23 こんなタイミングですが、発掘のお時間です
劉生君と李火君はリビングに戻ります。片手にはドロップ、片手にはジュースを持っています。
「ねえねえ、李火君。ドロップは何味食べる? 僕のおすすめはねえ、オレンジ味! 美味しいよ!」
「それじゃあ、オレンジ味もらうよ」
「あっ! ごめん。オレンジ味全部食べちゃった。オレンジジュースでもいい?」
「……うん、いいよ」
頭をかかえながら、李火君はヘビが入った瓶を手に取ります。ヘビは首をあげて、じっと李火君を見つめます。
その瞳からは、今までの軽快な雰囲気は微塵も感じられません。
それもそうでしょう。黄色のヘビは子供たちを欺くため、コモドオオトカゲのふりをしていたのです。
今やその必要もありません。
「……」
劉生君にばれないよう、李火君は瓶の封をちぎります。ヘビは瓶の中から抜け出すと、家具の隙間に滑り込みます。
もう一度瓶をしめると、布をかぶせます。
「そうだ、劉生君」
「んー?」
リンゴジュースをチューチュー吸いながら、劉生君は返事をします。
「美味しそうなジュースだね。劉生君はリンゴが好きなの?」
「んー」
ストローから口を外して、劉生君は嬉しそうに返事をします。
「好きだよ! けどね、オレンジジュースも好きだし、ピーチジュースも、」
好きだ、と答えようとしましたが、残念ながら返事できませんでした。突然、地面がぐらぐらと揺れはじめたからです。
「わあ! じ、地震!?」
机の下に潜り込もうとする劉生君を、李火君は制止します。
「この家は揺れに弱いから、外に出た方がいい!」
「え? そうなの? だ、だったら橙花ちゃんも連れて行かないと!」
「ごめん、劉生君、お願いする!」
劉生君は急いで寝室へかけていき、橙花ちゃんを背負い、李火君と一緒に外に飛び出します。その間も地面は揺れ、劉生君はこけそうになります。
外も外で、恐竜たちが戸惑い逃げ惑っていました。恐竜に踏まれてしまう恐怖に、劉生君は涙目になってしまいます。
「うう……。リンちゃん、みんな……」
「頑張って、劉生君」
「う、うん……」
李火君に励まされ、劉生君は必死に足を踏み出します。
ですが、劉生君の勇気をあざ笑うかのように揺れは強くなり、劉生君の足元に亀裂がはしりました。
「ぎゃあ!」
亀裂は人一人が飲み込めるほどの大きさでしたが、間一髪で避けました。
「ふう。よかった」
ほっとして肩を下ろします。
……が、しかし。
とん、と。劉生君の背中が優しく押されました。
「……へ? わ、わあああ!」
劉生君は亀裂の中に落ちてしまいます。
「あいた! いててて」
運がいいことに、落ちた崎はふわふわの砂でしたので、そこまでの衝撃はありませんでした。
劉生君についで、李火君も落ちてきます。
「いたたた……。劉生君、大丈夫!?」
「うん。なんとか。李火君は怪我ない?」
「すり身くらいかな」
地面の揺れは段々収まっていき、止まりました。李火君は慎重に立ち上がると、遠く高い地上を眺めて、ため息をつきます。
「これは……。戻れなさそうだね」
ぐっと手を伸ばしても、もとの場所には届きません。李火君と劉生君が肩車しても届きません。なんなら、リンちゃん吉人君みつる君咲音ちゃんで肩車しても届かないことでしょう。
劉生君は李火君の周りをオロオロと動きます。
「どうしよう。リンちゃんたちが帰ってくるまでこのままかな」
「それもいいけど、俺らだけで道を見つけられるかもしれないよ」
土の壁を軽く叩いてみます。頑丈そうで、すぐには崩れなさそうです。
「よし、これなら掘れそう」
李火君は腰にくくりつけていたバックを広げると、手のひらサイズのキーホルダーを取り出しました。
どうやらツルハシのようです。李火君はツルハシの細い持ち手をつまむと、軽く振り下げます。すると、キーホルダーは赤く輝き、本物のツルハシの大きさになりました。
「わあすごい! 大きくなった!」
劉生君はキラキラと目を光らせます。
「かっこいい! 僕もやりたい!」
「それじゃあ、はいどうぞ」
ツルハシのキーホルダーを李火君のように振ってみると、こちらもこちらで大きくなってくれました。しかも、ツルハシの刃の部分が透明な宝石、ダイヤモンドで出来ていました。
「おお! かっこいい!!!」
「ふふ、ならよかった。それと、ヘルメットかな」
バックの中からヘルメットを取り出すと、劉生君の頭にかぶせてくれました。李火君は腕時計型のコンパスをちらちら見ながら、ある方向をゆび指します。
「あっちの方向に道があるんだ。そこまで掘っていったら、俺ら二人だけでも帰れるよ。危なそうだったら引き返して、ここでリンちゃんたちを待とうか」
劉生君はすぐに頷きます。
「うん! 僕、掘ってみたい!」
橙花ちゃんが寝込んでいたこともあって、発掘するタイミングはありませんでしたが、できることなら自分も発掘してみたいと思っていました。
李火君はほほえましそうに眼を細めます。
「そっかそっか。それなら掘ってみよっか」
「うん! よーし、いくぞー! せいやっ!」
試しにツルハシを振ってみると、心地よい手ごたえがかえってきました。固い土も難なく削れます。
コツコツ掘っていると、石壁が見えてきました。土のようには簡単に掘れませんので、力いっぱい石を削っていきます。
「カントン、カントン! 道はどこだろー!えいや、えいや!」
ぶんぶん、とツルハシをふるいます。さすがすさまじい魔力を持つ劉生君です。李火君もびっくりするくらい早く掘り進んでいき、
「とうや! あれ? 李火君! なんか道に出たよ!」
あけた場所に出てきました。李火君がひょっこりのぞき込み、ほっと安心したようにはにかみます。
「よかった、この道だったら、上に繋がっているよ」
「ほんと! よかった。それじゃあ行こう! リンちゃんたちが帰ってくる前に戻らないとね」
「うん、そうだね」
李火君は微笑みながら頷きました。