオサンショウウオだ。ザクロと呼んでくれ』

「ザクロさん、えーっと、最近はまっている食べ物はありますか?」

『はまってる食べ物はないが、好きな戦闘スタイルならあるぞ。目隠しして戦うんだ。ドキドキするぞ。試してみてはどうだ』

「えっと、遠慮します……」

『そっかあ。それは残念だ』


 魔王は肩を下ろします。ショックを受けているようです。


 みつる君はこそっとみんなに囁きます。


「あのザクロって魔王、あまり魔王っぽくないよね」


 吉人君も軽く頷きます。


「他の魔王と比べる尾、かなり友好的ですね。しかし、聞いた話によると、アンプヒビアンズは魔王の中でも最強のはずですが……」

『そうだぞ!』


 魔王は子供たちの会話に割って入りました。


『ワレは最強だ。他の魔王に比べると何億倍も強いぞ!! すごいだろうー!』

「そういわれるとすごいって思えなくなるわよ」


 リンちゃんは厳しく突っ込みます。


 これが意外と効きました。


 魔王は眉を下げて、悲しげに唇をゆがめます。


『そっか……。言葉というものは難しいな……。本当はすごいのに、すごくないと思われるなんてな……』


 しょんぼりしてしまいました。


「……ほんと、この魔王は変な魔王ね」


 リンちゃんは呆れてしまいました。橙花ちゃんもついつい苦笑しています。


「攻撃力だけをみれば、魔王ザクロは他の魔王と比べるとずば抜けて強いよ。だから、最強の魔王って異名がある」

「……あれ?」咲音ちゃん首を傾げます。


「ですが、みおさんか友之助さんのどちらかが、魔王ザクロは最弱の魔王とおっしゃっていませんでしたっけ?」

「それも正しいんだ。魔王ザクロは最強の魔王であり、最弱の魔王でもある」


「……うん……?」


 橙花ちゃんは優しく解説してくれます。


「魔王ザクロは力こそ強いけど、頭は悪いんだ」


 話していることは優しくはありませんが。


「見え見えの罠にはまったり、どう考えても嘘なのに信じたり。つまり馬鹿ってこと」


 笑顔のままで、乱暴な物言いをしています。彼女の青い角も攻撃的にぴかぴかと輝いています。


 さすがの咲音ちゃんも、「そ、そうですか」とちょっぴり引いてしまっています。


「だから、魔王ザクロと戦う時は、少し汚い手を使った方がいいよ」


 橙花ちゃんは淡々と答えます。いつもの脳筋プレイでしょうが、若干怖いです。


 みんなが先ほどの咲音ちゃんみたいに引いていましたが、劉生君だけは違いました。眉間にしわを寄せて、唇をとんがらせています。


「でも……。やっぱり正々堂々と戦った方がいいよ」


 『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の登場人物たちは、どんな強い敵でも仲間と共に乗り越えていました。


 自分もああなりたいと願う劉生君は、どうしても汚い手を使うのに抵抗を感じてしまうのです。


 橙花ちゃんは目を細めて、劉生君の子供らしい思いを、……橙花ちゃんにとっては、甘い考えを拭わねばならないと、口を開きました。


 しかしその前に、魔王がきゃっきゃとはしゃいで拍手をします。


『素晴らしい! 赤ノ君の力を持っているだけでなく、戦士の教養も備わっているとは! ますます戦いたくなってきた!』


 ザクロは槍を手に取ると、興奮気味に振り回します。


「わわっ! 危ないよ!」


 劉生君はびっくりしてリンちゃんの背中に隠れます。


 女の子の背中にかけるなんて、どう考えても戦士らしくはありませんが、魔王は気にしないようです。ただひたすらに悔しそうに地団駄を踏みます。


『規則がなければ、今ここで戦いたかったぞ! だが、規則は守らねばならない!!』


 魔王は気持ちを押さえようと大きく深呼吸をします。


『……よし。少年少女たちよ! 今はこれでお別れ! 決戦の舞台で会おう!! さらばだ!』


 魔王は高笑いをして、走り去っていきました。


 みんなは茫然と魔王の後ろ姿を眺めます。


「……なんだったんだろう……?」


 みつる君のつぶやきに、橙花ちゃんを含むみんなは首を傾げました。

 

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