2 リアルって大変ね! 遊びと勉強、メリハリつけて?
集会が終わると、生徒たちは晴れやかな表情で各々の教室に戻ります。
人垣をせっせとかきわけて、劉生君は咲音ちゃんみつる君ペアを見つけました。急いで駆けていき、二人に声をかけます。
「咲音ちゃん!みつる君!あけましておめでとー!」
二人は他クラスですので、今年会うのははじめてです。
みつる君はいつもの笑顔で、咲音ちゃんは礼儀正しく返事をします。
挨拶もそこそこに、劉生君は本題を切り出します。
「二人とも二人とも!今度はいつミラクルランドに行く?」
けれど、二人とも表情を曇らせます。
「あー、俺はちょっと……。新年は店の手伝いで忙しそうなんだ……」
「わたくしも、習い事が立て続けでして……」
劉生君は、がっくしと項垂れます。
「そっかあ。みんな忙しいんだね……」
習い事を一つもしていない劉生君とは大違いです。
みつる君は申し訳なさそうに眉を八の字にします。
「ごめんね。冬休みも俺のせいでミラクルランドに行けなかったのに……」
「そんなことないよ!」
ふるふると首を横に振ります。
「冬休みはみんな忙しかったもん。みつる君のせいじゃないよ」
本当なら、レプチレス・コーポレーションを攻略してすぐに、最後の魔王に挑むつもりでした。
しかし、テスト週間がはじまり、冬休みに入ると、家の手伝いやら習い事やらでみんな忙しくなってしまいました。
親の目を盗んで夜にミラクルランドに行く案もありしたが、眠り病のこともあり、なかなかうまくいかず、結局は冬休み中に一度もあちらにいけませんでした。
「みつる君のお家は年末年始はすっごく忙しくて、咲音ちゃんも習い事の発表会があったんだもんね?仕方ないよ!」
劉生君は、屈託なく笑います。
「それなら、あとでミラクルランドに行く曜日を決めようね!」
「ええ!そうですね!」「そうしようか!」
下駄箱の前で二人と別れ、リンちゃん吉人君の二人を探します。
「あ、いたいた。おーい二人とも!」
二人は劉生君の姿に気づき、足を止めます。
「リューリュー、どこ行ってたの?先生に呼び出された?」
「ううん。みつる君と咲音ちゃんとお話ししてたの!」
「へえ、なんの話?」
「ミラクルランドにいつ行けそう?って話!二人はいつ行けそう?」
「あー。あたしはいつでもいいけど……」
ちらりと吉人君をうかがいます。
吉人君は疲れたようにため息をつきます。
「僕は難しいですね……」
劉生君はハッと息をのみます。
「もしかして、吉人君のお父さんお母さんはまだ怒ってるの?」
「……」
こくりと頷きます。
吉人君が彼の親に怒られた理由。
それは、前にミラクルランドから帰ってくるのが遅くなってしまったことにありました。
そもそも、吉人君の親御さんたちは、最低限の勉強しかせず、遊びにいっている吉人君に不満を抱いていました。
それでも、気分転換も必要だろうと、しばらくはそっとしてくれました。
けれども、吉人君の成績がだんだんと下がっていくにつれ、親御さんの考えがゆらゆらと揺らぎ始めました。(下がってるとはいっても微々たるものですが、吉人君の親は大変気にしているのです)
ミラクルランドに長く居すぎて、帰るのが遅くなった日、とうとう吉人君の親は説教を始めました。
いわく、遊んでばかりいるから成績が悪いのではないか。
いわく、塾の勉強をないがしろにしているのではないか。
結局、「冬休みは真面目に勉強すべし」との方針で、びっしり冬期講習に取り組むことになったのです。
冬休みにミラクルランドへ行かなかった理由は、実をいうと李火君の都合がつかなかったのが一番にありました。
みつる君も咲音ちゃんも忙しかったのは事実ですが、二人はまだ余裕があり、一・二度はミラクルランドに行ける機会がありました。
けれとも、吉人君だけはどう頑張っても時間がとれませんでした。
吉人君は「自分以外で行ってもいいから」と言ってくれましたが、だからといって吉人君を置いてはいけません。
そこで、冬休みはミラクルランドもお休みすることにしたのです。
休みも明ければ、吉人君の親御さんも優しくなっていると決めつけていた劉生君でしたが、まだまだお怒りのようです。
吉人君は俯いて、服の裾をぎゅっと握ります。
「……やはり、僕のことは気にしないで、皆さんで行ってください。僕はこちらで応援していますよ」
「そんなわけにはいかないわよ」
リンちゃんはきっぱりと否定します。
「吉人君にリューリュー、ミッツン・サッちゃんに蒼ちゃん、みんなが揃ってなきゃ嫌だもん。だから、あまり気にしないで」
「……ありがとうございます」
かすかに笑っていますが、どことなく陰があります。
リンちゃんと劉生君は顔を見合わせます。二人とも吉人君をどうにかして元気づけたいと思っていましたが、どう声をかければいいのか分からなかったのです。
結局、「蒼ちゃんに相談すれば、なんとかなるかもね」と希望的観測を口にして、その場をしめざるをえませんでした。