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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
6章 闘技場、アンプヒビアンズ!―ミラクルランドは、奇跡の世界!―
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6 劉生君のテンション、急上昇急下降!

 数日がたち、吉人君の都合もどうにかつけ(親御さんに「教師に手伝いを頼まれたから遅くなる」と言い訳することにしたそうです)、ミラクルランドへと向かうことができました。


 ですので、五人の子供たちは公園への道のりを歩いていました。


 本格的に魔王と戦えるのです。みんなウキウキワクワクしていそうですが……。


「……はあ」


 劉生君はため息をついて、沈んでいました。


 誰に聞かれるわけでもなく、劉生君はぶつぶつ呟きます。


「僕はどうすればいいんだろう。ああ、これは一世一代の大問題だよ。ああ、いい、うう、ええ、おお……」


 謎の言葉を呟いています。


 劉生君だけではありません。吉人君、みつる君、それから咲音ちゃんも元気がありません。リンちゃん一人だけは元気そうにみんなを先導しています。


「リューリューも他の子も、切り替えて魔王退治よ!」


 みつる君は顔こそあげますが、うつろな目をしています。


「切り替えるっていっても、赤野っち以外の俺たちは精神的なものではないから、簡単に気分変えられないよ」


 劉生君はムッとします。


「僕だってそうだよ! ショックあんどショックだよ!」


 それでは、読者の皆様になぜリンちゃん以外が疲れ切っているか、ご説明しましょう。


 みつる君含む四人が疲れている理由、それは、持久走大会の練習で疲れきっているからです。


 持久走大会もあと一週間後に控えていましたので、練習も本格的になっていました。永遠と走り込まねばなりませんので、みつる君たちは疲弊しています。


 そして、劉生君が疲れている理由は……。


「僕の嫌いなアニメ、『仮面恐竜キョウスケ』と、僕の大好きな『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のタイアップ映画が決まったんだ! 僕はどうすればいいんだ! 見に行けばいいのか、それとも見に行かざるべきか! でも、すごく面白そうな作品になりそうなんだよ!!」

「リューリュー以外は大変そうねえ」


 憤り悲しむ劉生君を放置し、リンちゃんはテンション高めで軽くジャンプします。


「あたしはまだまだ走れるから、みんなの分まで頑張るわよ! リューリューもやる気だして、頑張ろ!」

「……おー」


 劉生君は力なく腕をあげました。


〇〇〇


 ミラクルランドの空には、五つの光の点が瞬いています。


 一つは魔王の光、赤い光です。それ以外の四つは、子供たちの光、橙花ちゃんの光、青い光です。


 あともう少しで、すべての光が青となり、魔王の脅威から逃れられます。


 その事実に気付いた劉生君、やる気が爆上がりしました。


「よーし!! がんばるぞ!!!」

「わ、リューリュー、急に大声出さないでよ」


 リンちゃんに文句を言われつつ、勢いそのままで、橙花ちゃんを見つけて駈け寄ります。


「橙花ちゃん! 来たよー!」

「ああ、劉生君にみんな! 来てくれてありがとう」

「いこいこ! どっちにある? あっち?」


 適当な方向を指さします。


「あ、うんうん。そうだね、あっちだよ」

「ええ! 当たっちゃった! ぼく、最近運がいいなあ。ついてるかも!」

「ふふ、おめでとう」

 

 橙花ちゃんは優しく微笑みます。さすが橙花ちゃん。大人のお姉さんみたいな、包み込むような笑みです。劉生君はやっぱり素直に喜びます。

 

「ありがとう! それで、今回はどうやっていくの?」


 久しぶりにフルーツバスでもいいかもしれません。ジュースを飲みながらぼんやり座っている目的地に到着してくれますので、かなり快適に向かうことができます。


 折り紙の馬に乗って、野をかけるのも悪くありません。池に落ちるのは勘弁ですが……。


 それとも、空飛ぶ雲? ふわふわの雲に乗って空をかけるのも結構楽しかったので、それでもいいかもしれません。


 徒歩はやめておいた方がいい気がします。おさんぽは大好きですが、ほかのみんなは持久走大会の練習で疲れています。これから戦闘しなければならないのなら、体力は温存したほうが良いかもしれません。


