30 大パニック! かーらーのー、ぶっとばし!
ブラキオサウルスは長い首を洞窟につっこみます。頭の先っぽが水に浸かっていますが、特に何も影響がないようです。むしろ喜んでごくごく飲んでいます。
吉人君はぽかんと口を開いています。
「何がどうして、……恐竜がここに?」
李火君はぱちりとウインクします。
「恐竜を呼ぶ笛を使ったからだよ。恐竜公園で住むためには、恐竜たちと仲良くた方がお得だから、金と時間をはたいて仲良くしていたの。それより、さっさと逃げよっか。みんな、この子の首をつかんで」
みんなが首を掴むと、ブラキオサウルスはのっそりと顔をあげました。暗く水の流れる鍾乳洞をぬけると、明るい地上へと抜けました。
リンちゃんと咲音ちゃんは、手を取りあって喜びます。
「やったー! 出れたわよ!」「ええ! 脱出成功! ですわ!」
眼下では、魔物たちと恐竜たちが戦っています。恐竜の方が優勢のようで、次々と魔物を赤い霧へと散っていきます。
劉生君はキラキラと目を輝かせます。
「わあ! すごい!! あの恐竜さんも、李火君が呼んだの?」
「まあね」
「わーいわーいありがとう!!」
あとは魔王を倒すだけです。
「ようし、それじゃあ李火君! ここからおろしてもらってもいいかな? 魔王倒してくる!」
「あの中に飛び込むの?」
李火君は不安そうにしています。
「魔物にやられるか、恐竜に潰されるんじゃないの? その間に社長が反撃してくるかもしれないよ」
「うっ……」
恐竜をよけながら魔物と戦うのは結構大変ですし、うっかりつぶされたら痛いなんてレベルではありません。
しかし、だからといって他の方法も浮かびません。リンちゃんは唇を尖らせます。
「だったらどうすればいいのかしら。こんな遠くからじゃ魔王がどこにいるか分からないし……」
すると、みつる君がにっこりとはにかみました。
「それなら俺に任せて!えいや、<レッツ=クッキング>!」
黄金の光とともに、現れたのは小さな紫色の果物です。
「はいどうぞ!ブルーベリー!」
みんなはパクリと口にいれました。酸っぱいのが苦手な義人くんこそ目をしかめます。
「ん……。すっぱい……」
「そうですか?」
咲音ちゃんは一粒一粒丁寧に摘み取り、せっせと食べていきます。
「うんうん。とても美味しいです!甘味と酸味がちょうどいいです!」
「うっ……。そうですか。ブルーベリージャムは好きなんですがねえ……」
「そうですか!それなら、わたくしのお家に、とっても美味しいブルーベリージャムがありますよ。今度食べに来てはいかがですか!」
「本当ですか!わあ!」
李火君は呆れたように二人を見ます。
「君たち、一応ここ戦地だよ?わかってる?ブルーベリー食べてる余裕ないでしょ?」
「ところがどっこい!」
みつる君は胸をはります。
「あれはただのブルーベリーじゃないよ。ブルーベリーの良いところをみんなの力にする魔法だからね」
「……まさか!」
吉人君が察したと同時に、劉生君がビックリした声をあげます。
「わあ!すごい!みんなみんな!目が!目が!」
「どうしたの、リューリュー!?目がつぶれた!?」
「違う!よくなったんだ!!」
「よくなった?……わっ!本当だ!!」
さっきまでは動物の姿が何となくわかるくらいしか見えませんでした。しかし、今では下の様子がしっかり見れます。なんなら一枚一枚の鱗だって見れます。
ブルーベリーには、目に良い成分が含まれていると言われています。そのおかげで、みんな目がとても良くなったのです。
メガネっこ吉人君も、例外ではありません。
「すごい……。こんなに視力がいいのは生まれてはじめてです」
これなら、小さい黄色のヘビ、レプチレス魔王も見つけられます。
