29 逆転開始! ここは恐竜公園です!
恐竜公園は恐竜がのんびりと闊歩する、落ち着いた雰囲気の場所でした。ですが、今では恐竜以外の爬虫類たちが出そろっていました。
大地を踏み鳴らすのは、巨大なワニやカメの大群です。低く唸り、好戦的に歯を鳴らし、目はぎらぎらと赤く輝いています。
軍団の先頭に立つのは、意外や意外、小さな黄色いヘビでした。劉生君たちに見せていた軽薄な空気は消え失せ、狡猾な光が目の奥で見え隠れしています。
彼の元にドタドタと走ってくる爬虫類がいました。
『社長! レプチレス社長!』
細長い舌をちろちろ出して、一匹の爬虫類、コモドオオトカゲは満面の笑みを浮かべます。
『うまくいったッスね! これであの子供たちも一網打尽ッス! それもこれも、オレッチの頑張りのおかげッス!』
『やかましい』
ぎろりと睨みつけると、コモドオオトカゲは『ひええ!』と情けない悲鳴を上げて、ひっくり返ります。
彼の姿からは、王たる威厳を一切感じません。
『全く、お前のような奴を王に仕立て上げたのが間違いだったな……。お前があの四人の小僧たちを騙せなかったせいで、あの鍾乳洞を潰す羽目になったんだぞ』
鍾乳洞の岩石に映像を流すよう仕掛けるだけでも、かなりの魔力と魔法道具を使わざるをえませんでした。さらに、魔力を奪い、意識を奪う水を用意するのも苦労した上に、金が異様にかかってしまいました。
冷たい目で見下していると、コモドオオトカゲは頭を地面にこすりつけて決死の思いで謝罪を繰り返していました。
『社長、申し訳ねえッス! 許して下せえッス!!』
『……はあ。今回は許す。ワタシの責任もなくはないからな』
劉生君を捕らえることが出来ず、その上、劉生君と橙花ちゃんを切り離せなかったのは、魔王の失敗でした。
『あの小僧、あんなに頑固で諦めの悪い奴だったとはな……』
赤ノ君の依り代にすぎないと思っていましたが、実際はかなり面倒で扱いにくい男の子でした。
『信頼する、ねえ。よくあの子を信用できるものだ。……まあいい。ここであいつらの旅も終わりだからな』
『ええ! あと十分と二十五秒で終わりッス!』
魔王レプチレスとコモドオオトカゲの視線の先は、草木が一切生えていない、地肌がむき出しになっている一角がありました。
一角を囲むように鉄のオリが張り巡らされており、さらにその周りを兵士たちが取り囲んでいます。
『恐竜よけの笛も吹いたことですし! こんなに兵隊を集めたし! 完璧ッスね!』
『ああ。時が過ぎ、水を抜いたら、一斉に鍾乳洞へ突撃せよ』
『うぃッス!! あそこの鍾乳洞は中からだと穴開けられないッスが、外からだとラクチンで壊れるッスからねー。楽でいいッスねー。うんうん、楽なのは良いことー』
やる気は十分だが、まだ時間があるせいか、どこかのんびりとしています。他の魔物たちも、どこか落ち着いています。
レプチレス・コーポレーションの一員たるもの、常に緊張感を持って職務に取り組むべきだと、レプチレス社長は叱りつけようとしました。
しかし、それは叶いませんでした。
突如として、高音の笛の音がしました。
『……? なんですかねえ?』
コモドオオトカゲは首を傾げます。
『もしかして、あの子供たちが切羽詰まって笛でも吹いてるんッスかねえ? にしても喧しいッス!』
『……いや、まて』
魔王レプチレスは目を細めます。
『……この笛の音。……まさかっ!』
彼が兵士に命令を出そうとしましたがその前に、どこからか地響きが聞こえてきました。兵士たちは驚き慌てます。
『なんだ、なんだ!』『地震か!?』
コモドオオトカゲはキョトンとした顔をします。
『あれれ? 社長、振動装置を起動させたんですか?』
『そんなことはしない! 無駄にあの装置を動かす経済的余裕はない! いいからさっさと動け!』
『……ふぇ?』
兵士たちの頭上に影がさしました。雲でも流れてきたか、いやここは地下の世界だからそんなこともなかろうと、上を見上げました。
そこにいたのは、巨大な恐竜、ブラキオサウルスでした。
『……へ!? なぜッスか!? 何故ッス!? 恐竜よけはしてるはずッスよ!?』
一匹だけではありません。
肉食獣から草食獣まで、数多の恐竜が押し寄せてきたのです。
混乱を極める兵士たちの中で、魔王レプチレスは舌打ちをします。
『やはりそうか。あの笛の音は恐竜を呼ぶ笛。しかも不特定多数の恐竜を呼べる笛か! 全軍! 恐竜に攻撃せよ!! 決してオリに近づかせるな!!』
だがしかし、突然の恐竜の来襲に皆は戸惑い、混乱し、四方八方に逃げ惑いました。魔王の怒声も残念ながら届きません。
そしてついには、ブラキオサウルスは鉄のオリをふみつぶし、地面をかちわったのです。