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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
5章 商売の国、レプチレス・コーポレーション!―君を信じたいから―
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33 疑い、晴らされました!  

 それから、反抗してくる爬虫類を軽く一掃しながら、レプチレス・コーポレーションに閉じ込められた子供たちを解放していきます。


 全てを終え、劉生君たちはムラに帰ることとしました。道すがら、咲音君は気持ちよさそうに伸びをします。


「んー! やっぱり、太陽の下は気持ちいいですねえ。ですけど、あの暗いレプチレス・コーポレーションの方が居心地が良い方もいらっしゃるんですね」


 子供たちを開放する際、借金地獄から救われて喜ぶ子もたくさんいましたが、ムラに帰るのを拒む子もいました。


 強引に子供を閉じ込めない、レプチレス・コーポレーションの方針のためでしょう。


 それでも、ここに残ってはいけないと橙花ちゃんが懸命に説得して、どうにかムラに付いてきてくれました。


 劉生君は嬉しそうにニコニコします。


「ともかく、魔王が倒せてよかったよかった! これで万事解決だね! ムラに行ったら、友之助君たちに会いにいこー!」


 楽観的な劉生君に、吉人君は待ったをかけます。


「待ってください。その前に、蒼さんに聞かなくては言えないことがあったはずですよ」

「ふぇ? ……そうだっけ……?」

「そうですよ」


 吉人君は立ち止まり、真剣なまなざしで橙花ちゃんを見つめます。


「いくつか、お聞きしたいことがあります」


 橙花ちゃんも、彼の真面目な空気に何かを察したのか、ぴたりと足を止めます。


「……どうかしたの?」

「まず一つ。あの時計のことです」


 ここからでも見える、ムラの時計塔を指さします。


「あの時計は、レプチレス・コーポレーションの時計で間違いないですか」

「あー、うん、そうだね。昔、レプチレスに貸してもらたんだ」

「……え? 貸してもらった? 奪ったのではなく?」

「あんなに大きくなっちゃったから、どう頑張っても返せなくて、借りっぱなしになってるんだ。……あまり褒めた行動じゃないけどね」


 橙花ちゃんは後ろめたそうにため息をつきます。


「……そ、それなら、あの時計塔が時間を止めてる件について、どうして僕たちに言ってくれなかったんですか」

「あの時計塔が? 時間を止めてる?」


 橙花ちゃんは小首を傾げます。


「今でこそ大きいけど、あれはもともと普通の時計だよ。そんな力はないよ。魔神が止めたに違いないよ」

「いや、ですがその……。レプチレスの魔王がそう言っていたんです」

「そんなことを言っていたの?」


 橙花ちゃんは眉間にしわを寄せて腕組みをします。


「レプチレスは比較的嘘つきだけど、それだけは信ぴょう性がありそうだね。そっか。あの時計にそんな力が……」

「……」


 吉人君はみんなと顔を見合わせます。橙花ちゃんがウソをついているようには見えません。それならばと、吉人君は最後の疑惑に切り込みます。


「それでは、トリドリツリーの魔王をどう倒したのかをお聞きしてもよろしいですか」

「……」


 橙花ちゃんは言葉を詰めらせます。


「……レプチレスから聞いたんだね。……ごめん、劉生君」

「う、ううん。僕は、その、橙花ちゃんを信じてるから! 橙花ちゃんも、しょうがなくやったんだもんね」

「……だけど、君の体を傷つけてしまった。いくら劉生君が魔神に乗っ取られていたからって、していいことと駄目なことは」

「……えっ?」

「……えっ?」


 橙花ちゃんと劉生君はお互いぽかんとしています。


 劉生君は、恐る恐る尋ねます。


「えーっと……。僕が魔神に乗っ取られてたの?」

「そうだけど、レプチレス魔王からそう聞いたんだよね?」

「ううん。違うこといってたよ」


レプチレスは、魔神のまの字も出しませんでした。


どっちが本当のことを言っているのか、どちらを信じるかの勝負では、橙花ちゃんの方に軍配が上がります。


それに加え、劉生君はある心当たりがありました。


「そういえば、僕がトリドリツリーの最上階で気絶しちゃってたとき、変な夢を見たんだ」


赤黒い姿の男の人が、劉生君に「片付けをしろ」と強要する夢です。


「その赤黒い人ね、一度見たことがあるんだ。最初にミラクルランドに来るとき、エレベーターの姿見に映ってたの」


吉人君は「そんなもの見たっけ?」と首をかしげます。


「リンちゃんと吉人君は見てなかったけど、僕は見たんだ。すごく怖かったの。鏡のなかから手が出てきてね、僕を捕まえようとしたの」


その時の怖い思い出が蘇ったのか、劉生君はふるりと身震いします。


「片付けしてるときはいい人そうだったけど、あのときは怖かったの。もしかして、その人が魔神さんなのかな」


橙花ちゃんは慎重に頷きます。


「たぶん、そうだと思う。劉生君がミラクルランドに行くときに、とり憑いたんだと思う」


と、ここでリンちゃんが焦りを滲ませて尋ねます。


「そ、それなら、リューリューのなかにはまだ魔神がいるってこと!?」


返事を待たず、リンちゃんはペタペタと劉生君の体を触ります。


「リンちゃんやめてよ。くすぐったいよ。僕はなんともないからさ」


劉生君は無邪気に体をくねらせます。乗っ取られてる悲壮感は一切感じられません。 けれど、リンちゃんは心配でしかたありません。


「ねえ、蒼ちゃん。リューリューから魔神を取り出す方法はないの?」

「……今のところ、方法は思い付かないんだ。ごめん」

「蒼ちゃんは悪くないわよ。魔神が悪い!さっさと引っ張り出して、目にもの見せたいわ」


リンちゃんの目は、怒りでメラメラと燃え盛っています。


橙花ちゃんも深く頷きます。


「ボクも、劉生君から魔神を解放する方法を探してみるよ。それまでは、劉生君が乗っ取られないように見張ってくれるかな」


リンちゃんは「もちろん!」と即答します。


みつる君だって、咲音ちゃんだって、大きく頷きます。


「うん、わかった。もし赤野っちじゃないなあって思ったら、激辛スープを飲ませることにするね」

「わたくしは、スカンクさんの力を借りて臭い匂いをお見舞いします!」

「……」


劉生君は、絶対に魔神に乗っ取られてはいけないなと、強く決意しました。


「……あの、蒼さん」


 吉人君が身体を縮めています。


「……疑ってすみません。僕、魔王の策略に乗ってしまって、あなたを疑ってしまいました」

「ううん、吉人君は悪くないよ。悪いのはちゃんと説明できなかったボクだから」


 橙花ちゃんは気にしてはいません。けれど、吉人君はひどく落ち込んでしまっています。李火君はちらりと吉人君を見ると、大げさに肩をすくねます。


「そうそう。彼は悪くないよ。悪いのはそこの自己犠牲秘密主義ウーマンのせいだからね」

「……否定できないのがむかつく」


 橙花ちゃんは拳を握り締め、肩を震わせます。橙花ちゃんらしくない姿に、ついついみんな笑ってしまいます。


 李火君も小さく笑います。けれど、その表情はどこか冷え切っていました。

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