28 絶体絶命の危機! 信じて、やってみよう
魔王には逃げられ、水かさは増えていく一方です。
このままでは魔力も意識もなくなり、魔王に好き勝手なことをされるに違いありません。
「よ、ヨッシー! どうしよう! 何か案ない!?」
リンちゃんは良い案がないかと吉人君に縋りますが、彼は彼で焦って慌ててアタフタしていました。
「ど、どうしましょう。水位が上がりきってから、僕たちが落ちてきた穴から抜けましょうか。……いや、その前に気絶してしまいますね……。えっと、えっと、」
と、ここで、みつる君がある提案をします。
「そうだ! 咲音っち、飛べる動物を召喚できる?」
「えっと、できますけど、魔法は使えませんし」
「いつでも召喚できるように準備しておいて! それから道ノ崎っち! 咲音っちを肩車できる?!」
リンちゃんはすぐに咲音ちゃんを肩車しました。不思議な水に触れていないおかげでしょう、咲音ちゃんの力がわきあがってきました。
「これならいけます! おいで、わたくしの大好きな子、<ウミネコ>ちゃん!」
桃色の光を帯びた海鳥ウミネコが出てきました。身体は白いですが、羽の先っぽは黒くなっています。
「<ウミネコ>ちゃん! わたくしたちを乗せてください!」
ミャアミャアと鳴くと、李火君含め、劉生君たちみんなを背中に乗せて飛んでくれました。
リンちゃんはキャッキャと喜びます。
「これで魔法が使えるわね! ようし、それなら! <リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>!」
凝縮した雷の球を壁にぶつけました。ですが、壁には傷一もつきません。
「なら僕も!」
劉生君は『ドラゴンソード』で壁を切りますが、やっぱり穴は開きません。
「ええい、しぶといわね。リューリュー! 協力して壊すわよ! いっせーの、せ!!」
リンちゃんと劉生君が協力して魔法を使いますが、びくりともしません。他の子の手も借りましたが、結果は同じでした。
その間も水は増えていきます。
「ふぇえ、どうしよう……」
劉生君は涙してしまいます。
「そうですわ!」咲音ちゃんは上を見上げます。
「わたくしたちが落ちてきた穴を通ればいいのかもしれませんよ! <ウミネコ>ちゃんなら、飛んで通れますよ!」
しかし、吉人君は首を横に振ります。
「いえ、僕もそう思ったんですが、あそこ、見てください」
吉人君が指さす先には、ごつごつとした石の天井がありました。吉人君の言わんとすることを察したのでしょう、みつる君は息をのみました。
「俺たちって、あそこから落ちてきたはずだよね!」
「ええ。僕たちはあそこから出てきたはずですが、どこにも穴はありません。閉じてしまっているんです」
吉人君は苦々しげに吐き捨てます。
「……逃げ場はないようです……」
みんなは口をつぐんでしまいます。聞こえるのはウミネコの鳴く声と、水が流れる音です。しばらくは持ちこたえるでしょうが、それも時間の問題でしょう。
「……ううっ、」
劉生君は涙があふれ、鼻もぐずぐずしてしまいます。
こんなとき、橙花ちゃんがいてくれたら、何か案を出してくれるに違いありません。「ボクに任せて」と言って、劉生君たちが思ってもみない方法を思いついてくれるでしょう。
藁にもすがる思いで、橙花ちゃんを下ろし、軽く叩いてみました。
「橙花ちゃん、橙花ちゃん……!」
橙花ちゃんは目を覚ましません。
「……」
ここで、劉生君は思い出しました。
ゲームセンターで大勝利を収めた後に、みんなで買い物をしました。そのときに、眠気がふっとび、目が覚める酸っぱいグミを購入しました。
これを橙花ちゃんに食べさせたら起きるんじゃないかと思いましたが、李火君に「厳しい」と否定され、涙ながらにポケットの底に封印したのです。
もしかしたら、あのグミを使うのは今かもしれません。
劉生君はポケットの底からグミを引っ張り出しました。
そのままグミを橙花ちゃんの口の中に入れようとしますが、寸前でぴたりと止まりました。
ムラにいる男の子、友之助君とみおちゃんのことが頭をよぎったからです。
ムラから出るとき、みおちゃんは元気よく、友之助君は心配そうに、劉生君にこうお願いしたのです。
橙花ちゃんのことをよろしく、と。
二人は劉生君を信じて、橙花ちゃんのことを託してくれたのです。
……それなのに、劉生君は橙花ちゃんに頼りっ切りです。今だって、橙花ちゃんさえ起きたら、この状況も打破できるし、魔王だって倒してくれるだろうと思っているのです。
橙花ちゃんのことを信じているといったらそれまでですが、逆にいうと、友之助君とみおちゃんの信頼を裏切ってしまっているのです。
それでは、駄目です。
もっと、もっと自分で考えてみないと。
劉生君は頑張って考えます。
考えて考えて、考えて、
ふと、気絶している李火君が視界に入りました。それと同時に、友之助君の言葉を思い出しました。
友之助君は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも、こう言いました。「レプチレス・コーポレーションに山崎李火って奴がいるはずだ。そいつを頼ってみるといい」、と
。
今までの李火君は、本物の李火君ではありませんでした。
それなら、まだ劉生たちは本物の李火君を頼ってはいないことになります。
「……ええい!」
友之助君を信じてみよう!!
劉生君はえいや! とグミを李火君の口に放り込みました。
その瞬間、
「すっぱ!!!!!!!!」
正真正銘の山崎李火君が飛び上がりました。
「李火君!!」
劉生君は彼の手をぎゅっと握りました。
「ここからどうやって逃げればいいかな!?」
「……」
李火君は劉生君を見て、リンちゃんたちを見て、迫りくる水とすべすべの鍾乳洞を見て、未だ眠り続ける橙花ちゃんを見ました。
「……どういう状況か説明してほしいところだけど、まあ、無理だよね」
小さくため息をつくと、李火君はぎろりと劉生君を睨みました。
「そこの泣き虫無神経泥棒子ども!」
「ひどい暴言!? 僕は泥棒なんてしてな」
「笛返して」
「ふ、笛? これ?」
劉生君が木製の笛を返すと、李火君はすぐにホイッスルをくわえる、思いきり息を吹き込みました。
あんな小さい笛に出るとは思えない、凄まじい高音・爆音・騒音です。みんなは慌てて耳を塞ぎます。
「ちょっと! うるさいんだけど!」
リンちゃんは叫び、劉生君は呻きます。
「うぐ……。ただの飾りの笛なのに、すごい煩い……!」
「ただの飾り?」
李火君は笛から口を離します。
「どこで聞いたかは知らないけど、これはただの笛じゃないよ。これはね、」
ドンドン、と音がすると、天井が揺れました。
みんなが上を向いたその途端、
「わあ!!」
「て、天井が!!」
天井が崩れ、何かがひょっこり顔を突っ込んできました。
「あ、あれは……!」
吉人君は歓喜の叫びをあげます。
「首長竜、ブラキオサウルス!!」
「あの子だけじゃないよ」
貫いた穴からは、たくさんの種類の恐竜が顔をのぞかせていました。