 わくわくしながら橙花ちゃんの返事を待ちます。


「えっと、今回は……。どうしようかな」


 実は橙花ちゃん、移動手段をどうするかは何も考えていませんでした。アンプヒビアンズはムラから遠くもなく、近くもありません。ですので適当に雲か何かで行こうかなあと思っていました。


 どうせただの移動です。それ以下でもそれ以上でもないし、なんでもいいだろうと、橙花ちゃんは考えていました。


 ですが、意外にも劉生君は期待に満ちあふれた目を向けてくれています。


 橙花ちゃんはいい子ですので、期待には応えなくてはと焦ります。劉生君が喜ぶ移動手段、劉生君が喜ぶ移動手段と、橙花ちゃんは一生懸命頭を回転させます。


「そ、そうだ! こういうのはどう?」


 葉っぱを摘まんで、ひょいと杖を振ります。


 葉っぱは青い光につつまれると、どんどん大きくなり、葉っぱではない、ある生物の姿になりました。


 ワニのような尻尾に、ルビーのウロコ、コウモリのような巨大な翼は辺りに風を吹き起こし、ぎょろりとした目で劉生君たちを見つめます。


 みつる君はぽかんと口を開けます。


「な、なにこれ……?」


 咲音ちゃんは首を傾げています。


「動物図鑑には乗っていない子ですねえ」


 それもそうでしょう。劉生君たちの世界には絶対に存在しません。


 物語や神話の中でしかいない生物です。


 劉生君は、歓喜の声をあげます。


「わあ!!!! ドラゴン!! ドラゴンだ!!!!」


 橙花ちゃんはおそるおそる尋ねます。


「どうかな?」

「すっごくかっこいい!! かっこいい!! 僕、ドラゴン大好きなんだよ!!」


 劉生君が愛して止まない作品、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』にも『ドラゴン』が入っていますね。


 それに、劉生君の名前の中にも、『リュウ』の字が入っています。


 それもあって、劉生君はドラゴンが大々大好きなのです。蒼井陽さんの次に好きです。

 

「乗っていいの? 乗っていいんだよね!!」

「うん、いいよ」

「わーい! 僕が一番乗りね!!」


 ダッシュで駆け出し、劉生君はドラゴンによじ登ります。ドラゴンはごつごつすべすべしたウロコを持っていますので、普通に考えると手が滑って登れないはずです。


 けれども、劉生君はひょいひょいと身軽に上がっていき、いとも簡単にドラゴンにまたがります。


「僕、ドラゴンの背中に乗っちゃった! 誰か写真撮って写真!!」


 優しいみつる君は、念のために橙花ちゃんに「カメラってこの世界にあるの?」と質問してくれました。


「出せないことはないけど、君たちの世界には持って帰れないよ」

「あ、そうなんだ。赤野っちー! カメラは出せるけど、写真は持って帰れないってー! どうするー!」

「え……! どうしよう……! ちょっと悩むー! 橙花ちゃんー! 何かいい方法ないー??」

「えっと……」


 真面目に考え始める橙花ちゃんを、リンちゃんが苦笑しながら制します。


「リューリューの我儘に付き合わなくてもいいわよ。単に興奮してるだけだから」


 今度ははしゃぐ劉生君を宥めます。


「写真は撮れなさそうだから、思い出に残るような乗りっぷりをしましょ!」

「そっかー。うん! そうする!」


 さすが、劉生君の幼馴染です。


 こうと決まったら頑として動かない劉生君ですが、リンちゃんの言葉には素直に従いました。


 もう今の劉生君は写真のことも忘れて、どうやって飛んで行こうかと考えています。


「えへへ、早く飛びたいなあ。みんな! 早くおいでよ! 僕が飛ばすからさ!」

「大丈夫なのかねえ」


 リンちゃんは笑顔で肩をすくめました。


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