「ようし、どこかなーどこかなー。……あ!」
劉生君は、パッと表情が明るくなりました。
「あそこだ!!李火君李火君!あそこに下ろしてくれる?」
「……そうだねえ。けど、ただ下ろすだけだったら、レプチレス魔王に気づかれちゃうよ」
だから、といって、李火君はウインクをします。
「落ちてみる?」「……へ?」
李火君はにこやかに微笑みます。しかしその笑みは、どこか黒さがあります。彼は劉生君に何かを手渡すと、ドンっと蹴っ飛ばしました。
「……ふぇ? わ、わああああああああ!!」
劉生君は真っ逆さまに落ちていきます。
「ちょ、リューリュー! あんた、なにしてくれてんの!?」
リンちゃんは胸倉掴んで怒鳴ります。吉人君たちも顔を真っ青にさせて下をのぞきます。普通に考えたら、ここから落ちて無事でいるはずはありません。早く助けなくてはなりません。
「わ、わたくしが鳥さんをお呼びします! えーっとえーっと、早く飛べる鳥さんは、」
図鑑をめくる咲音ちゃんを、李火君は制止します。
「そんなことをしなくても大丈夫。ほら、見てみて」
なんとなんと、劉生君は地面にぶつかってはいませんでした。
それどころか、なんとなんとなんと、羽が生えていました。劉生君の背中には、トンボのような半透明の羽が生えています。
「なにあれ……?」
ポカンとするみつる君に、李火君はいたずらっぽくウインクします。
「コハクの力だよ」
「コハク……? さっき赤野っちに渡してたあの宝石の力?」
「そうそう。あの石の中に入ってる虫の力かな。そのおかげで飛べるの」
補足をしますと、コハクは樹脂がぎゅっと固まって出来た化石です。まるでべっ甲飴のような、透き通った黄色をしています。
特に、中に虫が入っているものは貴重で、高いお値段で取引されます。
さらにミラクルランドでは、コハクの中に眠っている虫の力を借りることもできるのです。
最初こそ戸惑っていた劉生君でしたが、しだいに扱いに慣れてきました。
「ようし、」
『ドラゴンソード』を握り締め、劉生君は降下をしていきます。
向かうは、黄色のヘビのもと。
レプチレス魔王の元です。
〇〇〇
突然の恐竜襲撃に、兵士たちは驚き慌てふためます。
レプチレス魔王は兵士たちに怒声を浴びせかけます。
『くっ! 恐竜くらいでパニックになるとは、兵士失格だぞ……っとお!?』
魔王は石のかげに急いで逃げます。魔王がいたところに、恐竜やら爬虫類やらがドカドカと往復します。ほんの少し逃げるのが遅ければ、ぺたんこペラペラになっていたことでしょう。
『全く!! おい部長! さっさと治めろ!』
コモドオオトカゲは尻尾をぷりぷり振って声を張り上げます。
『こらー。お前たち―。止めるッスー!』
本人は必死ですが、性格でしょうか、口調のせいでしょうか、真剣みが感じられません。魔王は思わず怒鳴ります。
『もっとまじめにやれ! 降格するぞ!』
『そんな! それだけはご勘弁を……。わ、わあ? 社長! 社長!』
『社長社長じゃない! 用件があるなら端的に述べろ!』
『端的!? えーっと、端的にいうと、社長まじ危ないッス』
魔王は『社会人ならどう危ないのかをしっかりと述べよ』と叱責しようとしました。しかし、背後に誰かの気配を感じ、口を閉ざして振り返ります。
もしや恐竜か、またもや味方がうっかり蹴っ飛ばしにきたかと思っていましたが……。
『……あ、』
そこにいたのは、劉生君でした。
「よっとっと。えーっと、どうも、魔王さん! 勝負!! ていや!」
『ドラゴンソード』をぶんっと振り下ろします。
魔王は抵抗もできずに攻撃をくらいました。
そして。
赤いチリとなって消えました。
劉生君は塵を見つめ、ぽかんとして呟きました。
「え、はや……」