24 見せつけられる映像、鍾乳洞の罠!
ツルハシで入り口をもう少しだけ広げてから、二人で洞窟にもぐります。他の道と比べると舗装されておらず、ランタンの光も最低限しかありません。
足元に注意しながら慎重に進みますが、微妙に上り坂になっているせいでしょうか、劉生君はちょいちょいこけそうになります。
「わあ! うう……。危ないなあ。李火君、気を付けてね!」
「ああ、うん。気を付けるよ」
ちなみに、李火君は一度もつまずきはしません。劉生君が振り返るたびに人の良い笑みを浮かべ、こちらを見ていないときは耳にあてたイヤホンで部下からの報告に耳を傾けています。
もちろん、劉生君は李火君がそんなことをしているとは気づかず、リンちゃんたちがどうなっているかも知りません。
早く上に戻りたいなあ、橙花ちゃんを早くベットに寝かせてあげたいなあと思いながら、ただひたすら前に前にと進んでいます。
くねくねとした上り坂をしばらく歩くと、先の方にほのかな光が見えてきました。太陽の光というよりかは、蛍光灯の白い光です。
「やった! 出口だね!」
きゃっきゃと喜ぶ劉生君でしたが、残念ながら出口ではないようです。李火君は首を横に振ります。
「ううん、あそこは地上じゃなくて、鍾乳洞だよ」
「しょうにゅうどう……? テレビで見たことあるような気がするけど、あんまり覚えてないなあ」
「すごくきれいなところだよ。ただ、ミラクルランドの鍾乳洞だから、とある魔法がかかっているんだ」
どんな魔法かと尋ねてみますが、李火君は「行ってからのお楽しみ」といって、唇に人差し指をあてます。
「きっと、劉生君が気に入る魔法だよ」
「へえー! どんな魔法かなあ」
わくわくしながら、劉生君は白い光の先に向かいました。
鍾乳洞に一歩足を踏み入れた途端、空気が一変しました。
先ほどまでの道は塗れた土の匂いが充満していましたが、鍾乳洞はすっきりとした、清潔な空気でいっぱいでした。
風景も全く違います。氷柱のような白い岩石が天井いっぱいに生えています。劉生君たちなら難なく下を通れますが、大人や背の高い爬虫類はすり抜けることさえ難しそうです。
「綺麗……。なんだか元気になってきた気がする。もしかして、元気になれる魔法がかかってるの?」
「あー、いや。違うよ。ここの魔法は……」
がちゃん、と。
劉生君の後ろで重いものが落ちる音がしました。振り返ると、なんと劉生君たちが通ってきた入口が閉じてしまったのです。
「な、なんだって! これが鍾乳洞の魔法!? 閉じ込められちゃった!!」
「いや、予想外だったけど、それも違うよ。そうじゃなくて、」
白い石が一斉にちかちかと輝き始めました。劉生君はビックリしてすっ転びます。
「わあ!? 次から次へと!!」
「鍾乳洞の魔法が発動したんだ。この石をよく見て。何か映るから」
「そうなの? うむむー」
目を凝らしていると、李火君のいう通り、すべすべの鏡面に人影が映りました。誰だろうかとじいっと見ていると、劉生君は「あっ!」と声をあげました。
「橙花ちゃんだ! 橙花ちゃんが映ってるよ! ほら見てみて。青い角が生えてるよ!」
「本当だ。それに、劉生君たちもいるよ」
「わっ! 僕がいる! ……でも、倒れてる……?」
劉生君だけではありません。リンちゃんや吉人君、咲音ちゃんやみつる君がいます。しかし、みんながみんな倒れてしまっています。唯一立ってるのは橙花ちゃんと、トリドリツリーの魔王トトリだけでした。
風景までは映っていませんでしたが、おそらくトリドリツリー最上階でしょう。
つまり、これは劉生君が気絶している間の映像だと、劉生君は気が付きました。李火君にそう教えると、彼は興味深げに石を眺めます。
「へえ。そういえば、劉生君たちはどうやって魔王トトリを倒したのか分からないんだよね。この映像を見たら真相が分かるかもしれないね」
劉生君は頷き、食い入るように映像を見つめます。
その後ろで、李火君は口元を緩めます。
それもそうでしょう。この映像は、先ほどリンちゃんたちに見せていたものと同じく、橙花ちゃんが劉生君を傷だらけにするものでした。
劉生君も、最初こそ真剣に見ていましたが、段々と顔が青ざめていき、ついにはぶるぶると震えてしまいました。
「……劉生君……」
李火君はためらいがちに口を開きます。
「この鍾乳洞はね、真実を映し出す魔法がかかっているんだ。だから、この映像は本当のことなんだと思う」
「そ、そんな……」
劉生君は悲鳴を上げるように叫びます。
「そんなわけないよ! 橙花ちゃんがひどいことをするわけないもん!」
「……劉生君の気持ちも分かる。だけど、……これが真実だよ」
「絶対違うもん!!! 絶対に!!」
「……」
劉生君の駄々ごねに、李火君は何も応えてくれません。
言葉で返されるよりも無言で返される方が、「これが真実だ」と叩きつけられているような気がしてしまいます
「……」
劉生君は握った拳を下ろします。石は最後まで映像を流すと、電源が切れたように静かになりました。
鍾乳洞は沈黙に包まれます。
沈黙に耐えかねて、李火君は軽く劉生君の肩を叩きます。
「行こう、劉生君。どの道、ここからは出られない。先に行かないと、リンちゃんたちとも合流できないよ」
「……」
本当は動けるほどの気力はありません。けれど、……進まなくては、どうしようもありません。
劉生君はとぼとぼと歩を進め、李火君の後についていきました。