25 出口を探せ! 意地悪なカラクリ扉!
相変わらず鍾乳洞は息を飲むほど美しく、神秘的な雰囲気でしたが、そんな風景に現を抜かす余裕はありません。
背負っている橙花ちゃんの重みをひしひしと感じながら、二人は黙々と鍾乳洞を歩いていきます。
それから数分でしょうか。劉生君と李火君は行き止まりにたどり着きました。
「えっと……。李火君、道を間違えちゃったの?」
「いや、確かにこの道だったはずなんだけど……」
李火君はペタペタと壁を触ります。劉生君も真似をして、冷たい石を撫でてみました。よくアニメや小説であるような、隠しスイッチでもないかと探しますが、そんなものありません。
李火君には悪いですが、やっぱり違う道に進んでしまったに違いありません。どこかに脇道があるかな、と一・二歩あるくと、石を踏んだ感触がありました。
何か踏んだのかな? と下を見ようとすると、目の前の壁から唸るような地響きがしました。びっくりして壁をみると、離れた箇所の壁が左右に割れ、人が一人通れる出口が開きました。
「やった! 出口! 李火君、出口だよ! なんか出てきた!」
劉生君はキャッキャとはしゃぎ、出口をくぐろうとしました。ですが、劉生君が出口に向こうとした途端、扉が閉まってしまいました。
「……あれ?」
先ほどまで開いていた場所をコンコンとノックしますが、再び開く様子はありません。劉生君が首を傾げていると、李火君はしばし思案にくれます。
「……ねえ、劉生君。少しいいかな」
李火君は劉生君の手を取ると、扉が開いた時に彼が立っていた場所に連れていきました。またまた何か踏んだ感触を覚えると、再び出口が開きました。
「あっ! 開いた!」
今度は走って向かいますが、すぐに閉まってしまいます。
「あっ、閉まっちゃった……。ねえねえ李火君。どうやって開けたの」
「多分だけど、」
李火君は地面のある個所を指さします。
「そこに立ったら、開くと思う」
「ここ?」
もう一度そこに立ってみると、簡単に扉が開きました。
「本当だ! 開いた!」
しかし、李火君が代わりに乗ってみましたが、扉はびくともしません。
「……あ、あれ? 開かない……?」
「重さが足りないのか、それとも上に立っている人の魔力で開くのかも」
李火君は小柄な男の子です。何なら、みおちゃんよりも小さいくらいです。それに魔法もうまく使えないと言っていましたのでどちらもありえそうです。
「んー。だったら、僕が上に乗っておくよ! その間に李火君が出ていいよ! それから僕が付いていく……あれ、できない!? ついていけないじゃん!?」
劉生君が気づいたとおり、彼がその場を離れてしまうと魔法の扉は閉まってしまうのです。劉生君はむう、と悩みます。
「どうしよっか……」
「……もしかしたら……。ねえ、劉生君。少し試してみたいんだけど、いいかな?」
李火君は劉生君たちよりも年下さんですが、吉人君のように冷静な男の子です。劉生君では思い付けない、いい案が浮かんだのかもしれません。
期待して返事を待つ劉生君でしたが、李火君の妙案は実に変わったものでした。
「蒼おねえちゃんをそこに下ろしてほしいんだ」
「橙花ちゃんを? けど、橙花ちゃんの服が汚れちゃうよ」
「いいからいいから」
「……うーん。わかった」
よくわからないまま、指示通り橙花ちゃんを下ろします。
「そのまま、こっちに来てくれる?」
「う、うん」
言われるがまま李火君のそばにいくと、魔法の扉は閉まらず、開いたままになっていたのです。
「あれ? どうしてだろう」
「蒼おねえちゃんの魔法に反応してるか、……その、体重のおかげかな」
「あー。そっかそっか。それなら、重そうな石を探してここに置けばいいのかな」
どこにあるかと、キョロキョロしてみます。しかし、良さげな重しは見つかりません。
「うー、みつからないなあ」
李火君は小さく首を横に振ります。
「たぶん、ここには重しになれるようなものは落ちていないと思う」
ちらりと、天井から生える白い岩石を見ます。
「これが取れるならいいんだけど、厳しいかな。魔法がこもった石だから、並大抵のことじゃ壊れないと思う」
「そっかあ……。残念……」
「……だからさ、劉生君」
李火君は非常に言いづらそうに答えました。
「……蒼おねえちゃんをここにおいていこうよ」